隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

7

予約は自分の思いを伝えるチャンス

 隣の人より美味しく食べるためには、店に入る前から意識することが必要だ。たとえば予約。あなたはどのように予約していますか? 日時と人数だけ伝える、などというもったいないことをしていませんか? 予約は、席を確保するという事務的行為ではなく、自分の思いを店に伝え、店に行く前から自分を意識してもらうための最初のチャンス。特に初めての店の場合、自分がいかに美味しく食べたいと思っているかを、効率良く伝えることが必要だ。
 まずはその店を知ったきっかけを伝えること。一番いいのは、常連客の紹介。「よく行ってらっしゃる鈴木さんに、美味しい店があると教えていただきまして」と言えば、店は安心するし、常連の紹介だから丁寧に対応してくれるはずだ。もし、そう言って対応が悪かったら、その常連が実は店にとってはいい客ではない、ということなので、次回から名前を出すのはやめておこう。
 こうした紹介がない場合は、「○○を見て、とても行きたくなりまして」でもOK。自分が店に興味を持ったことが伝わると同時に、店側は、情報ルートでどのような客かある程度わかる(と、多くの店で聞いた)。この「○○」はなんでもいいのだが、多くの店が「雑誌、ネット、テレビの順で食への意欲が高いお客様である確率が高い」と言う。
 食事の目的などを伝えることも重要。たとえば「接待なので個室をお願いします」。これは当たり前のように聞こえるが、ただ「個室をお願いします」だけだと、店はどんな人とどんな目的でくるのかわからないから、普通の対応しかできない。「接待なので」とひと言付け加えることで、店は静かな奥の個室を用意してくれたり、もし先方が先に着いた場合、上席に案内してくれるはずだ(もちろん、接待ならこちらが早めに店に行くのが当然だが)。
 あるいは「女性をお連れするので、カウンターの端の席でお願いします」。これは、「カウンターの端」がポイント。お連れする女性があまり目立ちたくない、あるいは二人でこっそり話をしながら食べたい(でも個室に篭るのも嫌)という、微妙な関係であることを示す暗号のようなものだ。店は、隣に静かな客を入れてくれたり、必要以上には話しかけないなど気を使ってくれるはず。逆に「連れの女性が料理好きなのでご主人の前の席でお願いします」と言えば、美味しいもの好きのカップルが来ることがわかり、料理のことをいろいろ話してくれるだろう。
 とはいえ、こうした微妙な表現をわかって対応してくれるかどうかは、店や電話を受けたスタッフによる。かつて、カウンターの端に予約を入れて女性と店に行ったら、隣に大酒飲んで騒ぐオッサンたちがいて、困ったことがある。こちらの思いがまったく伝わらない店もあるのだ。伝わらなければ、そこは相性が悪い店と思うしかない(これは「いい店」かどうかを知るための基準でもあるのだが、「いい店」の選び方については改めてご紹介します)。
 もちろん、料理についての確認も欠かせない。コースかアラカルトか、あるいはアレルギーや苦手なものがあれば予約の時点で伝えておくのは基本。さらに、ちょっとした要望を添えるのもお忘れなく。店の名物料理がわかっていれば、それをオーダーしておいたり、お任せコースであれば、魚が好き、肉が好きなどの好みを言っておく。好きな料理があれば(特に遅めの時間に行く場合は)、取っておいてもらうようにお願いする。
 たとえば、僕は、東京・青山の居酒屋「ぼこい」のポテサラが世界一だと思っていて、ここに行くときは、いつも「ポテサラ2皿分を取っておいてください」とお願いすることにしている(一人でも2皿は食べるから)。
 これは自分が食べたい料理をキープしておくだけでなく、自分が食べたいものや料理を明確に言っておくことで、「自分は美味しいものを食べたい」という店に対するアピール、"ラブコール"なのだ。
 ただ、食べたいものを素直に伝えるのはいいが、知ったかぶりは厳禁だ。「おたくは羊のローストが名物ですよね。国産の羊はある?」「今は戻り鰹がいい時期ですよね、用意してください」などと言うと、店は一応「あれば用意させて頂きます」と答えてくれるかもしれないが、内心は「面倒くさい客だな」と思うはずだ。なにより、当然ながら、その店で用いる食材のことを一番よく知っているのは料理人だ。余計なことを言うより「魚が好きなので、その日のお薦めをお願いします」とお任せした方が、店は気持ち良く張り切って料理を出してくれる。
 要するに、食知識が高いことをアピールするより、美味しいものを食べたいという気持ちを伝えることが大切なのだ。

▼今月のdancyu
9月6日発売の10月号の特集は、肉好き必見!「とんかつとステーキ」。いま食べに行ってほしい美味しいとんかつの店、ステーキの店を紹介するほか、"下町はとんかつで飲む!""チオベンのカツ弁""最強のとんかつレシピ"、"レモンステーキ物語""ガーリックライスの誘惑""ありえないほど切れるステーキナイフ"など、とんかつとステーキがもっと美味しくなる記事が満載。関ジャニ∞の丸山隆平さんが語る「とんかつの喜び」にも注目です。第二特集は「築地の三十七皿」。10月に豊洲に移転する築地市場内の飲食店の名物料理をご紹介しています。

dancyu201810.jpg

Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ