全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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決められない性格を直したいです

boshi.jpg 山形県南部の置賜(おきたま)地域で開催される「Book! Book! Okitama」(以下BBO)は、米沢市など3市5町の30か所の店や施設で本に関する企画を行なうブックイベントです。
 私は2014年の第1回にこのイベントを見に行きました。メインイベントの一箱古本市の会場である川西町フレンドリープラザには、この町の出身者である作家・井上ひさしの蔵書をもとにした「遅筆堂文庫」があります。遅筆堂文庫はこの地域の本好きの若者が井上さんと交流するうちに生まれたもので、BBOはその流れをくむミニコミ「ほんきこ。」のメンバーが主になって運営しています。
 だから、本好きの琴線に触れる企画が多いのです。今年は図書館を一日使い、新聞や小説をつくるワークショップを行ない、夜はみんなでそこに泊まりました。朝起きて、体操をして、地元の米のおにぎりを食べるのが、なんだかとても楽しかったです。
 3回目となる今年、実行委員長になったのが米沢ナツコさん(29歳 仮名)です。複数の企画が同時進行し、会場を忙しそうに飛び回っていました。
 米沢生まれで、両親、祖母、2つ下の妹の5人家族。母は本好きで、ナツコさんも絵本を買ってもらっていました。覚えているのは、『シンデレラ』『白鳥の湖』などのアニメを絵本にしたものや、『おしいれのぼうけん』(ふるたたるひ、たばたせいいち)、ねずみの家族が活躍する「14ひき」シリーズ(いわむらかずお)など。
「魔女の薬のつくりかたを描いた絵本も好きでした。非現実的な感じにあこがれていたのかもしれません」
 小学3年生の頃に「たまごっち」が流行ると、友だちと一緒に、各自がマンガを描いて「たまごっち」のアンソロジー本をつくります。表紙、目次、編集後記もあり、ホチキスで綴じました。
 小学校の図書室には、それほどたくさん本がありませんでしたが、シャーロック・ホームズのシリーズなどを読みます。小さな新刊書店が近所にあり、学校帰りに立ち寄って、「りぼん」や少女マンガのコミックスを買っていました。
 中学に入ると、友だちとマンガを回し読みします。米沢一にマンガが揃っている書店に入り浸って、一日中立ち読みして店員に怒られたことも。
 高校では、受験勉強から逃避して、学校の図書室で本を読みます。太宰治の『人間失格』は、劣等感を持つ自分を投影して読みました。
 一人暮らしがしたいと、新潟の大学に進学し、社会学を専攻します。この時期は社会学や宗教学などの新書を読んでいました。その後、留年、休学、復学とフラフラしていたところに、東日本大震災が起こり、何かやらないと! と学内で読書会を呼びかけるも、参加者が集まらずに挫折。そのまま中退します。地元に帰り、NPOや町役場などで働きますが、なかなか腰が落ち着きません。
 そんなときに参加した市民講座で、人と本の話ができる楽しさに気づきます。その後、「ほんきこ。」の新年会に出たのがきっかけで、BBOのスタッフとなります。
「ゆるいけれど役割分担があって、自分のやりたいことを生かせる場だと思います」
 昨年のBBOでは、『Poppo』というリトルプレスをつくります。米沢の木彫玩具「お鷹ぽっぽ」を紹介するものです。小学生で一緒に「たまごっち」本をつくった友だちがデザインしてくれました。なんだかイイ話ですね。
 読書について、「次に何を読もうとか、あまり思わないですね。むしろ、偶然知ったり、誰かに勧められて読んでみると、感動することが多いです」と、ナツコさんは云います。大学生のとき、雑誌で知った白石一文の『僕のなかの壊れていない部分』を読んでこの作者にハマりました。最近では、ちくま文庫で復刊された獅子文六の『コーヒーと恋愛』が「すごく笑えてスカッとしました」とこと。

 そんな米沢ナツコさんのお悩みは?
「決められない性格を直したいです」
 ナツコさんは、ひとつのことをじっくり考えるのが苦手。これまではその場の状況に合わせて、なんとかなっていたけれど、ここぞというときの決断力がほしいと云います。
koiha.jpg 森まゆみ『恋は決断力 明治生れの13人の女たち』(講談社、1999)は、タイトルからしてカッコイイですが、登場する女性たちはみんな颯爽としています。まだ女性が家や世間から「良識」を押し付けられていた時代、彼女らは軽々とその枠から広い世界に飛び出ています。
 たとえば、女優の北林谷栄はこう語ります。
「わたくし、一つだけ確かなのは、ラッキーチャンスをつかんだら決して離しちゃいけないということね。(略)チャンスを得るには、自分の持っているものをふだんから示し続けることです。自分で用意してね。それを見ている人はきっといる」
 書名にもなった「恋は決断力」で、90歳になった鈴木真砂女は、波乱に満ちた恋を語り、一人で暮らすいまが愉しくてしかたがないと云います。ほかにも、吉行淳之介の母・あぐりや、原爆画を描いた丸木俊、歌人の斎藤史らが登場します。
 70代から90代の女性たちが、自分で決めたこと、選んだことを後悔せず、いまを生きている様には励まされます。
nitirn.jpg 一方、男がぐずぐずする様が描かれる短篇小説が、横光利一の『機械』(『日輪・春は馬車に乗って 他八篇』岩波文庫、1981)です。「私」が働いているネームプレート工場の主人には「金銭を持つと殆ど必ず途中で落としてしまう」という奇癖があります。周りの人々はそのことで迷惑を蒙るのですが、なぜか、主人には独特の魅力があり、許されてしまいます。そして、登場人物はみんな、現実から目を背け、決断を先送りにするのです。
 何度も持たせても確実に落としてしまう主人は、コントのようで笑えますが、一方で「一つの欠陥がこれも確実な機械のように働いていたのである」ことには、人間が背負う宿命を感じてぞっとします。
 なお、この短篇だけを10年間かけて論じた、宮沢章夫『時間のかかる読書』(河出書房新社)も読みごたえがあります。
konbini.jpg 最後に、先日、第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香『コンビニ人間』(文藝春秋、2016)を。18歳からずっと同じコンビニで働き、36歳になった主人公には、どう人と話し、どう振る舞えば「普通」なのかが判りません。
 それが、コンビニという場では、客との応対や同僚との接し方も、すべてマニュアルが教えてくれると彼女は気づきます。
「そのとき、私は、初めて、世界の部品になることができたのだった。私は、今、自分が生まれたと思った。世界の正常な部品としての私が、この日、確かに誕生したのだった」
 彼女には、「部品」として生きようとする明確な意思があるのですが、周りの人たちはそれを許さず、「普通になること」「治ること」を要求します。彼女はその圧力と、自分なりに闘っていくのです。

 何かを決めると、そのあとにはすぐそれでよかったのかという不安がやって来ます。人生はその繰り返しだと云えるでしょう。ただ、決めずに後悔するよりは、自分で決断したことをよしとして生きるほうが前向きかもしれません。まあ、そういう私も全然実践できてないので、当てになりませんが......。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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