ライフ

小野寺史宜

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『ライフ』『ナオタの星』刊行記念 小野寺史宜さん × 杉江由次さん対談!

『ひと』が2019年度本屋大賞第二位となり注目を集めている小野寺史宜さん。
待望の新作の刊行を記念したトークイベントが行われました。
聞き手は本の雑誌社の杉江由次さん。
時に爆笑、時にじーんとする対談のようすを公開いたします!

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<デビューから『ひと』まで>

杉江:『ROCKER』という作品でデビューされたんですね。2008 年だから、11年前でしょうか。
小野寺:そうですね。僕はもともとバンドをやっていて、歌とギター担当だったんです。バンドで僕が作った曲と詞を、デビュー作には無理矢理入れてやろうと思ってました。笑
杉江:今はバンドはやっていないんですか?
小野寺:今はやっていないですね。書くことに専念しようと決めた時にバンドはやめました。就職して2年くらい働いて辞めて、辞めた翌日に秋葉原に赴いてワープロを買った。それで小説を書き出したその日から、暗黒時代に突入して......長いですよ。笑
杉江:それは、新人賞の選考にのぼったり、だめだったりというのが続いて......?
小野寺:続きましたね。何度も落とされて、一週間くらいは毎回ブルーになるんですよね。でもまた書きはじめて。先なんかなにも見えない。深夜にバイトとかもして、なんとかやってました。この暗黒時代は長くて、でもいつもただ変わらず小説を書いてきました。
杉江:それがもう、ビックバンですよ。『ひと』は11万部という大きな部数になり、本屋大賞では堂々の第2位。
小野寺:でもまだ疑ってますからね。
杉江:そうそう、本屋大賞はドッキリなんじゃないかと未だにずっと思っているっておっしゃってましたよね。笑
小野寺:本の帯にもそう書いてあるけど、なおかつまだ疑ってます。笑 


<多くの人が素通りするような場所に惹かれる>


杉江:あまり注目の集まらないような場所を小説の舞台に選ばれますよね。
小野寺:そうですね。中央区に「新川」という場所があって、昔、霊岸島と呼ばれていた小さな島みたいな場所なんですね。僕はそういうちょっと変わったところにすごく惹かれる傾向があって、『ナオタの星』はそこを舞台にしようと思って書き始めました。『ライフ』は平井、『ひと』は南砂町ですね。
杉江:僕もたくさん小説を読みますけど、平井が出てきたのは小野寺さんの作品くらいですよ。僕は本の雑誌社のたった一人の営業なので、ほとんどの沿線を営業してまわっているんですけど、平井は降りたこともない。笑
小野寺:平井は快速が止まらないから降りられないんですよ。総武線の場合はホームも通過してくれなくて、線路すら別なんです。将来的にも平井には絶対止まらないぜっていう、JR東日本の強い意志を感じます。笑
杉江:どうしてその快速も止まらない平井を舞台にしようと思ったんですか。
小野寺:快速が止まらないことは理由のひとつですね。『ひと』の南砂町も地下鉄東西線の快速が止まらないんですよ。電車の止まらない駅っていうのは、本当に自分で行こうと思わない限りは行けないんですね。そういうところに僕はなぜか惹かれてしまうんですよね。
杉江: それで平井を書いてみようと思ったら、実際に行かれるんですか?
小野寺:もちろん行きますね。やっぱりそこの風景を知らないと書けないというか、まあ知らないで書くわけにはいかないだろうという思いがありまして。荒川の河川敷なんかは何回も歩きました。 
杉江:『ライフ』はそういう町を舞台にした、同じアパートに住む人々とのかかわりを描いた作品です。
小野寺:アパートって、壁一枚はさんで他人同士が暮らしているという、ある意味危機的な空間ですよね。壁一枚挟んで姿が見えないだけで、「いない」という認識に出来てしまう面もあります。実際には隣の部屋の人と自分は、その壁一枚を挟んだだけで、部屋の同じところにテーブルを置いて同じ時間に向き合ってご飯食べている可能性もありますよね。でも壁一枚のおかげで他人だということになっている。そういう関係ってなんか面白いなと思っていて。一回でも挨拶をしたり、ちょっとでもコミュニケーションを取ると関係性って変わってくるんですよね、不思議ですけど。そういうことを書きたかったんです。

<小野寺作品群の楽しみ方>

杉江:小野寺さんの小説は、それぞれの作品の登場人物たちが、たがいにリンクしていたりするんですよね。
小野寺:ひとつの作品の中に、僕の他の作品の登場人物を登場させたりするのは、無茶苦茶やってますね。人や名前だけじゃなくて、ちょっとしたエピソードを別の話に入れ込んだりとか、ちょっとだけ出てきた人を別の小説の友達のお母さんにしたりとか、そういうのはよくやっています。年代なんかはちゃんと齟齬がないようにしていますね。これは僕の個人的な楽しみなですけど。
杉江:書くときは、一つの作品だけを書くんですか?
小野寺: 僕の場合は、並行して書く意味があんまりないので、一つを書き上げてから別の作品に取りかかります。短編は並行する時もありますけど、別々の物語を行ったり来たりする意味がないような気がして。
杉江:小野寺さん、すごく早起きで、早朝に起きて書かれていると伺ったのですが。
小野寺:そうですね。4時から5時の間に起きて、30分以内には書きだしますね。バターロールを二個食べてムリヤリ書きだします。自分が年をとってきたので、疲れが少しでもないうちにやりたいんですよ。僕は書くものはすべて、手書きで下書きをするので、基本的に全部二回書いています。でも字が汚すぎて、せっかく下書きを書いても、なんかいいこと書いてありそなんだけどちょっと読めないなあ、みたいなことがよくあります。笑

<会話でどこまで語れるか>

杉江: 小野寺さんは会話文のプロフェッショナルというか魔術師というか、会話文がほんとうに上手いですよね。
小野寺:他の方ならそこまで書かないだろうな、ということを僕は書きますね。
杉江:会話文というのは、文芸の中だと、地の文や比喩などに比べて少し蔑まれているところがある。でも会話はすごく嘘がばれやすいところでもあると思うんですよね。年代や生活によって使う言葉は明らかに違ってくる。『ライフ』の中で感動したのが、戸田さんちの子どものセリフなんですよね。田さんちの車が牛丼屋に着いたとき、お母さんが「気を付けて周りを見てね」って言うんだけど、戸田家の娘はそれに対して「は~い」って返事をして、息子は「牛ど~ん」って言うんです。僕も息子がいるから分かるんですが、息子ってこういうことを言うんですよ。どうしてこういう会話が表現できるのか。実にいきいきとしていていいですよね。
小野寺:会話を説明のために使いたくないんですよね。会話って短いものだし、一人が長々としゃべってるのに、もう一人が相槌も打たない、なんてことはないんですよ。そういうのは避けるようにしてますね。昔シナリオを書いていたことがあったので、もしかしたらそれも生きているのかな、と思います。
杉江:『ひと』でも、主人公と子どもとの間にすごく魅力的な会話が出てきます。子どもをこんなふうにいきいき書けるのは、相当すごいですよね。大抵嘘くさくなってしまうのに。
小野寺:そう言っていただけるのはとても嬉しいです。

<紙の本だから感じられた良さ>

杉江:最後にもう一つだけ聞きたいのですが、『ひと』の最後のページはたた一行ですよね。これは意図して調整したんですか?
小野寺:そうです。調整してくれたのは祥伝社の編集者です。そうなるといいな、と思っていましたけど、そこまでの指定は僕からはしていなかったので、彼女のおかげですね。この最後の一行にするか、もう二行くらい前かで迷いましたけど。
杉江:それで今回の『ライフ』なんですけど、こちらの最後のページも意図してこうなったのでしょうか?
小野寺:これは意識しましたね。やはり『ひと』の流れがあるので、『ひと』でやったんだから『ライフ』にももうちょっと気を遣えよ、と思われたくなかったので。笑
杉江:なるほど、すごいなあ。僕は出版社にいて、紙の本がやっぱり好きなんですけど、電子書籍ってこういうことはできないんですよ。フィジカルな本というものだからできたことで、本であることを感じられたということも本当にいいなあと思いました。*

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小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞。2008年『ROCKER』で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し、単行本デビュー。『ひと』が2019年本屋大賞第2位となり話題に。他の著書に『ひりつく夜の音』『リカバリー』など。
杉江由次(すぎえ・よしつぐ)
本の雑誌社たったひとりの営業部員。浦和レッズと本をよなく愛する二児の父。著書に「『本の雑誌』炎の営業日誌」(無明舎出版)、『サッカーデイズ』(小学館文庫)がある。

Profile

小野寺史宜

小野寺史宜(おのでら・ふみのり)
1968年、千葉県生まれ。2006年「裏へ走り蹴り込め」で第86回オール讀物新人賞を受賞。2008年『ROCKER』で第3回ポプラ社小説大賞優秀賞を受賞し、単行本デビュー。『ひと』が2019年本屋大賞第2位となり話題に。他の著書に『ひりつく夜の音』『リカバリー』など。

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