全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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つい人の顔色をうかがってしまうんです

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 山手バン子さん(26歳 仮名)と最初に会ったのは、ぼくたち不忍ブックストリートが企画するイベントに、彼女が自分の勤める出版社の本を売りに来ていたときでした。それがきっかけで、一箱古本市の助っ人さん(イベントを手伝うスタッフ)にもなってくれました。以前は営業部でしたが、最近、雑誌の編集部に移りました。念願の編集者になったことで、毎日が充実している様子です。そんなバン子さんの読書遍歴は......。

「わたしは東京の港区に生まれました。小さい頃は『りぼん』が大好きでした。中学生になると、ビジュアル系バンドを聴くようになりました。好きなバンドでもお金がなくて毎回はチケットを買えないから、ライブハウスの外で漏れてくる音を聴いていました。そういう行為を『音漏れ』って言うんですよ(笑)」

 それらのバンドのインタビューが載る音楽雑誌(「PATi PATi」「SHOXX」「BACKSTAGE PASS」など)を読み、そこでミュージシャンが影響を受けたと語っていた、ガルシア・マルケスの『エレンディラ』や星新一のショートショートを読むようになったそうです。高校では学校の図書館が居心地が良くて、目につく本を借りて読みました。一方で、やおい系マンガにハマり、コミケにも通っていたそうです。

 大学の英文科に入ると、同級生がみんなよく本を読んでいたので、自分も読書に本気になります。卒論は児童文学・幻想文学作家のウォルター・デ・ラ・メア。「その頃はひねくれていて、人が知らない作家を取り上げたかったんです」とバン子さん。

 本に関わる仕事に就きたいと考えて、大学卒業後、いまの出版社に入ります。仕事柄もあって、書店によく通い、本もよく買うそうです。半年前には電子書籍リーダーのKindleを手に入れました。

「そこから読書生活が大きく変わりましたね。2日に一度ぐらい、いいなと思ったタイトルを買っています。マンガもこれで読みますよ。ページめくりとかは、すぐに慣れます。移動中にも読めるし、寝る前に読むのにも便利です。本棚に入れて、部屋の風景にしたいと思う本は、紙で買います。紙でも電子でも、『本』というコンテンツであることには変わりないので、使い分ければいいのかなと思います」

 無人島にKindleではなく、本を持って行くとしたら? という質問には、「古典がいいかな。折口信夫の『死者の書』のように、本質的なことが書かれているのに、読むための時間もエネルギーもかかる本がいいですね」と答えます。

 一箱古本市は大学のとき、付き合っていた同級生とデートで行ったそうです。その人からはポール・オースターや安倍公房を勧められて読んだとのこと。「離れてしまいましたが、いまでもそのことは感謝しています」。就職してからは、ブクブク交換(テーマを決めて持ち寄った本を交換する)やビブリオバトルにも参加しています。

 取材時には、「恋人がほしい」と言っていたバン子さんですが、その後すぐに新しい恋人ができたようです。

 では、山手バン子さんのお悩みは?

「人見知りというか、つい人の顔色をうかがってしまうところが悩みです。無駄に気を遣うから、人の頼り方が分からないんです。深く付き合ってきた親友はいないですし、歴代の恋人にも『付き合ってる気がしない』と言われ続けてきました。恋人もできたことなので、今その壁を乗り越えたいです!」

 なるほど。明るくて人付き合いの良さそうな彼女ですが、そんな悩みを抱えていたとは。聞いてみないと分からないものです。

 次の3冊を読んでみてはどうでしょうか?

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 中脇初枝『わたしをみつけて』(ポプラ社、2013/ポプラ文庫)は、坪田譲治文学賞を受賞し映画化もされた『きみはいい子』(ポプラ文庫)と同じ町が舞台です。主人公の弥生は捨て子で、児童養護施設で育ちます。そこでの彼女はつねに「いい子」として振る舞います。その奥には「いい子じゃなくても、わたしのことを捨てない?」という不安がありました。准看護婦として病院で働いていても、彼女は「いい子でさえいれば、責められない」と、周りの人との距離を保って日々を過ごします。

 そこに赴任してきた厳しいけど弥生のことを気遣ってくれる師長や、自分のことよりも人のことを心配する入院患者の菊地さんに接するうちに、彼女は「いい子」のふりをやめて、人を守ろうとします。

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 一方、人との距離感が測れない悲喜劇を描いた私小説が、小谷野敦『悲望』(幻冬舎、2007/幻冬舎文庫)です。東大の大学院で英文学を学ぶ藤井は、同じ科にいる響子が好きになり、近づこうとします。何度も断られているのに、自分に都合よく解釈し、ついには彼女が留学しているカナダに、自らも留学します。自分に対する彼女の何気ない言動を「無防備な発言」「大きな励まし」と受け取って、よりヤバい行動へと走る藤井は、女性にとっては恐怖でしかないでしょうが、もてない男の一人としては、「共演女優に6年間アプローチし続けた俳優とやってることはそんなに変わらない」と擁護もしたくなります。もっとも、「懸命にまじめに生きようとしているのに、それが他人にはこわばりと見えて、愛されないのだ」と自分から言ったらマズイでしょう。そんなイタさとユーモアが同居する小説です。

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 司馬遼太郎『ひとびとの跫音(あしおと)』(中央公論社、1981/中公文庫)は、正岡子規の養子の正岡忠三郎と、タカジこと西山隆二(詩人のぬやま・ひろし)の生きかたを描いています。「自己を表立たせることを極端にきらいだった」忠三郎は、「ただ存在しているだけでまわりのひとびとになにごとかを感じさせるような人柄をもっていた」と司馬は書いています。歴史上の偉人を多く描いた司馬が、この作品で何事もなさなかったかにみえる忠三郎やタカジにそそぐやさしい視線が、ぼくはとても好きなのです。

「人見知りの自分」も、自分の属性のひとつです。いまの恋人が、そんなあなたを見守ってくれるひとであるといいと思います。

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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