隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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自分を印象づける、うまい予約の方法

 予約は「美味しいものを食べたい」という自分の思いを伝えるラブコール。であれば、その思いがしっかり伝わるようにしなければいけない。
 たとえば、昼時や夜の忙しい時間帯に電話することは避ける。これは常識以前の問題ですね。では、いつ電話をすればいいのか。店にもよるが、昼と夜に営業している店の場合、昼の営業時間の終わり頃、または夜の営業開始時間の1時間前頃がいい。昼の営業前だと仕込みなどが忙しいし(夜営業の店は帰るのが遅くなるので、昼営業はぎりぎりに店に出ることが多い)、夜も営業が始める1時間前頃からが準備のピークになるからだ。
 だったら昼と夜の間のアイドルタイムに電話をすればいい、と思うでしょうが、昼夜営業の店は、この時間帯に休憩したり、主人が用事を済ませるために外出することが多い。昼の営業を終えて、ホッとして昼寝をしているところに電話がかかってきたら、ちょっと対応が悪くなるかもしれない。料理の内容などを聞こうと思っても、主人が不在だとわからないかもしれない。だから、店が"活動中"で、なおかつ忙しくない時間帯を狙うのだ。
 夜のみ営業の店の場合は、営業開始前2?3時間くらい前に電話をしてみる。昼営業がなければ、それくらい前から店で準備をしているはず。逆に、営業開始前直前にならないと電話がつながらない店は、仕込みに時間をかけてないのだ(仕込みが忙し過ぎて、なかなか電話に出られないということもあるが)。
 そもそも、予約は何日前にすればいいのか。もちろん、早めに予約するに越したことはないが、"通常の店"の場合、あまり早すぎるとキャンセルされる可能性があるかもしれないと相手が不安になることもあるようだ。そこで、「妻の誕生日なので」などと理由を一言添えると、店も安心するし、その目的に合わせた対応をしてくれるはずだ。
 "通常"ではないというか、なかなか予約が取れない人気店の場合は、とにかく早めに連絡するしかない。ただ、意外に直前にキャンセルが出ることもあるので、どうしてもその店に行きたければ、キャンセル待ちを入れるか、直前に連絡してみた方がいい。
 こうした人気店にチャレンジするときには、予約が取れなかったとしても、必ず名前を告げておくこと。「予約は取れますか? あ、満席ですか。わかりましたまた電話します」だけで終えてしまうと、店には一切印象が残らない。「植野と申しますが、予約は取れますか?」と言っておけば、何度もチャレンジしてくれる人、という印象が残る。場合によっては、キャンセル待ちの中で優先してくれるかもしれない。
 名前を告げておく、というのは大切なことで、予約が不要の店であっても、事前に電話を入れ、名前を告げた方がいい。いきなり店を訪れ、「入れますか?」と言って入れたとすると、名前を名乗るチャンスがないかもしれない。たとえ直前であっても「植野と申しますが、今から2人で入れますか?」と電話を入れておけば、名前を認識してもらえる。
 事前に電話を入れるのは、受け入れ準備ができるということでもあるので、店にとってもありがたいことだから、客としての好感度がアップするかもしれない。
 ちなみに、僕は予約の段階でできるだけ自分を認識してもらうようにしている。名前を告げるのはもちろん、「お苦手なものはありますか?」と聞かれたら「愛のない料理が苦手です」と答える。そうすると、店の反応は真っ二つに分かれる。一つは「わかりました。精一杯、愛を込めてつくらさせて頂きます」という対応。これは、やる気が感じられるのと、こんな変なことを言う客に付き合ってくれる懐の深い店。予約の段階で期待ができるし、植野という変な客(?)を印象付けられたはず。
 もう一つは「はぁ?」と言われるパターン。自分で言っておいてなんですが、これは店が悪いわけではない。こんな面倒くさいことを言われたら対応に困るのが当たり前。ただ、こうした対応だったとしても、「なんヘンなことを言う客が来ますよ」と店で話題になるはず。店に行ったらそれがきっかけで会話が弾むかもしれない。たとえ初めての店であっても、予約の段階で印象付けられる。この段階で、隣の人より一歩リード(?)しているのだ。
 もちろん、こうした"印象付け"も程度問題で、やり過ぎるとただの「面倒くさい客」になってしまう。その辺りの加減は店にもよるし、経験が必要になるかもしれない。ただ、こうしたやり取りも、食の楽しみのひとつだと思う。

▼今月のdancyu
10月6日発売の11月号の特集は、「おにぎり。」。名店「ぼんご」のすべて、毎朝買いたくなる美味しい店(植野が大好きな築地の店もあります!)、青森・八戸の"おにぎり名人"の極意、おにぎりお悩み相談室、甘味処のおにぎり、吉田類さんの「おにぎりで酒を飲む」、そして棚橋弘至さん、青山テルマさん、小野瀬雅生さんの"おにぎり愛"もご紹介。みんな大好きなおにぎりが、さらに美味しくなる情報が満載です。そして、第二特集は「塩を極める」。料理の基本である塩はどんなものがあるのか、どう使えばいいのかがわかります。これを知れば、料理の腕が上がりますよ!

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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
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  • 私のスポットライト
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