全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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両親とうまくいっていないんです

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 福岡市で毎年秋に開かれる「BOOKUOKA (ブックオカ)」は、「福岡を本の街に」を合言葉に、市内の出版社や書店が協力する一大ブックイベントです。2006年に開始され、昨年で10年目を迎えました。

 けやき通りで行なわれる一箱古本市に、数年ぶりに私も参加しましたが、ひっきりなしにお客さんが訪れ一日中にぎやかでした。
 一箱古本市にはたくさんのスタッフがいて、店主さんを手助けしています。私もときどき店番を代わってもらいました。その一人が、大学生の天神ふじこさん(21歳 仮名)でした。金髪でボーイッシュ。近年では古本に偏見のない女子が増えたとはいえ、こんな子が入っているとはおじさんはビックリです。
「昨年、初めてスタッフとして参加しました。店主さんの箱を見て回れるのも楽しいですし、本の話ができる相手がいるのは嬉しいです。みんながエンデの『モモ』を読んでいたりして(笑)。年齢に関係なく仲良くなって、イベントのとき以外にも会うようになりました」
 ふじこさんは福岡市に生まれました。父は予備校の数学の講師で、家にはその専門書しかなかったそうです。母は本好きで、図書館で小説を借りて読んでいました。ふじこさんも一緒に通いましたが、「気に入った本は何度も読みたくて」図書館ではなく、書店で本を買うようになります。誕生日のプレゼントは図書カードだったそうです。
「記憶にある最初の本は、福音館書店の『こどものとも』シリーズです。『きょうはちょうどよいひより』(こいでやすこ)は、仲良しのおばあさん3人が動物と話したり、木いちごのジャムをつくったりするのが好きでした。父と一緒に、この絵本にマジックで書き込みをしたり、紙を貼って新しいページを付けたりと、オリジナルの絵本をつくりました」
 中学1年でイラストレーターおおたうにの『うにっき』シリーズに出会い、東京で生活する大人の女性にあこがれたと云います。その頃から古本屋に行くようになります。ミニスカートで知られるツイッギーの本を手に取り、「こんなに可愛くて新しい女の子がいたんだ!」と思います。そこから1960年代のファッションやカルチャーに興味を持つようになったそうです。
「小学生の頃は、『朝日小学生新聞』に連載されていた山本ルンルンのマンガが好きだったんですが、あれは1960年代っぽかったんだと気づきました。そこから、ローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンやフランス・ギャルなど音楽を聴いたり、スウィンギング・ロンドンについての本などを読んだりして、どんどんその世界に入り込んでいったんです」
 しかし、学校では彼女の趣味を理解してくれる友だちは少なく、変わった子だと思われていたそうです。部活に入らず、放課後に中心街の天神あたりにある本屋やレコード屋に行っていました。 好きなことにすべての時間を費やしていたのです。
 高校では受験勉強漬けの日々。その合間にこっそり本を読んでいました。アゴタ・クリストフの『悪童日記』に衝撃を受け、エッセイを読んでジャズ・ミュージシャン菊地成孔のファンになります。美大に行きたかったのですが、父が厳しいこともあって諦めたと云います。まるで、アメリカ映画『ゴーストワールド』(テリー・ツワイゴフ監督、2001)の少女たちみたいです。
 その頃から、けやき通りにある新刊書店〈ブックス・キューブリック〉にしょっちゅう通い、宇野亜喜良の画集を注文したりします。「なんだ、この女子高生は?」と面白がった店主の大井さんが話しかけたことがきっかけで、「ブックオカ」のスタッフになったわけです。
 いまは大学で社会経済学を学び、流行について研究しています。本はたくさんありますが、苦労して手に入れた本だし、再読するのが好きなので手放せないそうです。そのため、一箱古本市には店主ではなくスタッフとして関わっています。「本棚を眺めていると幸せですね」と、ふじこさんは笑います。
 デザイン塾に通ったり、広告会社でアルバイトしたりと、いまは充実した生活を送っているようです。

 そんな天神ふじこさんのお悩みは?
「最近、両親とうまくいっていないんです。もともとお父さんっ子だったんですが、大学受験の際に父に意見を押し付けられたことからぎくしゃくした関係になっています。母にも悩みを相談しにくいです」
 一人暮らししたい、将来は東京に出たいという希望があるけれど、そういう話を両親とまったくできないそうです。
 肉親だけに、いちど気持ちがすれ違うと、なかなか修復できないということはありますね。今回は親子の愛憎を描いた3冊を。
 男性作家についてその子どもが書いた回想記は、息子よりも娘のほうが圧倒的に数が多く、しかも傑作が多いです。幸田露伴の娘・幸田文、室生犀星の娘・室生朝子、萩原朔太郎の娘・萩原葉子など。愛情深くても強圧的であっても、父との関係を描くことが娘の自己発見につながるのかもしれません。
父の帽子.jpg 森茉莉『父の帽子』(筑摩書房、1957/講談社文芸文庫)は、文豪の森鷗外の思い出を描いたものです。幼いころ、彼女はやさしい父に存分に甘えます。
「父が奥の部屋にいる時には、境界(さかい)の唐紙を開けて入っていった。そうして机に向ってなにか書いている父の背中に飛びつき、(略)直ぐに膝に乗り、膝の上で少し飛ぶようにした。父は微笑して、『フン、フン』と肯くようにしながら、私の背中を軽くたたくのだった」
 父の口癖は「おまりは上等よ」でした。母もやさしく美しく、光に包まれたような幼少期を送っています。しかし、茉莉が16歳で結婚してからは、父との間に「冷ややかな空気」が横たわるようになります。そして、茉莉の外遊中に父は亡くなります。
 森茉莉は54歳で本書を刊行し、その後30年間、作家としての活動を続けます。還暦で亡くなった父との「交代劇」が持つ意味については、矢川澄子『「父の娘」たち 森茉莉とアナイス・ニン』(平凡社ライブラリー)で論じられています。
八日目の.jpg 角田光代『八日目の蟬』(中央公論新社、2007/中公文庫)は、母と娘の物語ですが、この二人は血でつながっていません。母は不倫相手の妻が生んだ赤ん坊を連れ去り、育てるのです。すべてを捨て、小豆島で二人だけの生活を送りますが、その日々は短いものでした。そして十数年後、成長した娘はどこか「偽の母」を追うように生きるのです。
父と娘.jpg 父と娘の間にはさまざまなかたちがあるのだと教えてくれるのが、江川紹子『父と娘の肖像』(小学館文庫、2006)です。タレント、スポーツ選手、女優、歌手、作家などとして活躍する女性21人に、父のことを聞いています。
政治家の野田聖子は、こう語ります。
「今まで、父よりも変な人に会ったことがない。そういう人と一緒に暮らしていたから、了見が狭くないというか、いろんな人を心からウェルカムできるし、ある程度打たれ強いんだと思う」

 離れて暮らしたとしても、親と子の関係はどちらかが死ぬまで続きます。そのなかで、関係は少しずつ変わってくるのではないでしょうか。いま、ふじこさんが両親に抱いている気持ちも、ずっとそのままではないと思います。時間が解決してくれることは意外に多いというのが、私の実感です。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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