ポプラの営業だより

一般書営業部

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出張の醍醐味(神代)

「食べる?」

新潟・古町の居酒屋。カウンター越しに店主から差し出された小皿には、小綺麗に刺身が盛られている。皮が剥がされた背は銀色に輝いていて、赤みがかった身がよく締まっている。鰯に似ている青背の魚だが、名前まではわからない。

「ニシンの刺身だよ」

ほぉ、ニシン。
ニシンって、刺身でも食べるのか。
ドラマ『深夜食堂』とシチュエーションは似ているが、目の前の店主は小林薫に程遠い。なんだ、この勝ち誇ったドヤ顔は。さりげなくそっとお皿を差し出すまではよかったが、そこまで自信に満ちた顔をされると「美味しい」としか言えない雰囲気になるではないか。
ニシンには、蕎麦に入っている具材程度のイメージしかない。小皿の切り身とは大きく違う。箸でそっと持ち上げてみると、ぷるんと脂がのっているのがよくわかる。美味そうだ。

「食べたことある?」
一緒に飲んでいた地元テレビ局のディレクターが首を振った。昼間は県内を取材で走り回っている彼も、どうやら初顔合わせのようだ。本当なのだろうか。彼とは前職からの長いお付き合いだが、会うたび冴え渡る天然キャラに驚かされている。そういえば、先日「冷蔵庫って電気で動いてるって知ってた?」と真顔で言われたことを思い出した。お前はいつの時代の人間だ。彼と仕事をした知人たちはみな敏腕と称賛するが、オフタイムを見ているとどうにも腑に落ちない。

2人同時にニシンの刺身を口に入れる。ふんわりと磯の香りが鼻に抜け、歯ごたえとともに脂と身がとけていく。思わず顔を見合わせ、日本酒(緑川酒造のはずたが、記憶が定かではない)をぐいっと飲みほした。美味い。

営業エリアとして担当する新潟へは、1年に数度仕事で訪れる。出張の楽しみといえば、地元の銘酒とグルメだ。出張先では朝から夕方まで、レンタカーを借りて書店や取次を駆け回る。昼食にはほとんど時間を割けない。その分、夜は地元の食材を楽しめるお店に足が向く。

新潟は魚もお酒も絶品だ。白米も抜群に美味い。この居酒屋は出張に来るとたまに訪れるが、ライスと焼き魚とあら汁という定食屋のようなオーダーをしても笑顔で応えてくれる貴重なお店だ。今回のように、たまに店主の粋な計らいがあるとなおさら嬉しい。つい飲みすぎてしまいそうになる。あぁ、緑川のあとは朝日山にしようかな。うん、麒麟山も飲みたいぞ。

いや、いかん。
忘れてはいけない。
今は出張中なのだ。

微妙な緊張感がよみがえる。そう、明日も朝から仕事である。休みではない、残念ながら。たまにしか車に乗らない生活なので、早朝からの運転は肩に力が入る。そういえば、さっきからハイピッチで飲み続ける隣の男も昨年子どもが生まれたばかり。お主、なぜ時間を気にせず飲んでおるのだ。そろそろ締めますか。ん、もう一軒?いやいや、酔うと長っ尻になるのは相変わらずだねぇ。お前の付き合いが悪いだけだって? だから、最初から一軒だけって言ったじゃないかー。大将、お会計を......。

毎度お約束のやり取りとともに店を出て、執念深くもう一軒飲みたがるテレビマンをバス停で見送り、千鳥足で宿へ向かう。萬代橋をぶらぶら歩くと信濃川から吹く夜風が頰にあたり、自然と心が軽くなる。うーん、やっぱりラーメンも食べたいな。なぜか胃袋も軽快になるではないか。さっきライス食べたけど米は植物だからゼロカロリー♪なんて思いながら、毎度新潟の夜はメタボ街道まっしぐらに更けていくのだった。

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