全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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他人に影響を受けすぎるんです

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 うどんの国からオリーブの島へ。高松港からフェリーで1時間ほど乗って、小豆島の土庄港に入りました。『二十四の瞳』で知られるこの島の名産がオリーブなのです。土庄の中心部は、南北朝時代、攻撃に備えるために迷路のように細い道が張りめぐらされていて、しばらく歩くと自分がどこにいるか判らなくなります。
 その中に〈迷路のまちの本屋さん〉があります。〈MeiPAM(メイパム)〉というギャラリーの前にあるカフェの一角に、ちいさな棚があり、そこに新刊や古本が並んでいます。書店が少ない島では久しぶりにできた、本に出会える場所なのです。
 そこで会ったのが、島乃ゆきこさん(24歳 仮名)。迷路のまちの本屋さんの「店長」と呼ばれています。一箱古本市や、島に住む本好きの人に選んでもらった本を並べる「うちんくの本棚」を企画したりと、頑張っています。
 彼女はこの島の出身ではなく、愛媛県宇和島市の近くの村で育ちました。お母さんは、自分が好きな作家の本や気になった本を、毎晩ゆきこさんに読み聞かせてくれました。とくに『おふろだいすき』や『はじめてのおつかい』は、何度も読んでもらい、絵を描いた林明子という名前も覚えたそうです。お母さんはマンガも好きで、くらもちふさこから若い世代の作品まで読んでいました。自分で本を読めるようになってからは、お母さんが選んでくれた本の中でも、瀬尾まいこや森絵都など、気に入った作家の本をリクエストして買ってもらうようになりました。「タイトルも作者も忘れましたが、整形した女の話を『ゆきこに読んでほしいから』と渡されたことがあります。どういうつもりだったんでしょうか?」。
 近くに書店はありませんでした。小学校で新刊リストを渡されて、欲しい本をチェックして提出すると、しばらくして本が届くという制度があったそうです。そういえば、私も小学生のとき、学研の学習雑誌を学校で受け取っていましたね。公立図書館もなくて、学校の図書室に通ったそうです。
 高校は宇和島市まで1時間かけて通いました。一緒に帰るお父さんとの待ち合わせ場所が書店で、この頃から自分で本を選ぶようになります。好きなバンドのボーカル影響を受け、彼がブログで書いた宮沢賢治、寺山修司、岡崎京子などを読むように。福岡の大学の文学部に進んでからは、友人の影響で、純文学や、短歌、エッセイなど、それまで縁のなかったジャンルの作品も読むようになります。
「大学生の頃、とくに好きだったのが川上弘美です。おだやかな日常を描いているようで、一枚皮をめくるとドロドロしたものがあるところがいいです。ずっと鈍いパンチをされているような感覚が肌に合っているのか、不思議と落ち着くんです」。そして川上弘美が影響を受けた内田百閒や須賀敦子を読んでいきます。
 大学3年生のとき、3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭」の「こえび隊」(ボランティアサポーター)に志願し、高松に引っ越しました。そして、芸術祭で知り合った人たちに声をかけられて、迷路のまちの本屋さんに関わるようになったのです。
 いまは高松の新刊書店でアルバイトしながら、週1回、小豆島に通っています。「わたしは本が好きというよりも、本屋さんが好きなんだと思います。本のある場所で、本をきっかけにして、人やものが出会う仕掛けをつくりたい」とゆきこさんは云います。
 10月17日には、迷路のまちの本屋さんで一箱古本市があり、私も参加します。島では、誕生日を迎えたばかりのゆきこさんが出迎えてくれることでしょう。

 そんな島乃ゆきこさんのお悩みは? 「自分に自信が持てなくて、他人に影響を受けすぎるんです」。人の云うことやすることに憧れすぎるそうです。なるほど、ここまでの話にも、ややそういう傾向が見えますね。
 今回は「自意識」を扱った、女性作家の3冊を紹介します。

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 山本周五郎賞を受賞した、柚木麻子『ナイルパーチの女子会』(文藝春秋、2015)は、仕事も容姿も完璧をめざす栄利子と、ブログで自然体の生活を綴る翔子との愛憎劇です。好きになった人に「自分を理解してほしい!」という切実な思いが、ねじれた行動につながってしまうのです。
「矛盾しているが、苦手だからこそ、嫌悪するからこそ、同じ醜さを持っているに違いないからこそ、自分には同性が必要なのだ」という翔子は云います。異なる世界の住人だったはずの二人が、合わせ鏡のように似てきてしまうのが、不気味であり哀しくもあります。

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 自意識の虜になった人の描写がずば抜けている作家が、本谷有希子です。彼女の『ぬるい毒』(新潮社、2011/新潮文庫)は、主人公の女性が突然現れた男に翻弄されまくります。「なぜここまで狂おしく他人のことを考え続けているのか」。彼の云うがままに流されているように見えながら、彼女の眼には自分しか映っていないようもあります。

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 そして、西加奈子『ふくわらい』(、朝日新聞出版、2012/朝日文庫)の成木戸定は、特異な育ち方をして、他人との接し方が判らないままでいます。「あんたは、まっすぐだから。全部、真正面から、見て、それから、全部、受け止めるから」と評される彼女は、そのまっすぐなまま、人と出会い、少しずつ変わっていきます。彼女が、他人の言葉を本というかたちあるものにする編集者という仕事を選んだことに、私は感銘を受けました。

 若いうちは、友だちや先輩と比べて自分はどうなのか、が気になるものです。そういった自意識は自分のやるべきことが見つかったときに解消する......わけではなく、いくつになっても、このやっかいなものと付き合っていかねばなりません。でも不思議なもので、歳を重ねると、他人から影響を受けたからこそいまの自分があるのだと思えてきます。そのとき、与えられたものは、自分でつかみとったものになっているのかもしれません。

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ

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