全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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時間の使いかたがうまくなりたいです

koushi.jpg 昨年9月に神戸・元町にオープンした〈1003(せんさん)〉は、「食と酒」をテーマにした本を主に扱う古本屋です。中華街の入口からすぐ近くのビルの2階にちょこんとある小さな店だけど、いい本がありビールも飲める、愛すべき古本屋さんなのです。
 店主の奥村千織さん(36歳)とは、まだ開業準備中の頃に神戸で会いました。訪れると、千織さんのご主人が内装作業の真っ最中。古本屋らしからぬ店名が、二人の名前からとったと聞き、甘酸っぱい気持ちになりました。
 千織さんは、京都府の真ん中あたりの小さな町で生まれました。祖父母、両親、弟、妹の7人家族です。両親はともに教員で、家には本が多くありました。父の本棚には、近代文学の復刻全集や宮大工の西岡常一の本に混じって、赤川次郎の本もあり、千織さんは三毛猫ホームズや三姉妹探偵団のシリーズをよく読みました。
 母に読んでもらった絵本で覚えているのは、『おさじさん』(松谷みよ子・文、東光寺啓・絵)。動物がご飯を食べる場面がおいしそうだったといいます。また、中原淳一が絵を描いた『シンデレラ』では、ドレスのレースの細かい描写に見入りました。
 自分で読むようになってからは、『うみべのまちのタッソー』(ウィリアム・パパズ)や『青い目のペサラク』(ジャヴァード・モジャービー)などを読みました。
「『うみべ~』では、物語に出てくる店のレジの横にあった伝票差しがステキであこがれました」と千織さん。細かい点をよく覚えています。
 小学生の頃は運動が苦手で、休み時間には学級文庫の本をよく読んでいました。クラスの女の子の間では、コバルトなどティーン向け文庫をどれだけ読んだか競いました。なかでも漫画家でもある折原みとは人気で、ベストセラーになった『時の輝き』を読んで「骨肉腫」という病気を覚えたそうです。
 また、近所の公民館の図書室には、自分が通っていた幼稚園の元園長が司書として働いていて、親近感もあってよく通いました。
 中学、高校は部活動や受験勉強もあり、あまり本を読んでいません。美内すずえのマンガ『ガラスの仮面』が読みたくて、当時出ていた数十巻を友だちから安く買ったことがあります。ほかにも萩尾望都や『王家の紋章』など、以前に出たマンガに興味を持っていました。
 大阪の大学の外国語学部に進学。一人暮らしをはじめます。大学の生協では新刊が割引で買えるので、三島由紀夫、澁澤龍彦や、先輩が読んでいるような名著を買いました。司馬遼太郎の『燃えよ剣』『新選組血風録』を読んだのがきっかけで、卒論で新選組のことを書いたそうです。
 卒業後は、就職せずに実家に戻ってアルバイト暮らしをしていましたが、「本に関わる仕事をしたい」と大学図書館で働くようになります。勤務先でさまざまな本を借りて読みましたが、「なぜか、返却期限が来て読めないまま返した本のほうが良く覚えているんですよね(笑)」。そういうものかもしれません。
 結婚してから数年経って、家具職人の勉強をはじめた夫とともに飛騨高山に住みます。ここでユニークな活動をする人に多く出会い、自分でも何かできないかなと思ったときに思い出したのが、旅行で訪れた長野県小布施町で見た一箱古本市でした。
 神戸に戻ってから、友人に声をかけて、2013年11月に「芦屋川一箱古本市」を主催します。商店街のなかにあるお寺の境内で、10箱程度と小さなイベントでしたが、お客さんが多く来てくれたそうです。
「この時の経験から、お客さんとじかに話ができて、自分ひとりでやれる仕事をしたいと思うようになり、古本屋をはじめることにしました」と、千織さんは云います。
 オープンしてから半年以上が経ち、お金を稼ぐことの大変さを日々噛み締めています。それでも、店内でイベントを積極的に行なったりすることで、〈1003〉の常連客は着実に増えているようです。今後も末永く続いてほしい古本屋さんです。

 そんな奥村さんのお悩みは?
「店をはじめてから、本があまり読めなくなりました。仕事と生活の切り替えが下手なんでしょうか。時間の使いかたがうまくなりたいです」
 勤務時間がいちおう決まっている勤め人と異なり、自営業やフリーランスはどこまでが仕事の時間なのかが、ハッキリしないことが多いですよね。
 一日のタイムスケジュールをうまく組む方法については、その通り実行できるかは別にして、山ほどあるビジネス書にお任せして、今回は、仕事とプライベートの関係についての本を紹介します。
onmitu.jpg 今野敏『隠蔽捜査』(新潮社、2005/新潮文庫)は、警察小説の傑作です。このジャンルは、組織のなかでの個人の身の振り方を描いた小説が多いですが、本書の主人公・竜崎伸也は東大出のキャリア官僚にもかかわらず、我が道を行く「変人」です。しかし、竜崎のいわば空気を読まない姿勢が、いざというときに正しい判断をさせるのです。
 彼は家庭においても変人で、妻や娘、息子とうまく接することができません。家に帰っても独自のルールを貫いて、平気で仕事を家庭に持ち込みます。そんななかで、竜崎は息子が麻薬を吸っている現場を見つけてしまいます。これが明るみに出れば、これまで順調に歩んできた出世の道は閉ざされるでしょう。はたして竜崎はどういう決断を下すのか......?
 本作のあと、シリーズとして短篇集を含む7冊が刊行されており、新作も近々出るようです。話が進むにつれて、竜崎の家庭の描写が次第に増えていきます。コミカルな要素もあり、『果断 隠蔽捜査2』で、息子から勧められて竜崎が『風の谷のナウシカ』を観る場面は爆笑必至です。
kurashi.jpg 大橋鎭子『「暮しの手帖」とわたし』(暮しの手帖社、2010)は、1948年に「暮しの手帖」を創刊し、その後亡くなるまで会社に居続けた女性の自伝です。「暮しの手帖」といえば、編集長の花森安治が有名ですが、大橋鎭子は社長として会社を経営しつつ、花森の指揮のもと、一人の編集者としてプランを立て、依頼に出向き、自らモデルになっています。
 鎭子は父を失ったあと、母と二人の妹を守るために職業婦人として働き、戦後、女性のための出版をやろうと考えます。そのことを相談した花森安治とともに、「スタイルブック」そして「暮しの手帖」を発行するのです。
 彼女は一生結婚せず、「暮しの手帖」とともに生きました。雑誌に役立つことはないか、つねに考え、探して歩きました。身近にいた阪東紅美子によれば、晩年、自宅療養していた頃も、外国の料理本を真剣に眺めていたそうです。仕事とプライベートの境目など、考えたこともなかったのではないでしょうか。
 暮しの手帖社の「研究室」には台所があり、社員が交代で全員の食事をつくりました。編集会議には、編集者だけでなくすべての社員が出席し、旅行やパーティーなどともに過ごす時間を多く持ちました。
「編集部というより、『暮しの手帖』を作っている家族、という感じ。会社というより、家庭のよう。あたたかみのある、愉快な場所でした。そんななかで『暮しの手帖』を作ることを、編集部員みんなが、とても大事なことと思っていたのです」
 本を読むのには、まとまった時間は必要ではありません。どんな長い本でも少しずつ読んでいけばいいのですから。それだと忘れてしまうという人には、ショートショートをお勧めします。数百字から原稿用紙数枚程度の短い物語です。
short.jpg 田丸雅智編『ショートショートの缶詰』(キノブックス、2016)は、自らもショートショート作家である編者が選んだ24作を収録しています。ショートショートの第一人者で1001編以上を書いた星新一を筆頭に、『掌の小説』として短い作品を好んで書いた川端康成、SF作家の筒井康隆や小松左京、詩人の谷川俊太郎ら、バラエティに富んだセレクトになっています。
 一気に読むのもよし、一篇ずつ拾い読むのもよし、どの順番で読むかも自由です。そういえば、ショートショートは私の読書の入口でもあったことを、思い出しました。

 不思議なもので、時間は意識するとやたらと長く感じますが、なにかに夢中になっているときには、過ぎていく時間を感じることはありません。
 やっぱり、熱意があれば、時間はついて来るのではないでしょうか? 自戒を込めて、そんなふうに思います。

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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