たばかり稼業の六悪人

竹内清人

たばかり稼業の六悪人

なかったので書いてみました。

<3月5日発売の新刊『たばかり稼業の六悪人』。気鋭の脚本家は、なぜ「時代小説」を書いたのか――。本編試し読みに先駆けて、著者の竹内清人さんからコメントが届きました。>

 時は、僕が中学生のころまでさかのぼる。仕事を終えて晩酌をしている父に付き合って、よく深夜ドラマを観ていた。当時の深夜ドラマは、いまのように実験精神あふれる番組とは違い、ゴールデンタイムに放送されていた番組の再放送である。そのなかに、東京12チャンネル(現・テレビ東京)の日曜深夜枠で放送されていた『痛快!河内山宗俊』(もとはフジテレビの作品)というテレビ時代劇があった。

 御数寄屋坊主(僧侶ではなく、江戸城に登城する大名たちの接待役)の河内山が、本業そっちのけで、人助けと悪党の上前をはねる強請りたかりに精を出すという、痛快娯楽活劇である。

 主演は、当時のスター俳優、カツシンこと勝新太郎。スターといったって、イケメン俳優ではなく、見てくれはずんぐりむっくりのおっさんだ。子供心に「スターなのに、カッコよくねーじゃん」と思ったものだ。ところがこのおっさん、ひとたび動きだすと底知れぬ躍動感と愛嬌を振りまきながら、ブラウン管狭しと、縦横無尽に弾けまくるのだ。その一挙一動に、僕はシビれた。

 ごめんよ、カツシン、あんた最高にカッコいいよ!

 しかし、シビれたのは、カツシンの凄さばかりではない。

 河内山宗俊というアンチヒーローの圧倒的な存在感である。

 この男には、水戸黄門の三つ葉葵の印籠もなければ、遠山の金さんの桜吹雪もない。あるのは、己の嘘ひとつ。どんな悪事も人助けも、口八丁手八丁で乗り切ってみせる。そのくせ、一儲けたくらむ割には骨折り損に終わったり、どこか抜けている。善と悪、欲と慈悲をないまぜにした人間臭い野郎なのだ。

 めっぽう面白いドラマの再放送が終わってからも、基になった小説や映像作品はないものかと探し回った。河内山宗俊が、講談や歌舞伎では有名な実在の人物だと知ったのは、その時になってからだ。

 何人もの時代小説家や映画界の諸先輩方が、河内山を題材に作品を手掛けられていた。もちろん、どの作品も楽しめた。しかし、諸先輩方を前に大変失礼な話だが、カツシンの河内山ほどにはピンとこない。どの物語も歌舞伎や講談を下敷きにしているせいか、河内山は刑場の露と消えるか、一服盛られて死ぬかして、自滅の道を辿るのだ。

 誰かのために粋に笑って死んでゆく、「滅びの美学」も嫌いではない。だが、僕が思い描くアンチヒーローの河内山は、もっとしぶとくしたたかに浮世を生き抜く、そんな人物であってほしかった。誰か新たに胸のすくような活躍を描いてくれないかと、思い続けて数十年──。その間に僕は、映画宣伝マンを経て脚本家になった。そして、ようやく気付いた。

 そうか、ないなら自分で書けばいいのだ。

 ふだんの脚本の仕事とは違って、今回は紙の上のエンタテインメントである。どうせ書くなら予算を気にせず、スケールのでかい犯罪活劇に仕立ててみようと思った。ましてや、初めて書く時代小説である。作法通りのものなんぞ書けるわけもない(それでも一応、まじめに勉強しました)。だったら、自分が好きなケイパー(犯罪)もののエッセンスを凝縮させて、時代小説の枠にとらわれない作品をめざしてみた。

 インスピレーションを受けた作品を思いつくままに挙げてみると、ジュールズ・ダッシン監督『男の争い』、『トプカピ』の二作と、ドナルド・E・ウエストレイク原作の泥棒ドートマンダーシリーズをロバート・レッドフォード主演で映画化した『ホットロック』は、綿密なお宝強奪計画と予期せぬ顛末をスリリングに描いた犯罪映画の傑作。さらに、河内山を筆頭にクセのある悪党たちのチームプレイを描く点では、フランク・シナトラ主演『オーシャンと十一人の仲間』とそのリメイク、ジョージ・クルーニー主演『オーシャンズ11』シリーズも参考になった。荒唐無稽な発明器具と誰が敵か味方かわからないコンゲームの妙では、「ルパン三世」の原典といわれるイタリア製の犯罪コメディ『黄金の七人』(峰不二子的なキャラもちゃんといます)も欠かせない。もちろん、山中貞雄監督『河内山宗俊』のユーモアとニヒリズムにもおおいに刺激を受けたし、松方弘樹、緒方拳、内田良平という三人のスパイの暗闘を描いた時代劇映画『間諜』には、時代劇に007のエッセンスを取り入れるという、モダンなタッチを学ばせてもらった。

 時代劇は、けして昔話ではない。むしろ、現代で起こる出来事を照射する格好の表現手段である。この物語の舞台となる天保九年(一八三八)は、度重なる冷害や洪水といった天災の影響で、東北地方を中心に飢饉が広がる、いわゆる天保の飢饉の只中だ。飢えと年貢の取り立てに苦しめられた人々は、村を捨て江戸へと流れ着き窮民となった。時の老中、水野忠邦は、天保十二年(一八四一)に幕府財政の再興を図って奢侈禁止令、貨幣改鋳などの改革を断行するが、これによって庶民の暮らしは益々、苦境を強いられることとなった。さらに、水野は国防にも並々ならぬ力を注いだという。なんだか現代とよく似てはいないだろうか。

 庶民の感情は、いまも昔も変わらない。窮屈な時代だからこそ、どんな苦境の中でも生きるエネルギーを失わず、権力におもねることなく我が道をゆくアンチヒーローの姿を通して、現代にも通じる痛快な冒険譚を描きたいと思った。ページを開いてくださった読者のみなさまが、読後に爽快な気分を味わっていただけたらと願ってやまない。

 最後に、蛇足を少しだけ。河内山宗俊の物語の原典ともいえる、講談と歌舞伎には、河内山を筆頭に「天保六花撰」と呼ばれる六人の悪党が登場する。本作でもこの六人は登場するが、物語上はあえて正規のメンバーとは違う面子で構成している。六人とは誰を指すのか、読者のみなさまの判断にお任せしたい。自分なりの「六悪人」を見つけていただければ、作者としてはこれに勝る喜びはない。

                  

二〇一九・二・一八

<※いよいよ次回から待望の本編スタート! 次回更新は22日予定です!>

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Profile

竹内清人

1968年神奈川県生まれ。91年日本映画学校を卒業後、映画宣伝業務に携わる。2005年、映画『戦国自衛隊1549』で脚本家デビュー。
主な作品に『エクスマキナ -APPLESEED SAGA-』、『キャプテンハーロック』(福井晴敏氏と共同脚本)、 『劇場版 びったれ‼︎!』など。また、作家としても、実話を基にした『風流時圭男』、『小説 機動戦士ガンダムNT』などを手掛ける。本作が初のオリジナル小説。

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