隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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同じ料理でも「隣の人より美味しく食べる」には?

 僕は、常に「隣の人より美味しく食べたい!」と考えている。隣の人が注文したものより高価なものをオーダーする、といったことではない。同じ店で同じ時に同じ料理を注文して、同じ代金を支払うとしても、隣のお客さんより美味しく食べたいと思っている。
 ここで、「同じ店の同じ料理だったら同じでしょ」とツッコミを入れる人は、人生の8%くらい損していると思う。いやいや、違うんです。
 たとえば、店で食べていて、同じ料理を注文したのに、隣の常連客に自分より美味しそうなものが出たり、自分の皿には入っていないものが出ていた、といった経験はありませんか? そう、店は客によって出すものを変えることがあるのだ。
 魚が1尾しかなくて、それを切り分けて出すとしたら、店は一番いいところは常連客に出し、一見の客にはその残りを出す。これは当然のこと。
 初めて行った店で「常連客にばかりいいものを出している。差別だ!」と文句を言う人がいるが、それは間違っている。店にしてみれば、長年通ってたくさんお金を使ってくれた客を優遇するのは当たり前。これは「差別」ではなくて「区別」。いい思いをしたければ、足繁く通って常連になればいい。
 ただ、実は常連にならなくても、場合によっては初めて行った店でも優遇してもらえる可能性はある。実際、僕は初めての店でも優遇してもらえることが多い。それはdancyuの編集長だから、といったことではなく、"食いしん坊力"を発揮するから。具体的な発揮の仕方は、予約から店での注文の仕方、料理人との会話の仕方など多岐に渡るので、また別の回で改めて紹介するが、こうしたことによって、僕は隣の人より美味しいものにありつけている。
 もう一つ、同じ料理でも、食べ方によってその味わいは全く異なる。
 たとえば、ナポリタン。みなさんはどうやって食べますか? いきなり粉チーズとタバスコを全体にかけて食べたりしていませんか? そうすると、最初から最後までほぼ同じ味わいになってしまう。
 僕は、ナポリタンが運ばれてくると、まず形状と状態を確認する。パスタと具の混ざり具合などを見て、どこから食べるのが最適か、瞬時に判断するのだ。その上で、まずは何もかけずにパスタだけを食べて、味わいを確かめる。そのうえで、粉チーズやタバスコが必要かどうか、必要であればナポリタンの味わいを最大限に引き出すにはどの程度必要かを考える。
 しかし、粉チーズやタバスコを、皿に盛られたナポリタンにそのままかけるような無謀なことはしない。それでは口の中に粉チーズの味が広がってしまう。だから、まずはフォークに粉チーズをふり、それでパスタを巻いて食べる。こうすると、最初にナポリタンの味、その後から粉チーズの味が追いかけてくる。タバスコも同じだ。これを僕は"インサイド食べ"と呼んでいる(パスタをフォークで巻いてから粉チーズやタバスコをふるのは"アウトサイド食べ"と呼んでいる)。
 アホらしい、と思う人が多いと思うが、一度試してみてほしい。絶対ナポリタンの味わいが変わり、同じ味わいで食べ飽きる、といったことがなくなるから。
 あるいは、天ぷらを塩で食べるときどうしますか? 箸で天ぷらを持って、小皿に入った塩につけてそのまま食べていませんか? そうすると、口に入れると舌にまず塩がついて、塩味が広がってしまう。
 だから、僕は指で塩をつまみ、天ぷらの上にふって食べる。こうすると、口の中に入れたときに、天ぷらの味わいを感じ、その後から塩気が広がる。
 寿司でも焼肉でも牛丼でもピザでも、あらゆる料理は食べ方や調味料のつけ方をちょっと変えるだけで、味わいが全く異なるし、上手に食べれば美味しさがグンとアップする。同じ料理でも隣の人より美味しく食べることができるのだ。
 もちろん、「そんなの面倒臭い」と思う人は、好きな食べ方をすればいい。ただ、少なくとも、運ばれてきた料理に、いきなり調味料をドサッとかけるのだけはやめてほしい。「このラーメンは毎週食べていて味がわかっているからこれくらい胡椒をかけるんだ」などと豪語する人もいるが、同じラーメンだって、その日の麺やスープの状態、季節、料理人の体調などによって味は微妙に変化しているはず。まずはなにもかけずに一口食べてみて、それから胡椒をふってください。
 僕は、隣の人より美味しく食べたいと思っているが、同時に、隣の人がもったいない食べ方をしませんように、とも願っているので。


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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

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