全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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落ち着きがないんです

ochi.jpg 子どもの頃、家の商売が本屋だったらいいのに、と思っていました。店にある小説やマンガが自由に読めるからです。
 そんな理想的な生活を送っているのが、仙台に住む前野パン子さん(13歳 仮名)です。両親は青葉区で〈book cafe火星の庭〉を営んでいて、店内は古本であふれています。母の前野久美子さんは「Book! Book! Sendai」のメンバーとして、毎年6月にサンモール一番町で開催される一箱古本市など、さまざまな本に関する活動を行なってきました(一箱古本市は2015年でいったん終了)。
 私がパン子さんと初めて会ったのはちょうど10年前。まだ幼かった彼女がすっかり大人びてきたのを見て、月日の流れを感じます。
〈火星の庭〉は、パン子さんが生まれる3年前に開業しています。両親とも店にいるので、彼女も保育園が終わると店で過ごしていました。遊ぶのもご飯を食べるのも、ここでした。この店と一緒に育ってきたと云えるでしょう。
 最初に読んだ絵本も、この店の棚に並んでいるものでした。憶えているのは、『バーバパパかせいへいく』。イラストっぽく細かい絵で植物が描かれているのが好きでした。絵本は店から持って帰り、家でお母さんに読んでもらいました。
 小学校に入ると、学校の図書館でも本を借りるようになります。そのころ好きだったのは、『ふしぎなかぎばあさん』(手島悠介・作、岡本颯子・絵)。かぎっ子の少年が見知らぬおばあさんにご飯をつくってもらう話。「おいしいものが出てくるお話が好きなんです」とパン子さんは笑います。
 ヒュー・ロフティングの「ドリトル先生」シリーズや、アストリッド リンドレーンの「長くつ下のピッピ」シリーズも愛読しました。とくに『ドリトル先生アフリカ行き』『ピッピ 南の島へ』が好きで、「行ったことのない場所を想像するのが愉しいんです」。
 また、店にあった手塚治虫、赤塚不二夫や大島弓子の『綿の国星』などの名作マンガを繰り返し読みます。自分でも絵を描くのが好きで、マンガのキャラを真似したり、お話を考えて書いたりします。
 それが高じて、なんと、小学6年でオリジナルの文集をつくってしまいます。早川茉莉編『なんたってドーナツ』(ちくま文庫)や『アンソロジー お弁当。』(パルコ)などを読み、同じテーマについていろんな人が書いているのが面白いと、母やその周囲の大人たちに文章を依頼して、「もう一度行ってみたい場所」と「私の好きな丸いもの」について書いてもらいました。手書きやパソコンで打った文章を紙に貼り、包み紙などのコラージュで飾りました。タイトルは、『自転車とタルタルソース』。手づくりだけど、ちゃんと「本」になっていることに感心させられます。
 さらに、店にある『別冊太陽』がテーマ別に編集されていることに影響を受け、自分でも、ドリトル先生に出てくる船の碇(いかり)について調べて、本にまとめることも構想中。読んだことを消化して、カタチにしたいという欲求が強いんですね。それが本を調べることに結びついているのが凄いです。
 平松洋子のエッセイなど、食べ物に関する本はずっと好きで、武田百合子の『日々雑記』(中公文庫)は「おいしくないものの描きかたがいい」そうです。また、平野 紗季子『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)には、食べることについての多様な見かたを教わったと云います。
 映画やマンガでは具体的に食べ物が見せられるのに対し、文章だけで匂いやおいしさが伝わる本が好きだと、パン子さんは云います。電子本は「目が疲れる」から読まないそうです。
 中学では吹奏楽部に入り、なかなか新しい本が読めないというパン子さんですが、将来は農家になってお米をつくりたいという夢を持っています。店に野菜を届けている農家さんに話を聞くなど、すでに新しいテーマのリサーチがはじまっているようです。

 そんなパン子さんのお悩みは?
「落ち着きがないんです」
 モノを落としたりなくしたりすることが多いそうで、「身の回りの整理がきちんとできるようになりたいです」とのことです。
 私には、中学1年にしてはじゅうぶん落着いているように見えるんですが、親や先生からそういうことを云われているのでしょうか。
naga.jpg「落ち着き」という言葉でまず思い出すのが、長嶋有『ぼくは落ち着きがない』(光文社、2008/光文社文庫)です。高校の「図書部」の部室に集まる図書部員たちの日常を描いた小説です。
 彼らはいつも、つまらないことで笑ったり怒ったり、誰かに恋したり、誰かに傷つけられたりしています。10代特有の浮遊感が「落ち着き」のなさを生むのでしょう。大人になった側からすれば、その落ち着きのなさが、なんだか輝いて見えるのです。
sayonara.jpg もっとも、大人になればみんなは落ち着くわけじゃありません。若竹七海『さよならの手口』(文春文庫、2014)の主人公・葉村晶は、女探偵としては有能ですが、なぜか不幸な出来事が次々と彼女に降りかかってきます。アルバイトしている古本屋で買い入れに行った家で、床が抜け彼女は骨折します。おまけに床下からは頭蓋骨が見つかるのです。
 晶自身は静かな生活を送りたくても、古本屋の店主、元女優の芦原吹雪、晶のシェアハウスに同居する倉嶋舞美らが次々と難題を持ってきます。とても落ち着いてはいられません。しかし、身に危険が迫っても、彼女にとって探偵はやはり天職なのです。
 ミステリ専門の古本屋(吉祥寺に実在しました)が舞台になっていることもあり、作中には多くのミステリ作品が登場します。この店でやった「骨ミステリ・フェア」は、ちょっと見てみたかったです。
sanmen.jpg 数々の映画に出演した沢村貞子は、高峰秀子と並ぶエッセイストとしても知られます。『わたしの三面鏡』(朝日新聞社、1983/ちくま文庫)は、70代で夫と二人で暮らす日々に感じたことを綴っています。
 生まれつき「知りたがり屋」だったという沢村さんは、歳を取っても好奇心旺盛。「新しいことを知るのは楽しい」と、テレビを見たり本を読んだりしています。その歳でも現役の女優として忙しい毎日を送っていることもあり、「何しろ終着駅はついもうそこに見えているのに、やりたいことがむやみに多い」のです。それが老けこまない秘訣なのだ、と沢村さんは云います。

 いろんなことに興味を持ち、やってみたいことの多いパン子さん。「落ち着きがない」と人に云われても、好きなことをどんどんやってください。その中で、これという道筋が見えてくるころには、きっと誰にもそんなことを云われなくなっていると思いますよ。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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