全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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すぐに冒険したくなるんです

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 新潟市の学校町通で毎年6月に開催される一箱古本市は、菅原神社の境内とそれに続く路上に80箱もの出店者が並びます。販売終了後、近くの〈北書店〉での懇親会で、店主さんたちと飲みながら話をするのも楽しいです。「古本いと本」のいとぽんさん(27歳)とも、ここで会いました。
 少ない冊数をどう並べて、どのようにお客さんにアピールすればいいかを判っている感じで、じっさいよく売れていました。「メモのすすめ」という手書きのフリーペーパーも楽しい読み物です。改めて訊いてみると、「それまで、モノを売る体験をしたことがなかったです」というので驚きました。天性のセンスなのでしょうか。
 いとぽんさんは新潟県のS村生まれ。村の図書館はカビ臭く、古い本しか置いてなくて、本屋も文具や雑貨との兼業の店があるだけだったそうです。両親とも公務員で本好きだったので、本を買ってもらうことは多かったです。
「鍵っ子だったので、放課後は小学校の図書室で本を読んでいました。1冊読み終えるごとに栞がもらえるので、借りまくっていました(笑)。仲のいい子同士が図書室に集まって、絵を描いたりしていましたね。中学のときも図書館がたまり場でした」
 中学生のいとぽんさんは、自分の好きな本に手紙を挟んで、次に手に取った人から返事が戻ってくるかという実験をやったそうです。その本は借りられなかったのですが、理科室の机の裏に貼りつけた手紙には返事があり、ほかの学年を巻き込んでの手紙のやりとりが続いたといいます。冒険小説やファンタジー小説が好きで、主人公が中学生に生まれ変わる森絵都の『カラフル』には、自分のことのように熱中しました。
 高校は電車を乗り継いで40分かかるところに通いました。早めに着いてしまうので、たまり場だった美術室で本を読んでいたそうです。この頃好きだったのは、長野まゆみ、恩田陸ら、女性作家の不思議な小説でした。
 その後、東京の女子大を経て、新発田市の食品加工会社に入社。「働きながら、これでいいのかなと思って、仕事に関する本をたくさん読みました」。
 2011年6月、第1回の新潟市の一箱古本市に参加。本を売ることの面白さに目覚め、秋に会社を辞めてしまいます。翌年春に、新発田市の商店街のコミュニティカフェの一角に、古本屋をオープン。「だんだん知られるようになってはきたけれど、店でお客さんを待っているのは私には向いてないんじゃないかと思って」、開店から約1年半後の2014年春、そこを閉めます。
 その後は、昼間は仕事をしながら、週末になると県内各地の一箱古本市やマルシェに参加して、本を売っています。昨年秋からは、新発田の金升酒造の酒蔵で一箱古本市を主催し、県内から多くの本好きを集めています。
「小商い」が注目されるいま、いとぽんさんは少しずつ自分なりの方向をつかみかけているようです。
「一番好きな本は、パウロ・コエーリョの『アルケミスト 夢を旅した少年』(角川文庫)です。羊飼いの少年が主人公のファンタジーですが、自分に重なる部分があると感じました。読み返すたびに発見と、判らないままのところがあるんです」。

 そんないとぽんさんのお悩みは?
「いまは仕事とイベントとが両立していて、まあ安定はしているのですが、そうなると、刺激を求めたくなります。落ち着いた状態になると、すぐ冒険したくなるんです」
 いまいる場所から違うところに行きたくなる気持ちは、判ります。旅や移住も含めて、物理的に冒険するのもいいのですが、今回は日常と冒険が地続きになった3冊を紹介しましょう。

gokuraku.jpg 原宏一『極楽カンパニー』(幻冬舎、1998/集英社文庫)は、定年退職したサラリーマンが「会社ごっこ」を始めたところ、我も我もと参加者がいて、一大ムーブメントになっていくという物語です。バカバカしいことが日常に定着してしまう、というのはこの作家の特徴ですね。「絵空事」「馬鹿正直」「度外視」という企業理念を、ホントに掲げる会社が出てきたらいいなあと、思わされます。「ごっこ」に本気の要素が加わっていくというのは、私たちがやっている一箱古本市(これも「本屋さんごっこ」です)に通じるものがあるようです。

yaminonaka.jpg 半村良『闇の中の黄金』(角川書店、1976/河出文庫)は、『闇の中の系図』『闇の中の哄笑』に挟まれた「嘘部」シリーズ第二作。古代から、嘘という武器を駆使して、日本という国を守ってきた部族という、とんでもない設定を、読者に呑み込ませてしまうのが、半村良という作家の真骨頂です。とくに本作は、傷ついた編集者の復帰劇という表の物語が、残り100ページで、まったく違う様相を見せます。気がついたら、冒険に出ていたという感じです。そのときの主人公の精神状態は、こう描かれます。
「恐怖に近い警戒心と、戦慄そのものといえる知的なよろこびがごっちゃになっていた。その警戒心は動物的な本能によるものではなく、碁や将棋のときに発生するような知的警戒心で、昂揚状態が去れば醒めてしまう類いのものであったのかも知れない。
 しかし昂揚した状態はいっこうに去らなかった。受けた衝撃がそれほど大きかったのであろう」

syaba.jpg 最後はノンフィクションを。大野更紗『シャバはつらいよ』(ポプラ社、2014)は、自己免疫疾患系の難病の体験を綴りベストセラーになった『困ってるひと』(ポプラ文庫)の続篇です。病院の外=シャバで生きていこうと決心した著者が直面する、さまざまな難問。普通の人だったら、何も考えずにこなせるひとつひとつが、著者にとっては生存を危うくする壁なのです。ときには絶望を感じながらも、彼女は「社会は、人間は、変わるかもしれない」という希望を抱いて、生きのびることを決意します。

 あえて、ファンタジー要素の少ない本を選んでみました。日常のなかに「冒険」を感じることができれば、いまいる場所をもっと好きになれるかもしれませんよ。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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