隣の人より美味しく食べたい!

植野広生

隣の人より美味しく食べたい!

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ストレスフリーな食事とは?

 店に行って、「終始ストレスなく食事ができる」というのは、実は料理の味以上に重要なことだと思う。でもそんな幸せなひと時を過ごせることは、意外に少ない。
 ストレッサー要素はいろいろあって、例えば"メニューや説明がわかりにくい"。メニュー名がイメージ過ぎてどんな料理が登場するのかわからなかったり、メニューの構成が複雑で、何をどのような順番で頼んでいいのかわからないケース。食材や料理法がわからなければ、店の人に聞けばいいのだが、例えば「前菜 海の風」と言われても何を聞いていいのかわからない。
 そこに優秀なサービスの人がいて、丁寧でユーモアのある言葉で内容を説明してくれれば、ストレスどころかむしろ大きな楽しみになるのだが。
 食材や料理法を聞いた時に的確な回答を得られないのもがっかり。
「『ブレゼ』というのはどういう料理ですか?」
「えーと。ちょっとキッチンに聞いてきます」
 この会話だけでストレスが溜まる。
"椅子の座り心地がよくない"のも知らず知らずの間にストレスになる。クッションが柔らか過ぎてちょっと食べにくかったり、肘掛けの位置が高くてやや落ち着かなかったり。この「ちょっと」「少し」の違和感が食事を進めるとじわじわとボディーブローのように効いてくる。別に高級な椅子でなくてもいいし、カウンターでさっと食べるような店なら安い丸椅子で十分。でも、高さや硬さなど、微妙な加減で居心地が大きく変わってしまうのだ。
 ステーキなどを出す店で、"ナイフが切れない"のも大きなストレス。ノコギリのようにギコギコしないと切れないようなナイフだと、肉の味わいも気分も落ちる。添えられたナイフが、引くだけですっと切れるものだったりすると美味しく頂ける。切れるだけでなく、持ち手の感触や持った時のバランスも重要。和食などの箸も同様で、持ちやすく、掴みやすいものであれば、美味しさがアップするのだ。
 カウンターなどオープンキッチンの店で"キッチンに気になるところがある"のもストレスにつながる。汚れていたりするのは論外だが、せっかく綺麗にしているキッチンでも、客席からゴミ箱が見えたり、包丁が乱雑に置いてあったり、食材が出しっ放しであったり、あるいは料理人のコックコートやエプロンに穴が空いていたり。全体的に綺麗にしていても、こうしたポイントがあると、食事の間、ずっと気になってしまう。
 小言オヤジのようになってしまったが、こうした点は、皆さんも何となく気になっていて、いつしかストレスになっていると思う。
 こうしたストレスを感じることなく、最後まで楽しく食事ができる店は、本当にいい店だと思う。
 とはいえ、こうしたストレスは店のジャンルや形態によっても異なる。高級レストランで、説明がわかりにくいサービスマンがいたり、座り心地の悪い椅子があったら思いっきりストレス(場合によってはクレーム)になる。しかし、近所の居酒屋であればそんなことは気にならないし、酒飲みながら「もっと立派な椅子を買ってよ!」と冗談めかして言うことで、むしろストレス発散になるかもしれない。

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Profile

植野広生

1962年、栃木県生まれ。七五三で神社にお参りした際にお神酒をお代わりする。法政大学法学部に入学。上京後すぐに、銀座のグランドキャバレー「モンテカルロ」で黒服のアルバイトを始める。その後、鰻屋や珈琲屋、アイスクリーム屋など多数の飲食店でアルバイトを経験。卒業後、新聞記者を経て、出版社で経済誌の編集を担当。その傍ら、大石勝太(おおいし・かつた。「おいしかった」のシャレ)のペンネームで「dancyu」「週刊文春」などで食の記事を手掛ける。2001年、プレジデント社に入社、以来「dancyu」の編集を担当し、2017年4月に編集長に就任。趣味は料理と音楽。食と音楽のイベントを手掛けるほか、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動。「情熱大陸」「人生最高レストラン」などテレビやラジオの出演多数。いまだに「大きくなったら何になろう」と真剣に考えている。

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