隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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店に好かれる客、一目置かれる客とは?

 隣の人より美味しく食べるためには、食べ方だけでなく、「店に好かれる」ことも重要。店から好かれる客になることで、隣の客より美味しいものを出してくれたり、貴重な食材が入ったときに優先して食べさせてくれる可能性があるから。
 とはいえ、「店に好かれる」というのは、店のご機嫌を伺ったり、出されるものすべてを「美味しい!」と褒めちぎるといったことではない。店にとって「大切な客」と思われることだ。
 一番わかりやすいのは「常連」になること。気に入った店が見つかったら、できるだけ通う。その店の持ち味を食べ尽くすくらい通えば、店からも「このお客さんはウチのことをよく知ってくれている」と一目置いてもらえるようになる。たとえばメニューが月替りの店であっても、同じ月にまた訪ねてみる。店は「すごく気に入ってくれたのだ」と喜ぶし、ひと月に2回訪れた客に同じものは出せないと思う店は多いので、他の客には出ないものを出してくれる可能性が高い。
 あるいは、毎回同じメニューを食べ続けてもいい。それも、店の自慢料理だったりすると店にとってはうれしい客となるはずだ。ラーメンを食べ続けていれば「今日はチャーシュー1枚おまけだよ」などというラッキーがあるかもしれない。
 通うということは重要なことで、たとえば一年に一度来てたくさんお金を使う客と、少ししか使わないけれど毎週訪れる客、どちらが「店に好かれる」と思いますか? 「どちらも大切なお客様です」と店は言うだろうが、本当は頻繁に来てくれる客の方がありがたいはず。経営安定に寄与するし、トータルで見たら毎週通う客の方がお金を使ってくれることが多いから。
 なにより、常連になると「わがまま」が効くようになる。「大切な人をお連れするので、ちょっといい肉を入れておいてください」「料理好きの人と一緒に行くのでカウンターの大将の前の席をお願いします」とか。
 ただ、これはあくまでも適度な範囲内であることが重要で、鮨屋で「イカのゲソを天ぷらにして!」などというのは「わがまま」ではなく「無茶」。無茶を言う客は常連どころか出禁になっても仕方がない。こうした最低限のマナーをわきまえてこそ、常連として大切にされる。数が限られているいい食材が入ったときなどに「今日は素晴らしい魚が入っていますよ」などと連絡してくれたり、美味しい部位を取っておいてくれたりするのだ。
 とはいえ、同じ店に頻繁に通えないことも多い。そんな場合でも常連的に扱ってもらえる方法がある。その店を知人に紹介するのだ。「いい店があるから行ってみて」と。その知人が店に行ったときに「どうしてこの店を知ったのですか?」「△〇さんに教えてもらいました」というやり取りがあれば(知人にそう言ってもらう)、店は「あの人はウチを気に入ってくれて、他の人にも教えてくれているんだな」と思う。こうしたケースが頻繁にあれば、実際に店に行く回数が少なくても、「いい客」として印象に残る。
 ただ、誰でも紹介すればいいというものではない。食べるのが好きな食いしん坊を紹介することだ。店にとっての「いい客」とは、「いい客」を紹介してくれる客のこと。食に興味がない人を紹介すると、その人に対する評価があなたへの評価になってしまうのだ。ご注意を。
 こうした常連になることが「店に好かれる」ための手っ取り早い方法。ただ、実はこうしたテクニックよりも、本当に店に好かれるために必要なことがある。店にとって「気づかせてくれる客」になることだ。
 店にとっては「美味しかったです」と言ってくれる客はうれしい。しかし、「美味しかった。でもここはダメだった」と言ってくれる客の方がありがたい。客がどう思ったか、どう感じたかを店は常に気にしている。「美味しかったです。素晴らしかったです」と言われたとしても、本当だろうか、と常に不安を抱えている。あるいは、さらによくしたいと思っている。
 だから、客から問題点を指摘されたり、向上のヒントを得られることを求めているのだ(それが的外れなものであったり、乱暴な言い方であったりすると、店主とケンカになるか、黙って出禁にされるというリスクを伴うが)。
 それを伝えることができる客こそが、真に「店に好かれる」客となる。「すごい食通でもないと、指摘なんかできないよ!」と思うかもしれないが、そんなことはない。誰でも上手に伝えることができるのだ。その具体的な方法を、次回ご紹介します。

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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

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