全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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人付き合いがうまくできません

きみどり.jpg まだ肌寒いですが、春まであと少しという感じですね。ゴールデンウィークには、毎年恒例の「不忍ブックストリートの一箱古本市」が開催されます。今年は5月3日(火・祝)です。全国で開催されている一箱古本市ですが、谷根千の町のお店や建物の軒先を借りて、そこで古本を売ったのが最初なのです。天気さえ良ければ、今年も多くの人出があることでしょう。
 昨年の同じ日、ある会場で面白い箱を見つけました。「お茶の間 草の間」という屋号で、本のほかに新聞記事の切り抜きを10円とかで売っていました。また、手書きの雑誌も並べているので、なにかと訊いてみると、「私が小6のときにつくった雑誌なんです」という答えが返ってきました。これは売り物ではないそうです。変わってる......。
 店主のサクマサオリさん(26歳 仮名)は、出版社で働いています。後日、改めて手づくり雑誌を見せてもらいました。タイトルは「Sweet&Happy」で6号まであります。蛍光色のマーカーで手書きされていて、全体にキラキラしています。内容はファッションのことばかり。読者プレゼントや編集後記もあって、雑誌っぽいつくりです。「天地社」という社名まで入っています。当時はやっていたローティーン向けファッション雑誌「ピチレモン」の影響だそうです。家族にも友人にも見せずに、一人でこっそりつくって楽しんでいたとのこと。すごい小学生です。
 東京生まれ、両親と弟との4人家族。家には本が少なく、小学校の頃はあまり読んでいません。「一冊読み通すのがめんどくさかった」とのこと。図書館や本屋の思い出もないそうです。
 その分、雑誌やマンガが好きでした。「ピチレモン」「二コラ」「セブンティーン」などのファッション雑誌を買い、「りぼん」の『GALS!』(藤井みほな)が大好きでした。当時の夢は「将来、ギャルになること」。
 中高でも教科書に載った小説を読むぐらいでしたが、大学に入って変わったそうです。専攻した教育哲学に関する本を読んだり、ゲーテや谷崎潤一郎、三島由紀夫などを読みます。
 卒業後、会社の福岡支店に配属されます。仕事の息抜きに、本屋に行くのが楽しみでした。当時福岡で発行されていた、手仕事やものづくりに関する雑誌「手の間」のファンになります。前回紹介した「BOOKUOKA(ブックオカ)」の一箱古本市にも出店しています。
 その後、上京して出版社に入ります。自分が面白いと思う雑誌で働けて、いまは充実しているそうです。
 最近面白かった本は、小説ではトレイシー・シュヴァリエ『真珠の耳飾りの少女』、ノンフィクションではダニエル・L・エヴェレット『ピダハン 「言語本能」を超える文化と世界観』やK・デイヴィッド・ハリソン『亡びゆく言語を話す最後の人々』などフィールドワークをもとに書かれたもの。
「自分と異なる世界に生きる人や、違う考えを持った人の本に惹かれます。読書に面白さよりも心がえぐられる体験を求めているのかもしれませんね」

 そんなサクマサオリさんのお悩みは?
「人付き合いがうまくできません。仕事柄、人が多く集まる場に出ることがありますが、そこでどういう風に振る舞っていいかが判らないんです。人と知り合う機会を逃してしまっている気がします」
 これは私にもよく判りますね。先日、友人の出版記念会に行ったら、100人以上集まっていました。そういうとき、誰に話しかけるか、そのタイミングは......なんてことばかり気にしている自分がいます。二次会に誘われましたが、なんだか疲れて帰ってしまいました。
山口瞳.jpg この機会に読んでおこうかと、人付き合い読本の定番である山口瞳『礼儀作法入門』(祥伝社、1975/新潮文庫)を手に取りました。ファンの多い作家ですが、頑固な東京人という感じで、田舎者の私は敬遠していました。
 本書はまさに入門書で、「祝儀袋の渡し方」から「結婚式」「病気見舞」「手紙の書き方」「祝辞」「贈りもの」など、社会人生活で誰もが一度は出会うシチュエーションにおける作法が述べられています。執筆から40年経ったいまでは通じにくい教えもありますが、礼儀作法は相手の気持ちを思いやることだという言には納得させられます。
 ただ、「パーティーの客」の項で、「社交というのは、すでにして半分はビジネスであるから、他人からの印象を悪くするということがあってはいけない。(まあ、普通にふるまっていればいい)」とあると、自分は普通じゃないんだと突き放されたような気持ちになります。これが、私が山口瞳を苦手な理由かもしれません。
 それにしても、この文章を書いているときの山口瞳は48歳。いまの私の年齢です。つくづく自分はオトナじゃないなあと思います。

勝手にふるえてろ.jpg 一方、綿矢りさ『勝手にふるえてろ』(文藝春秋、2010/文春文庫)には、サクマさんや私が「そうそう、こうなるんだよ!」と共感してしまう場面があります。主人公のヨシカは中学時代に片思いしていた男と再会し、友人宅での鍋パーティーに出ます。そつなく楽しく振る舞うことができないヨシカは、この場でも浮いています(少なくとも、本人はそう感じています)。
 好きな彼が別の女と話し込んでいるとき、どうしたらいいか分からなくなったヨシカはひとりでイラストを描きはじめるのです。しかも、そのあと彼から話しかけられるというビッグチャンスもあっさり流してしまいます。

島に免許.jpg 過剰な自意識を抱えて、辛い思いをしている人には、星野博美『島へ免許を取りに行く』(集英社インターナショナル、2012)を読んでほしいです。
 ノンフィクション作家の著者は、人間関係からの疲れと愛猫の死をきっかけに、運転免許を取ろうと、長崎県五島列島にある自動車学校に合宿します。あとから入学した若者が卒業していくなか、一向にうまくならない著者は「寮長」と呼ばれる古株になってしまいます。
 著者はこんなところに来なければ、一生会わなかったであろうギャルや教官たちと灯台まで遠足に出かけます。「この時間は二度と戻らない」からこそ、その場面は美しいのです。
「東京で人との距離のとり方がまったくわからなくなってしまった自分と、彼らは先入観なしで付き合ってくれた。互いのことを何一つ知らない人たちと関係性を築けたことで、彼らからほんの少し勇気をもらった。(略)彼らこそ、私の救世主だった」
 島を出るとき、著者はこう感謝します。

 人付き合いを自然に楽しそうにできる人を見ると、うらやましくなります。でも、人付き合いが下手そうでも魅力的な人はたくさんいます。せめて、そういう人に私はなりたい、ですね。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

Pick Up Book

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