隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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朝の市場で"心のカロリー"を充填    ――朝食・外食編

 夕食は店を厳選してしっかり食べるが、朝食は軽く、あるいは食べない、という人が結構いる。食べ過ぎないように、一日の食事量(総カロリー)を考えて。これは正しい。食べ過ぎは良くない。
 しかし、僕は必ず朝食をしっかり食べる。前夜に満腹になるまで食べたとしても、たとえ二日酔いだとしても(若い時は二日酔いになると、翌日にトンカツを食べて治していた。今は無理だけど...)。正しくない食生活かもしれないけど、満腹の翌朝にもお腹は空くし、食べることで身体的にも気分的にも一日のパワーを摂取するのだ。総カロリーを気にするより、"心のカロリー"をしっかり摂ることの方が大切だと思っているから。
 朝食のルールは「食べたいものを食べる」。これは昼も夜も基本的に同じだが、昼と夜はリサーチや会食などで食べるものが決まっていることが多い。最も自由に選べるのが実は朝食なのだ。
 もちろん、家で食べることが多いが、朝から外食することも多い。例えば、かつては築地、今は豊洲の市場に行く。ご存知のように豊洲の食堂は寿司、丼、天ぷら、洋食など、バラエティに富んでいる。"食のディズニーランド"のようなものだ。明日の朝は豊洲に行こう、と決めた時から何を食べるか迷う。これが楽しい。「とんかつ八千代」で"チャーシューエッグ定食"にカニクリームコロッケをトッピングするか。「中栄」で印度カレー(ポーク)とハヤシライスの"合がけ"(ハーフ&ハーフ)にして味噌汁の"チラシ"(溶き卵入り)にするか。それとも、蕎麦の「富士見屋」で"鴨団子蕎麦"に、まいたけ天をトッピングするか...。
 しかし、迷いつつも一番行くのは中華の「やじ満」。冬はカキらーめん、夏はあさりらーめんが名物だが、僕はいつも"野菜そば"(タンメン)と"シューマイ半個"。すっきりと澄んだ味のスープ、たっぷりの野菜、シンプルな麺は何度食べても飽きが来ない。途中で"ラー油の濃いところ"(ラー油の底に沈殿したやつ)をちょいと垂らせば、優しい味わいと刺激が絶妙に絡み合って旨い。で、ボリューミーなシューマイは一皿が4個なので、麺と一緒だとちと多い。そこで「半個」と言って2個入りを頼むのだ。旨味がたっぷりなので、1個目は何もつけずにそのまま食べ、2個目はソースをかけて食べる(この店ではシューマイにはソースがデフォルト)。合間に付け合わせのキャベツで口を変えたり、辛子をつけてアクセントをつけたりと、これだけでも多彩な味わい方がある。
 美味しいだけでなく、店頭に立つひとみちゃんが素晴らしい。常連さんの好みのオーダーを全て覚えていて、顔が見えた瞬間に「にらそば! 麺バリカタ! ネギ抜き! 半個つき!」などと厨房に注文を通す。そう、市場の常連たちは、毎朝同じものを食べる人が多く、しかも自分の好みにカスタマイズするのだ。すでに書いたように、僕も店によって好みの料理やカスタマイズが決まっている。常連のカスタマイズに関心しつつ、それをちょっと真似してみるのも、市場食堂の本当の楽しみだ。
 自分なりの朝食を、市場で働く人たちと一緒に食べているだけで、活力をもらえるような気がする。実際、疲れていても、市場に行くと元気になる。"気持ちのカロリー"満タンだ。
 是非、みなさんも市場で朝食を食べて欲しいのだが、ただ、一般客も楽しめるとはいえ、そこは市場で働く人のための食堂。基本的にボリュームたっぷりなので、頼み過ぎないようにする、あるいは食べ終えたら長居せずに席を空けるなどの気遣いはお忘れなく。

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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

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