全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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寮生活で一人になる
時間がないんです

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「お久しぶりです!」。待ち合わせの書店で声をかけられて、別人かと思いました。京都りょう子ちゃん(19歳 仮名)のことです。小学生の頃から知っている顔が、ずいぶん大人びていたからです。今年春に京都の女子大学の法学部に入学し、東京の実家から離れて暮らしているためでしょうか。
 彼女に会ったのは、7年ほど前。ぼくたちが谷根千で開催している「不忍ブックストリートの一箱古本市」に、お母さんと二人の妹とともに参加していました。お母さんはその頃、近くの田端で〈石英書房〉という古本屋を営んでいました。はしゃいでいる妹たちをたしなめつつ、なにか本を読んでいた記憶があります。そのとき、彼女は小学6年生でした。
「育ったのは江戸川区です。自宅には母の本が多くありました。近くに住んでいた祖母(母の父)の家には、幅広いジャンルの本が並んでいて、それを眺めるのが好きでした」。たしかに石英書房は、その祖父が提供したらしい江戸・東京に関する本や民俗学の本が充実していました。
 そんな環境もあって、文字が読めるようになったのは早く、幼稚園で毎月、「こどものとも」(福音館書店)を受け取るのが楽しみだったそうです。本好きになったのは、小学2年生のときの「すくすくスクール」(学童保育)。授業のあとの学校の教室で、いろんな学年の子どもたちと一緒に過ごしました。その教室の本棚に入っている本を手当たり次第に読んだそうです。
「そのとき読んだのが、はやみねかおる『亡霊は夜歩く』(講談社青い鳥文庫)。ホラーかと思って読んだら、ミステリでした。『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズの途中の巻だったのでさかのぼって全巻読み、あとがきではやみねさんが触れていた江戸川乱歩の『少年探偵団』シリーズを図書館で借りて読みました」
 ちなみに彼女が読んだのは、文庫ではなく、ポプラ社の単行本。30数年前、ぼくが読んだのも同じバージョンです。表紙のイラストを見て、懐かしく感じる人は多いはずです。
 ランドセルに1冊、机の引き出しに1冊、読みかけの本が入っているという小学時代を送ったりょう子ちゃんは、中高でも本を読んで過ごしました。「小さいときからワクワクする本が好きでした」と云う彼女の好きなジャンルはミステリ。日本の作家が好きで、京都に来て初めて買ったのも、『私がデビューしたころ ミステリ作家51人の始まり』(東京創元社)だったそうです。
 石英書房が田端の店舗を閉めた後、中学2年生のりょう子ちゃんは「助っ人さん」として一箱古本市に関わるようになります。助っ人さんは、一箱古本市当日、箱が並ぶ場所にいてスタンプラリーのスタンプを押したり、地図を配布したりする役目で、毎年50人以上が参加してくれます。りょう子ちゃんはその中で間違いなく最年少でした。お母さんが参加できないときも、一人で来てくれています。
「助っ人になってよかったのは、『とにかく本が好き』という人たちと話すことができるところです。世代の違う方々と話すのは緊張しますが、周りに本を読む子が少ないので滅多にないチャンスだと思っています」

 そんな京都りょう子ちゃんのお悩みは?
「大学の寮に住んでいるんですが、3、4人の相部屋で本を買っても置く場所がありません。テレビは応接室にあるんですが、予約制です(笑)。そんな生活なので、一人になってゆっくり本を読む機会がないんですが、どうすればいいでしょうか?」
 習慣も性格も違う人と一緒に生活するのは、たしかにしんどいですよね。ぼくも上京したときにある学生寮を下見に行ったのですが、寮内のサークル活動に参加する義務があると知ってやめました。その後、集団生活は避けてきたので、りょう子ちゃんの悩みには共感します。
 そこで、次の3冊を紹介します。

nakanosaboten.jpg北尾トロ『中野さぼてん学生寮』(朝日新聞出版、2012)に出てくる学生寮には、りょう子ちゃんの寮とはちがい、男くささとバカバカしさが満載です。父親を亡くし、学生寮に入ることになった伊藤くんは、奇人コバジをはじめとする寮の住人や、外で会う人々から影響を受けます。彼が自分とそりの合わないものでも柔軟に受け入れていく様は、思い込みの激しい青年だったぼくにはうらやましいです。
バイト先のママに「世の中っておもしろいものよ、たぶん、伊藤君がいま思っているよりずっと」と云われて、伊藤くんは「どこまでブラブラできるか」を試すために、寮から出ていくのです。本書はライターの北尾トロさんの自伝的小説ですが、北尾さんはオンライン古書店を始めたり雑誌を創刊したりと、宣言通り「ブラブラ」しまくりの活動を続けています。

rengesou.jpg 群ようこ『れんげ荘』(角川春樹事務所、2009/ハルキ文庫)は、実家で暮らし、広告代理店で激務を続けてきたキョウコが、ボロアパートに住み、なにもしない生活を選択します。一人で暮らす彼女の、周りの人との距離の取りかたが見事です。続篇に『働かないの れんげ荘物語』(角川春樹事務所、2013/ハルキ文庫)があります。

dokyonin.jpg 最後はホラー小説です。新津きよみ『同居人』(角川ホラー文庫、2003)は、自分で買ったマンションであることを隠してルームメイトを募集した麻由美と、前の部屋でのトラウマを抱えている乃理子の同居生活を描くもの。はじめはうまく行っていた同居が、ドアの開閉という些細なことがきっかけで崩壊に向かいはじめます。
 いかがでしょうか? 「こんな風にできたら」とか「こんな風にならなくてよかった」などと、我が身と比べながら読んでみると、少しは気持ちがラクになるのではないでしょうか。

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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