隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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「美味しい食べ方」の5大ルール

 隣の人より美味しい思いをするために、自分なりの5大ルールがある。「舌を意識する」「犬歯を喜ばせる」「間接風味づけ」「温度差をつくる」「フィニッシュを決めておく」の五つ。
「舌を意識する」というのは、最初に舌に何が当たるのかを意識するということ。たとえば、みなさんは餃子をどうやって食べますか? 小皿に醤油、酢、辣油を入れ、焼き目がついた餃子の底面をたっぷりつけてそのまま口に入れたりしていませんか? そうすると、口に入れたときにまずタレが舌について、餃子の味を感じる前に、タレの味から感じてしまう。しかも、焼き目にタレをつけると、餃子の醍醐味である香ばしさが損なわれる。
 僕は、まずは餃子そのものの味を楽しみたいので、皮を舌に当てることを考える。最初の一口は何もつけずに(箸はつけるけど)、焼き面を上、ひだがついている方を下にして食べる。これで、まず皮の美味しさを感じ、それから具の味わい、焼き目の香ばしさと、それぞれピュアな状態で楽しめる。ちなみに、二口目は同じくなにもつけずに、焼き目を下にして食べる。まず香ばしさを感じ、その後から具や皮の旨味が追いかけてくるのだ。
 次はタレをつけるが、これも最初からタレの強い味が舌についてしまうと、その味に支配されるので、最初は、酢だけで食べる。次いで酢と胡椒、酢と辣油、酢と醤油、酢と醤油と辣油、という順番でタレを変化させる。これだけでも、一皿の餃子すべて違う味わいで食べられることになる。小皿が三つほど必要になるが。
 いずれもタレは焼き目ではなくヒダの方につけて、焼き目を下にして食べる。香ばしさを損なうことなく、タレの味に支配されることなく、餃子を美味しく食べるための基本中の基本だ。ちなみに、タレはちょっとつけるだけでヒダの間に染み込むのでつけ過ぎないように。餃子のヒダは、実はタレをつけるためにあるのだ。だぶん。
 この「舌を意識する」というのは、どんな料理でも共通の基本。最初に舌に触れた味に支配されるので、まずは素材や料理そのままの状態で舌に当てるように意識している。
「犬歯を喜ばせる」のは、特に肉を食べるときには重要なマイルール。ステーキや焼き肉、唐揚げ、生姜焼きなど、肉料理は犬歯で食いちぎるように食べる。
 今度、ステーキを食べるときに試してみてください。①ナイフで一口大に切って食べる、②一口で噛み切れないような大きさの肉を犬歯で食いちぎってから食べるーー②の方が美味しく感じませんか? ①の一口大にカットして食べると、そのまま奥歯で噛み締めることになるはず。もちろん、それでもじわりと肉の旨味が感じられるが、②のように犬歯で食いちぎると、肉の繊維をより強く感じ、歯茎で旨味を感じるような気がする。人間という動物の本能が喜ぶ旨さを感じるのだ。
 ただ、高級レストランやデートの際にこれをやると、店の人や相手に嫌われるリスクが高いのでご注意。
 繰り返すが、どんな料理も最初はそのままの状態で食べるのが基本。ただ、その後に味わいをさらにアップするためにちょっとした技を使うのが植野流。「間接風味づけ」のもそのひとつ。
 通常、途中で味わいに変化をつける場合には、メインの食材に調味料などを加えるのが一般的だ。たとえば鰻重を食べるときには、蒲焼に山椒をふるはず。しかし、それでは鰻の味わいが山椒に侵食されてしまうかもしれない。そこで、僕は蒲焼ではなく、ご飯に山椒をふり、その上に蒲焼をのせて食べる。鰻とご飯の間に山椒の香りと刺激が存在するので、ほどよいアクセントとなる。
 あるいは卵掛けご飯であれば、通常は卵に醤油を垂らして、かき混ぜてからご飯にかける。しかし、僕はご飯に醤油を垂らし、少し混ぜてから卵をかける。醤油の香りがついたご飯に味のついていない卵をまとわせるイメージ。これで、卵そのものの味を味わいつつ、ご飯と醤油との絶妙の相性も楽しめるのだ。醤油がついた米とついていない米が混在することで、味わいのグラデーションもつく。
 さらに手間をかけられるのであれば、卵は卵黄と卵白に分け、醤油をかけたご飯と卵白を混ぜ合わせておいてから、卵黄をのせ、崩しながら食べる。これで、さらにきめ細かな味わいのグラデーションが完成するのだ。
 ちなみに、途中で調味料などをちょい足しして味わいを変えることを「味変」と呼ぶが、味に飽きるのを防ぐような、消極的な感じがして個人的には好きではない。植野流の「間接風味づけ」は、味わいをどんどん向上させるためのものだ。念のため。
 残りの「温度差をつくる」「フィニッシュを決めておく」については、次回、ご紹介します。

▼今月のdancyu

発売中のdancyu7月号は「本気の昼めし」。焼き魚、煮付け、フライ、天ぷらなど、最高に旨い定食をはじめ、昼にしか食べられないスペシャルなカレー、ラーメン、ばらちらしなどを紹介。市川紗椰さんや小野瀬雅生さんらの「昼めしのためだけにここに行く」、ランチビールの悦楽、銀座弁当カレンダー、最高の焼きそばを焼く方法など、昼めしが素晴らしく美味しくなる記事が詰まっています。第2特集は「餃子好きが行き着くところ。」。いま本当に食べてほしい餃子をご紹介しています。

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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
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  • 私のスポットライト
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