全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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価値観が異なる人と、どう付き合っていけばいいでしょうか?

mikan.jpg 黒っぽい服に身を包み、クールに見えるたたずまい。それが、はじめて日田南さん(31歳 仮名)に会ったときの印象でした。今年の春、不忍ブックストリートの助っ人さんとして、一箱古本市やその他のイベントを手伝ってくれました。
 打ち上げの飲み会で話すと、「私、ZINEをつくってるんです」と冊子を手渡されました。『SATURDAY SUNDAY』というタイトルで、1日1コマ描いている絵日記から抜粋し、コメントを加えたものです。アラスカ、文房具、音楽、ファッション、釧路など、自分が好きで興味を持ったものにまっしぐらに向かっている様子を微笑ましく感じました。
 なかでも、以前から好きだというソニック・ユースのベース、キム・ゴードンの自伝(『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』DU BOOKS)については、熱く語っています。
 これは本好き女子に違いないと、改めて会ってみると、大人しそうに見えた日田さんがじつによく喋るしゃべる! 出てくる固有名詞が最多のインタビューになりましたが、かなりはしょってお伝えします。
 神奈川で生まれ、すぐ千葉に引っ越し、4歳ぐらいで埼玉県に移って、そこで成長します。両親と3つ下の弟、祖父母の6人暮らし。
 父も母も読書家で、家の中には大きな本棚がありました。父は昔、高円寺に住んでいて、マンガなどサブカルチャーの影響を受けています。母は横須賀育ちで、少女時代に松田優作をライブハウスで見たことを自慢するそうです。「自己主張の激しい両親なんです」と日田さんは苦笑します。
 最初の本の記憶は、幼稚園の頃、母が日田さんを身ごもっていたときに付けていたマタニティ日記を書きこんだ絵本(?)というから、変わっています。
 小学生で、父親が買っていた「ビッグコミック」や「モーニング」を読み、母に連れられてライブを見に行き、「米国音楽」「スタジオボイス」などのカルチャー誌を買ってもらっていたというから早熟です。
 クラスメイトとは話が合わず、「あんたらとは違う」という態度なので、浮いた存在になっていたそうです。「いま考えるとイタイですよね」と日田さんは笑います、それでも、卒業文集で描いた絵を同級生にカワイイとほめられたのは嬉しかったそうです。
 中学では美術部に入ります。同じ部の女の子とはマンガの話ができて、そのお母さんからもマンガを借りました。その頃から、背伸びして、両親の本棚からサリンジャーの小説や寺山修司のエッセイを引っ張り出して読みます。エンタメ系では京極夏彦が好きでした。
 高校では「照明の機械がDJマシンみたいでかっこいい!」と演劇部に入りますが、裏方は男しかダメと云われて反発し、しだいに行かなくなります。大人計画の芝居に興味を持ち、主宰の松尾スズキの戯曲やコラムを読みます。この頃は、ひとりで渋谷の街を歩き、〈ブックファースト〉や〈タワーブックス〉で、雑誌や本を買いました。
 大学は1浪して理工学部土木工学科に入り、千葉県で一人暮らしをはじめます。実家から離れて、自分で本を買うようになり、神保町の古本屋に通ったそうです。大学院を経て、建設コンサルタントの会社に入りますが、あまりに忙しくて好きなカルチャーに触れらない生活に息が詰まり、3年でやめます。
 実家に戻って求職中に、フリーペーパーをつくりはじめます。ライブのフライヤーを集めていたり、雑誌でZINEと呼ばれる少部数の手づくりメディアの紹介を読んだりしたことがきっかけでした。
 2012年、ZINEなどのオンラインショップ「Lilmag」が主催するお茶会に参加。ZINEをつくっている人たちと話したり、その場で購入したりしました。そして、自分でも『SATURDAY SUNDAY』をつくって、ZINEのイベント「ジンスタギャザリング」で販売するに至ったのです。
 1日1コマの絵日記はいまも続いていて、そこから抜粋して新しいZINEをつくりたい、いずれは翻訳してアメリカやアジアに持っていきたいと、夢は広がっています。

 そんな日田南さんのお悩みは?
「価値観が異なる人と、どう付き合っていけばいいでしょうか? 人と話していると、自分の気持ちをうまく言葉にできなくて、一方的に反発したり、ヒートアップしてしまいがちです」
 たしかに、価値観や考え方の違う人と話していると、「そうじゃないんだよ!」とイライラすることがありますよね。
band.jpg バンドでも解散するときは、よく「音楽性の違い」が理由だと云いますよね。でも、速水健朗ほか『バンド臨終図鑑』(河出書房新社、2010)で取り上げられた、1960年代以降にデビューした200組のバンドやグループの解散理由は、メンバー間の力関係、ギャラ、ドラッグ、女の取り合い、結婚、離婚などさまざまです。
 注目したいのは、かなりの割合でのちに再結成していることです。ビジネス的な要請もあるでしょうが、それ以上に、時間を置くうちに、深刻に思えた溝がたいして深いものでないことに気づくのだと思います。価値観とか考え方も不変のものではなく、自分の中でも変化していくものだと思えば、相手の価値観を全否定することのなくなるのではないでしょうか。
 ただ、せっかく再結成しても、すぐに分裂する例も多いようです(ディープ・パープルのメンバーチェンジ→再結成→メンバーチェンジの過程は、系図のように複雑です)。なかなか学習しないのも人間なのですね。
kaminotoge.jpg 須賀しのぶ『神の棘』Ⅰ・Ⅱ(早川書房、2010/新潮文庫)は、学校の同窓生である二人が、ナチス政権下のドイツで正反対の立場に身を置きます、アルベルト・ラーセンはナチスドイツの親衛隊SSに属し、教会弾圧を進め、マティアス・シュルノはフランシスコ修道士として、ナチスに排除される人たちを助けようとします。両者は相容れず、ラーセンはシュルノを拷問にまで掛けるのです。
 しかし、ナチスの尖兵であるはずのラーセンにもこれでいいのかというためらいがあり、シュルノにも神を信じきれない弱さがあります。ひとりの人間がひとつの色に染まり切れない、心のひだのようなものを著者は丁寧に描いています。
sabu.jpg 最後に、山本周五郎『さぶ』(新潮社、1963/新潮文庫)を。経師屋に奉公する栄二とさぶは「いつかは一緒に店を持とう」と語り合います。栄二が器用で女にもてるのに対して、さぶはぐずで下働きのままです。
 しかし、栄二は身に覚えのない罪を着せられたことから、石川島の人足寄場に送られます。そこで会った人たちによって、かたく凍りついていた栄二の心は、次第にほどけていきます。
「ことによるとおれは、いままでこの人たちを本当に見ていなかったのかもしれないな。(略)こういう考えが心にうかぶと、彼はなんとなく胸がひろがって、呼吸が楽になるように感じ、また、新しく眼の前にあらわれた広い展望の山河が、少しずつ見わけられるようなおちつきを感じた」

 ご自身でも気づいているようですが、日田さんには自分の好きな世界を絶対視しすぎるところがあったのでは? 私も昔そうだったので、よく分かります。でも、自分の価値観にこだわりすぎると、かえって世界を狭くしてしまいます。面白いことは案外、自分の目が届いてない場所に転がっているものです。価値観の異なる相手の言葉に耳を傾けてみると、そのヒントが見つかるかもしれないですよ。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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