全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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円満に一人暮らしをはじめたいんです

ライター・編集者の南陀楼綾繁(なんだろう・あやしげ)です。ぼくはこの10年ほど、「一箱古本市」というブックイベントに関わってきました。段ボール箱ひとつに古本を詰めて、路上で売るというものです。自分の本棚から本を選び、値段を付け、屋号を名乗り、ディスプレイに工夫を凝らす。本を手に取ってくれるお客さんや、隣の箱の店主さんとのコミュニケーションも楽しめます。云ってみれば、「一日限りの本屋さんごっこ」なのです。

一箱古本市は、ぼくたちが東京の谷中・根津・千駄木(谷根千)でやっている「不忍ブックストリート」ではじまったものですが、いまでは全国各地に広がっています。毎週どこかの町で一箱古本市が開催されているといってもいいほどです。

従来の古本市はプロの古書店が出店するものでしたが、一箱古本市には本好きであれば誰でも参加できます。その結果、このイベントの店主さんは、女性の比率がとても高くなっています。店主さんだけでなく、お客さんにも、イベントを支えてくれる助っ人さん(彼らの役割はあらためて説明します)にも女性が多いですし、女性のほうが個性的な一箱をつくることに熱心な傾向にあります。

一箱古本市で会う彼女たちは、明るくて楽しそうです。世間では呪文のように「本が読まれない・売れない」と繰り返されているのに、ここにはたくさんの本好き女子が存在するのです。だったら、そのギャップをナンダロウおじさんが埋めてやろうじゃないの、と思い立ちました。

この連載では、各地のブックイベントで出会った素敵な本好き女子たちに登場してもらい、読書遍歴を語っていただきます。そのうえで、彼女たちが抱えるお悩みに対して、ぼくが3冊の本を選んで紹介します。少しでも気が楽になるお答えができますかどうか。はじめてみましょう。

ayashige.jpg最初に登場してもらうのは、ベランダ本棚さん(28歳 仮名)。ほんわりとした雰囲気があります。今年5月の不忍ブックストリートの一箱古本市で、店主さんとしてデビュー。暮しや旅の本、絵本を中心に並べていて、気に入りました。店主としての告知文には、こうありました。

「晴れた夏の日には、ビニールプールに足をチャポンとつけながら。冬の寒い日には、ひだまりでぬくぬくと。大きくたって、小さくたって、そこはあなたのもうひとつのお部屋。ベランダでゆるりと、のんびりとめくってもらえるような、そんな本を揃えたいと思っています」

彼女は東京・多摩市で両親とともに暮らしています。いまの家は一昨年引っ越してきたもので、大きなベランダがあって、ご飯を食べたりハンモックで読書をしたりしているそう。だから、屋号もベランダ本棚なのです。以下、略してベランダさんの話を聞きましょう。

「父は宇宙関係のシステム・エンジニアで、その影響で私も理系に興味がありました。大学院を経たあと、会社に入り、製造業のSEをしています。母は保育士で、私が小さなころから、毎晩絵本を読んでくれました。『ねえ、どれがいい?』『さむがりやのサンタ』とかです。『ゆきのひ』(加古里子)は、絵が細かくて、見るたびに発見があって楽しかったです。

小学校では図書室に通って、おいしそうな料理やお菓子が出てくる『こまったさん』シリーズや、『こそあどの森の物語』などを借りてました。その中で気に入ったものがあれば、本屋さんで買って手元に置いておく感じでしたね。講談社青い鳥文庫の『いちご』全5巻(倉橋燿子)はいまでも持っています」

中学、高校では部活や受験で忙しくて、本の記憶があまりないとベランダさんは云います。しかし、高校の図書室で手に取った、講談社ブルーバックスの『物理のアタマで考えよう!』がきっかけで、大学で理工学部に入っています。

好きな作家は、よしもとばなな。センター試験の問題で知って、ほとんどの作品を読んでいるそうです。「やさしい感じが好きです。スピリチュアルなところとかも。お風呂にゆっくり浸かって読むのに合っています」。

本を読む場所と云えば、通勤の時間も大事です。ベランダさんは毎朝の気分で、持っていく本を本棚から選びます。「電車の中で読み終わったらどうしようと、毎回2冊持っていくんです(笑)」。仕事はデジタル系ですが、電子書籍は読まないそう。「紙の本には、たしかにここにあるという安心感があるんです」と。

就職してからは、自分のお金で欲しかった本が買えるのが嬉しかった。一方で、物を増やしたくないという気持ちもありました。そんなときに知ったのが、一箱古本市でした。「もともと本を選ぶことが好きだったんですね。図書館や本屋さんで本を選ぶときには、そのときの自分が反映されるでしょう。だから、好きな本を並べて自分の世界が見せられる一箱古本市は、とても自分に合っていると思いました」。本好きのひとたちと話ができるのも楽しく、6月には西荻窪の一箱古本市、7月には宮城県石巻の一箱古本市に出店。順調に常連への道を歩んでいます。「たくさん売って本を減らそうと思ってたんですが、箱に並べたい本を新しく買ってしまうので、むしろ増えてしまいました(笑)」。

いままで受け身な閉じた生活だったけど、「消費するだけでなく、自分から発信していく活動をしていく、というのが、私の今年のテーマなんです」と、ベランダさんは云います。好きな本のことで、新しいこと、楽しいことをやってみたいという意欲にワクワクしている様子が伝わってきました。

そんなベランダ本棚さんのお悩みとは?

「うちは家族みんな仲がいいんですが、そろそろ一人暮らしをしたいと思っているんですね。両親との関係を壊さずに、実家を出る方法を教えてください」

初回からいきなり難問ですね......。うまく答えられているか分かりませんが、次の3冊を読んでみてはどうでしょう?

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辻村深月『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』(講談社、2009/講談社文庫)には、二人の「娘」が登場します。ライターのみずほは抑圧的な母親に反抗し、家を出ます。対照的に、その幼なじみのチエミは母や父と異常に仲がいいのです。それなのに、チエミは母を刺したという容疑で警察に追われることになります。それはどうしてなのか? 二人の「母」のイメージが変わるラストが鮮やかです。

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長嶋有「サイドカーに犬」(『猛スピードで母は』文藝春秋、2002/文春文庫)は、母が出て行ったあとの家にやって来た洋子さんと暮らした短い日々のことを描いています。無頼な父も含め、およそ「普通」ではない関係が、なぜか心地よく感じられます。

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有吉玉青『身がわり 母・有吉佐和子との日日』(新潮社、1989/新潮文庫=品切)は、ベストセラー作家である母との生活を回想したエッセイ。娘のことを気遣う母から離れて、海外に短期留学したとたん、母は急死してしまうのです。


理想の実家の出かた、に合致する本ではないのですが、自分ならどうするかなと考えながら読んでみると、なにかしらのヒントになるのではないでしょうか?

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
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