ポプラの営業だより

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ひとつを選ぶ(神代)

「いがは足で踏むんだよ」

幼少のころ、祖母とともに山へ栗拾いに出かけた。紅葉で赤く染まった山を見ながら栗林へ入ると、濃い樹木の湿気に包まれる。

「頭の上、気をつけなよ」

見上げると、鋭利な針山がたわわに実っているではないか。たしかに、直接頭に落ちてくると痛そうだ。金属製の炭ばさみを手渡される。外に置いていたせいか、軍手越しに冷気が手に伝わってきた。足元に落ちている毬栗の端っこをおさえるように足で踏む。しっかりと押さえながら反対の端っこをぐっと踏み込むと、つやつやした茶色い皮が現れる。表面を傷つけないように、炭ばさみでそっと毬から取り出した。ピンポン玉より一回り大きい、想像以上のサイズだ。うっすらと露のついた栗の実は、寒空の下できらきらと輝いて見える。

懐かしい思い出のせいか、秋の味覚は他の季節以上に親しみを覚える。コートを着込むほど寒くなると、栗の味が恋しくなる。なかでも、モンブランには目がない。口に入れた瞬間の濃厚な風味。ズシリと胃に落ちるのに、重さを感じさせない栗の甘み。シュガーパウダーの降りかかったマロンクリームが、冬枯れの山に降り積もる雪のようにも見えるではないか。外観も完璧。

「Pâtisserie Yoshinori ASAMI」は、今日もにぎわっている。JR巣鴨駅から徒歩5分。「おばあちゃんの原宿」と名高いとげぬき地蔵へ向かって歩く途中に、アーケードを左へ曲がる。マンションの1階、コウノトリのイラストが目印の洋菓子店だ。巣鴨といえば塩大福に千成もなか。洋菓子はショートケーキで有名なFRENCH POUND HOUSEが店を構える。近年はかき氷の人気店まで登場した隠れたスイーツ激戦区である。そんな立地に2015年に出店したのが「Pâtisserie Yoshinori ASAMI」だ。このお店、とにかく迷う。

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「甘いものが食べたいなぁ」

そんな軽い気持ちで店へ入る人は、要注意。ショーケースには色とりどりのケーキが並ぶ。定番のケーキやフルーツをふんだんに使ったものまで、素材を活かした外観ながらどれも趣向を凝らせたものばかり。ひとつずつ、目を離さずじっくり見て選びたくなる。

ショーケースを左から右へ、カットケーキ、ホールケーキと念入りに見ていくと、ケースの上のボードに目が行く。季節のアイス。ほぉ、アイスもあるのか。イチゴにピスタチオ、季節の素材。定番にするか、旬の味にするか。迷いどころだ。むむ、イートインでパフェもあるじゃないか。メニューを目で追いすぎて気づかなかった。ケースの向こうでパティシエたちがグラスにフルーツやアイスをデコレイトしている。そのひとつひとつが、横から味見したくなるほどフレッシュで、カウンター越しながら控えめな甘い香りが漂ってくる。

この状況でひとつを選ぶことなどできるわけがない。しかし、年々横へ広がる自分の体を見ると、若干の迷いが生じる。うーん、どうしようか......。洋菓子店でこの迷いはご法度ながらも、考えざるを得ない体形になってしまった自分を恨む。ひとつを選ぶ。うん、やっぱり栗にしよう!

目の前に並んだマロンパフェとモンブランを眺めながら、今日は帰ったら「筋肉体操」を実践しようと心に誓うのだった。

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