全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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上の世代との付き合いかたが分かりません

dogu.jpg 千葉県の佐倉市は、東京都心から1時間ほどのところにある城下町です。佐倉城址公園や国立歴史民俗博物館など、見どころも多いです。京成とJRのほぼ中間にある新町という古い町並みで、今年3月に「佐倉城下町一箱古本市」が開催されました。
 会場のひとつであるゲストハウス〈おもてなしラボ〉には、県内全域からの参加者が箱を出していました。その中に、ふしぎな帽子をかぶった若い女性の姿がありました。聞けば、縄文土偶の帽子とのこと。屋号も「筋肉ピーチ味」という変わったもので、本の並びもなんだか面白かったです。
「土偶も好きなんですけど、貝塚も好きなんです。千葉市にある加曽利【かそり】貝塚は、縄文時代の貝塚で日本でも最大規模のものなんですよ。そこのキャラクターが『かそりーぬ』といって、とってもカワイイんです!」
 と力説するのは、店主の貝塚もすさん(25歳)。どこか遠い話のおとぎ話のようで、その場ではまったく頭にはいらなかったので、後日、改めて彼女に会って話を聴きました。
 もすさんは千葉県生まれ。両親ともに教師で、家には本がたくさんあったそうです。
「小さいころから自然に本を読んでいました。父の本棚にあった仏教や哲学の本にも手を伸ばしています。クリスマスのプレゼントはいつも本でした」
 記憶に残る最も古い本は、ブレーメンの音楽隊の絵本。何度も読み返しましたが、「最終的にはページをハサミで切ってしまって、母に怒られました。なんでそんなことをしたのか、自分でも分かりません(笑)」
 小学1年のときに事故でひじを骨折し、外で遊べないために、学校の図書館に通うようになります。それがきっかけで、卒業するまでにそこの蔵書を読み尽すまでにいたります。特に好きだったのは、『忍者かげろうの風太』(二反長半)。ページ数が多くて読みごたえがあったそうです。歴史の面白さを教えてくれた物語でした。ほかには、「かいけつゾロリ」シリーズも読んでいます。
 中高ではバスケットボール部に所属。部活と受験で、本を読む暇がなくなりますが、母が好きだった宮部みゆきはほぼ全作読みました。
 中学の頃に土地の契約書を見て、「こんな決まりが世の中にあるのか」と驚き、法律を学びたいと思っていたもすさんは、大学では法律学科に入ります。そして、大学図書館で法律書や心理学の本を多く読みました。
 卒業後は、千葉県の公務員として働いています。社会人になってからは、職場での悩みもあって、人間関係についての新書をよく読むようになりました。
 加曽利貝塚のことを知ったのは、2014年、千葉市が「かそりーぬ」を加曽利貝塚PR大使に任命したときです。かそりーぬは「加曽利E式土器」を頭にかぶり貝の首飾りをかけた犬のキャラクターです。
「カワイイのにあまり注目されていないのがもったいないと思って、有志でかそりーぬのイベントをやるようになりました」
 そこから貝塚や縄文時代に興味が湧き、『はじめての土偶』(世界文化社)などを読みます。考古学は遺跡から当時の人々の生活を推理したり、世界各地で比較対照したりするところに面白さがあると感じているそうです。
 佐倉の一箱古本市には、姉と友人の3人で参加。意外な本が売れることに驚いたと云います。
「いずれは、加曽利貝塚でも本のイベントができたらいいなあ」と云うもすさん。パワフルな行動力で、本当に実現してしまう気がしますね。

 そんな貝塚もすさんのお悩みは?
「職場の異動で、お年寄りと関わる機会が増えました。昔話をされたり、説教されたりすることが苦痛です。上の世代との付き合いかたが分からないんです」
 世代間のギャップは、いつの時代でも悩みの種ですね。ウソかホントか分かりませんが、古代の遺跡に「近ごろの若い奴は......」と文字が残されていたという話を聞いたことがあります。
 ただ、好きなものが共通していれば、世代なんか軽々と飛び越えてしまうのも事実です。
ni home.jpg  ながさわたかひろ『に・褒められたくて 版画家ながさわたかひろの挑戦』(編集室屋上、2016)は、ヘンな本です。著者が好きなミュージシャン、タレント、芸人、映画監督にアポなしで会いに行き、「あなたを描かせてください!」と頼み、完成した版画を持って再び会いに行くという行為を記録しています。
 ながさわさんのことを相手は知らないし、絵を描く約束なんて忘れてしまいます。でも、その約束を果たして見事な版画を持ってくるながさわさんに対して、相手は、そして読者は不思議な感動を覚えるのです。
 最近、こんなにすがすがしい本を読んだことはありません。人間関係に悩んだら、ぜひ手に取ってください。
huhuin.jpg 話の聞き方によっては、昔話もエンターテインメントに変わるのではと思わせるのが、森まゆみ(聞き手)『風々院風々風々居士 山田風太郎に聞く』(筑摩書房、2001/ちくま文庫)です。
 山田風太郎は、忍法帖や明治伝奇小説で知られる小説家。すでに70歳を超えたこの作家のもとに、30歳下の森まゆみさんが訪れます。森さんは「地域雑誌 谷中・根津・千駄木」を発行し、歴史にも詳しいひとですが、ここでは、へんに自己主張せず、じつに巧みに山田風太郎の話を引き出しています。
 相手への尊敬を前提としつつ、同じ話を繰り返す作家に軽くツッコミを入れる呼吸には、学ぶ点は多いでしょう。
 ここでの山田風太郎が、「森さんはあれですねぇ、うちのの若い時に似てるな」とまでにやけているのに対して、同じ時期の面談をもとにした関川夏央『戦中派天才老人・山田風太郎』(マガジンハウス、1995/ちくま文庫)の山田は、いつも不機嫌そうです。でも、どちらもこの作家の風貌なのです。両者を読み比べてみるといいでしょう。
yutopia.jpg 世代が近くても、ギャップは起こり得ることを痛感させるのが、湊かなえ『ユートピア』(集英社、2015)です。本作は先日、山本周五郎賞を受賞しています。
 太平洋に面した港町で出会った3人の女性が、車いす利用者に寄付する目的で、すみれのつくるストラップを販売する「クララの翼」をはじめます。
 最初はうまく行っていた三人の関係が、次第に軋みを生じます。自分は満たされていないという気持ちがどこかにあり、ほかの二人が得をしているように感じてしまうのです。

 世代が異なれば、共通する経験や知識が違うのは当たり前です。そのギャップを苦痛に感じるのでなく、むしろ面白がるようになれれば、上の世代との付き合いかたも変わってくるのではないでしょうか。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

Pick Up Book

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