隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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「温度差をつくる」「フィニッシュを決めておく」、5大ルールはこれで完璧だ

 前回から、隣の人より美味しい思いをするための自分なりの"食べ方5大ルール"を紹介しているが、今回は残りの二つ、「温度差をつくる」「フィニッシュを決めておく」について。
「温度差をつくる」というのは、熱いものと冷たいものを組み合わせるということ。よく「熱いものは熱く、冷たいものは冷たいうちに食べるのが最高に美味しい食べ方」と言いますよね。その通り。料理人も熱いうちに、あるいは冷たいうちに食べて欲しいと思って料理をつくっているのだから。
 しかし、それをさらに超越する美味しさの世界が実はある。それが、あえて熱いものと冷たいものを混在させ、口の中で温度差をつくること。それぞれを別々に味わうよりも、香りや味わいの複雑性が感じられるようになる。あるいは別々に食べたのでは感じられなかった旨味が引き出される(さらに「ぬるい」というとても高度な味わいトーンがあるのだが、これはまた別の機会に説明します)。
 とはいえ、そんなに難しいことではない。たとえば、家で残り物のカレーを食べるときに、冷たいご飯に温め直したカレーをかけたり、暖かいご飯に冷たいカレーをかけて食べたことあるでしょ? 熱いご飯に熱いカレーをかけて食べたときとは違う旨さを感じるでしょ? あれですよ。
 だから、僕はたとえば吉野家に行ったら、牛丼(アタマの大盛り)と生野菜サラダ(胡麻ドレッシング)を注文する。そして、牛丼に生野菜サラダをのせて食べる。牛肉とサラダを一緒に、でもあまり混ぜ過ぎず、適度に混在した状態で口に入れるのだ(牛肉3:サラダ2が理想)。これ、一度でいいから試してみてください。熱い牛肉と冷たいサラダが一緒に口の中に入ると、肉の旨味と野菜の食感がより鮮烈になって、いつもの牛丼とは全く別の、牛丼とサラダを別々に食べていたのでは気付かない新たな味わいが感じられるから。
 同じように、洋食屋に行ったらナポリタンはコールスローサラダを混ぜる。とんかつ屋では揚げたてのとんかつとキャベツの千切りを一緒に食べる。韓国料理の店に行けば、冷麺をキムチチゲにさっとつけて食べる(冷麺が冷たい状態のまま食べるのがポイント。つけ麺を熱い汁につけて食べるのと同じ感覚)。これだけで、定番の料理の味わいが大きく変わるのだ。
 最後の「フィニッシュを決めておく」も重要なルール。これは、食べ始めるときに、最後はどのように食べるか、きちんと決めておくということだ。「好きなものは最初に食べるか、最後に食べるか」といった小学生レベルの話ではなく、印象と余韻をよくするためのベストの選択肢を探すという高度な戦略だ。これを間違うと料理の印象が変わってしまうリスクすらある。
 というと大袈裟だが、たとえばカレーを食べるときに、ついカレーを食べ過ぎて、最後にご飯だけ残ってしまうとがっかりですよね。最後の一口が、カレーとご飯のバランスが最適であれば、美味しいイメージで食べ終えることができるはず。そのためには、食べ始めるときに、どのように食べ進むか、順番や組み合わせなどの戦略を立てておく。
 基本は、メインの味わいで始まり、メインの味わいで終える。たとえば、食べ方について議論百出状態となっている崎陽軒のシウマイ弁当だが、植野的にはシウマイに始まりシウマイに終わるのがベスト。特に、最後にシウマイを食べることでメインの料理をより印象付けることができるからだ。アンズをデザート的に最後に食べる人も多いと思うが、それでは、食べた後の余韻がアンズになり、シウマイの味わいが消えてしまう。
 同じように、ステーキやハンバーグなら、付け合せのジャガイモやニンジンを最後に食べるようなことはせず、最後の一口は肉で締める。ハンバーガーなら、バンズだけが残るような事態は避け、最後の一口はパティと野菜とバンズがバランスよく残るようにする。
 ただ、ひとつ例外がある。ご飯だ。メインの料理を感じさせるご飯は締めの一口にしたい。親子丼やカツ丼、天丼などは、ご飯につゆが沁みていて、メインの料理を感じさせる味わいが残っている。あるいは、とんかつ定食のフィニッシュとして、最後に皿に残った衣かすを白飯にのせ、軽く塩をふって食べる。このような、メインの料理がないのに、その味わいと余韻を感じさせる締めは上級編といってもいいだろう。
 以上が、植野的「美味しい食べ方」の5大ルールだ(実際には、さらに細かいバリエーションがあるのだが)。これを読んで「面倒くさい」と思うか、「試しにやってみるか」と思うかはあなた次第。もちろん、食事は楽しむことが最も重要なので、こうしたルールを必死に考えながら食べるのはつまらない(植野は、考えないで自然に、直感的にこうしたルールを実践しているが)。たまに、あ、こんな食べ方してみるか、と思うだけでも、隣の人より美味しい思いができるはずです。

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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

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