全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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もっと時間がほしいんです

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 毎年5月、盛岡市で開催されるブックイベント「モリブロ」では、一箱古本市をはじめ、さまざまな本に関する企画が行なわれます。そのひとつが、〈Cyg art gallery〉で開催される「アートブックターミナル東北」です。東北で制作発行されるZINE(個人による印刷物)が100点近く並ぶ様は壮観です。
 昨年、そこで見つけたのが、小学生のTOKOちゃん作の『定規なし何分で書けるスケッチ』という冊子。パソコンでつくられ、写真やイラストの入ったカラーのZINEに対して、手書きでコピーを綴じただけのシンプルなもの。でも、それがとてもインパクトがありました。内容は、各ページに載っている「ニコニコしてるのり」や「シンプルなインク」や「まるっこいペン」の絵を描くのに何分何秒かかったかを計測するもので、なんでそんなコトするの? と思いつつ、笑ってしまいました。
 この冊子、目次や「はじめに」「おわりに」が入っていて、妙に雑誌っぽい体裁です。レジで買うときに、「この子、『てくり』をつくっている女性のお子さんですよ」と教えてもらって納得。『てくり』は盛岡のふだんの生活を伝える雑誌で、「モリブロ」の主催者でもあります。そういえば、何年か前のこのイベントの打ち上げで、飲んでいる大人たちの横で、静かにマンガを読んでいる女の子がいたなあ。あれが、TOKOちゃんだったのか。
 そういうわけで、今回はTOKOちゃんこと盛岡と子ちゃん(12歳 仮名)に話を聴きました。なんと2002年生まれで、ぼくの35歳下。あまりに世代が違いすぎて、困りました。最初はもじもじしていたと子ちゃんも、本の話をしていると次第に打ち解けてくれて、ニコニコ笑って話してくれました。
「覚えている最初の本は、『さくらのさくひ』(矢崎節夫・作、福原ゆきお・絵)です。枯れそうになった桜の木のために、モグラが水をすくってきてかけるんです。『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん)も、おいしそうで好きだった」
 小学生のとき、学童保育の部屋にあった古いマンガを読むようになります。その後、お母さんの持っている『ベルサイユのばら』や萩尾望都、玖保キリコの単行本を読んだそうです。おこづかいで初めて買ったのは、「ちゃお」で連載していた『さくらかんづめ』(森田ゆき)。
 家中が本だらけの環境で育ち、4つ上のお兄さんとともに、「どこに行きたい?」と訊くと「本屋」と答える兄妹だったと、お母さんは苦笑します。
 いまは月に50冊ぐらい読むと子ちゃん。そのうち20冊ぐらいが小説だそうです。クラスの友達にも本好きはけっこういて、本の貸し借りもします。最近周りで流行ったのは、『カゲロウデイズ』(じん)で、これがボーカロイドの曲から派生した作品らしいです。この辺になると、おじさんはさっぱり分かりません。
 小学5年から、Cygの隣にある子どもの美術の場である〈prop〉に通い、モノをつくったり絵を描いたりしています。先の『定規なし~』もそこでつくったもの。今年の「アートブックターミナル東北」で発表した新作『ひとりシリーズ』は、手が描かれたデッサン集ですが、読む人の手が加わることで、たとえば『E.T.』のあのシーンが完成します。奇抜でいて、ハートウォーミングな発想がステキです。
 いまは、中学で入った剣道部に一生懸命。「練習のあと、家に帰ってすぐ宿題をやりたくないから、本を読む時間が増えました(笑)」。将来の夢は、ずっと保育士だったけど、いまは悩み中。忙しさも悩みも、どこかキラキラと輝いて見える12歳なのでした。

 そんな盛岡と子ちゃんのお悩みは?
「学校の授業や剣道部、それに塾や〈さんさ踊り〉(盛岡の伝統的な踊り)の練習で毎日忙しいんです。朝、お弁当もつくってるし」。お母さんから「それはおこづかいのためでしょ」とツッコミあり。ともかく、「やることが多くて、もっと時間がほしいんです」というのがお悩みだそうです。 

bushido.jpg 直接の解決になるかは分かりませんが、剣道に熱中していると子ちゃんには、誉田哲也『武士道シックスティーン』(文藝春秋、2007/文春文庫)をぜひ勧めたいです。子どもの頃から道場に通い、剣の道ひとすじに進んできた香織と、日本舞踊を諦めてはじめた剣道が、ぐんぐん上手くなっていった早苗の、好敵手にして親友の関係を描くもの。成海璃子と北乃きいの主演で映画化もされていますね。その後、『武士道セブンティーン』『武士道エイティーン』(ともに文春文庫)で、読者は成長していく2人を見守ることになります。最近出た『武士道ジェネレーション』(文藝春秋)では大人になった2人に出会えます。
 2人はすべての時間を剣道に注ぎ込んでいて、あまり勉強している様子は見えませんね。もっとも、その剣道のおかげで推薦入学できるんですが。
 本作で、勝負について早苗のお父さんが云う言葉が印象的です。
「それが好きだっていう気持ちを、自分の中に確かめるんだよ。その好きだって気持ちと、勝負の不安を天秤にかけるんだ。(略)でも、好きだって気持ちの方が重たかったら......そのときはもう、やるしかないんだよ。負けたっていい。失敗したっていい。やるしかないんだ。だって、好きなんだから」

tokiwokakeru.jpg あのときの失敗を取り戻すことができたらなあ、と思ったときには、筒井康隆『時をかける少女』(鶴書房盛光社〔ジュニアSFシリーズ〕、1967/角川文庫)をどうぞ。中学生の芳山和子は、ラベンダーの香りを感じたときから、タイム・リープ(時間跳躍)によって、時間を遡る能力を身に着けたのです。タイムトラベルSFの古典にして、NHKでのドラマ化以来、何度となく映画化、アニメ化を繰り返されてきた名作。

tern.jpg 一方、主人公が時間という檻に閉じ込められてしまうのが、北村薫『ターン』(新潮社、1997/新潮文庫)。自分一人だけが時間の流れから取り残されて、同じ日の同じ時刻に「くるりん」と戻ってきてしまいます。まったく同じ時間が繰り返されることへの恐怖と、それに耐える主人公の姿。そこに救いの手が差し伸べられます。恒川光太郎『秋の牢獄』(角川ホラー文庫)も同じ趣向ですが、読後感はまったく違っています。

 忙しくても、何もしなくても、時間は平等に流れます。と子ちゃんが、「いま」しかできないことに、ときには時間を忘れて熱中してくれればいいな、とおもいます。

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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