全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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もっと元気になりたいんです

女の子9.jpg 今年の後半はなぜか西日本に出かける機会が多くありました。とくに香川県高松市には8月、9月、10月と三月連続で行っています。自然といろんな人と知り合いになりました。
 9月のシルバーウィークには、「海の見える一箱古本市」に参加しました。会場の北浜alley(アリー)は高松港に近い海辺で、元農協の倉庫をリノベーションし雑貨店やカフェが入っています。高松では有数のしゃれたスポットです。その中に2013年にオープンしたアートブックの書店・ギャラリーの〈BOOK MARUTE〉が今回のイベントの主催者です。出店者は26箱。四国以外に神奈川、大阪、兵庫、和歌山からも参加し、多くの人が訪れました。
 会場の入口には、一箱古本市のポスターが掲げられています。海の見える窓辺で、うつむいて本を読んでいる女の子。青の色づかいが、ちょっとフランスの画家レイモン・サヴィニャックを思わせます。その近くで、似顔絵屋さんを開いていたのが、くりもとみきさん(25歳)でした。今回は仮名ではなく、イラストレーターとしての名前です。
 出身はここから離れた和歌山県有田郡の「大字」のつく地区。和歌山市の会社に通う両親と、兄と妹、祖父母と一緒に暮らしていました。祖母の本棚には紀州の民話や星新一、小松左京などの小説が並んでいて、中学の頃に抜き出して読んだそうです。
「幼稚園の頃から絵を描くのがすごく好きで、マンガを描いて友だちに見せていました。当時好きだった絵本は『ぬまのかいぶつボドニック』(シュテパン・ツァフレル)。暗い感じの水彩画に見入りました。『ぐるんぐごろんご』(かわむらふゆみ)では、「る」のレタリングが気に入って、真似して書いていました」
 家にあったパソコンでも絵を描き、小学6年生でホームページを開設して自分の絵を載せていたというのですから、早熟です。
 近所には本屋がなく、小学校の図書室や公民館の図書館に通っています。中学に入ると、「図書館にいると暗い奴だと思われがちなのがイヤで」、卓球部の部活をさぼって、図書館で『サイボーグ009』や『ブラックジャック』などの古いマンガを読んでいたそうです。
 和歌山市の高校でデザイン学科に入り、市内の本屋に行くようになります。好きだったバンド「ゆらゆら帝国」からの影響で、夢野久作の『ドグラ・マグラ』、つげ義春や水木しげる、楳図かずおのマンガを読みます。
「リアルタイムの作家にはまったく興味がなかったです。大学に入ってから、周りが読んでいる作家を知らなくてちょっと恥ずかしかったです」
 大阪芸術大学のデザイン学科に進学してからは、「作者名が簡単でむずかしくない本を読もう」と、大学の図書館でカフカの『アメリカ』を借りて読み、「なんだ、こりゃ」と思い、次にミヒャエル・エンデの『鏡のなかの鏡―迷宮』や『はてしない物語』を読み、そしてミラン・クンデラを読んだそうです。
「クンデラの『不滅』や『無知』はむずかしいけど刺激的で、頑張って読みました。彼の小説に出てくる人間の生き方は美しく、感動します」
 音楽サークルで、のちに結婚する相手と会い付き合いはじめます。本や音楽が好きな彼に教えられて、高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』などを読んだそうです。二人でよくブックオフに行っていたとのこと。
 卒業後、大阪で就職するも1年半で退職。同じく仕事を辞めていた彼の実家である香川県多度津町に、今年2月に移住してきたのです。
 そして9月に〈BOOK MARUTE〉で初の個展「青い生活」を開きます。そして、同店が台湾に持っているギャラリーでも先日、個展が行なわれました。これからもっと注目されていくでしょう。
「最近は、丸亀の猪熊弦一郎現代美術館(MIMOCA)の図書室で画集を見ています。マチスの教会を描いた絵が好きです。あんなふうに、人を幸せにできるような絵を描いていきたいです」

 そんなくりもとみきさんのお悩みは?
「私も夫も内にこもりがちなところがあります。いろんなことに挑戦できるエネルギーが欲しいです。もっと元気になりたいんです」
 ご要望にお応えして、読むとやたらと元気になる三冊を紹介しましょう。

てんやわんや.jpg 獅子文六『てんやわんや』(新潮社、1949/ちくま文庫)は、四国に移住したてのくりもとさんにぴったりの小説です。主人公の犬丸順吉は、雇い主の命令のまま、終戦直後の荒廃した東京から、四国は宇和島の近くの相生町にやって来ます。
「それは、山々の屏風で、大切そうに囲われた、陽に輝く盆地であった。一筋の河が野の中を紆【めぐ】り、河下に二本の橋があり、その片側に、銀の鱗を列べたように、人家の屋根が連なっていた。いかにも、それは別天地であった。あの険しい、長い峠を防壁にして、安全と幸福を求める人々が、その昔、ここに居を卜【ぼく】した――そういう感じが、溢れていた」
 気が弱くて周囲の人の流されるままに生きてきた犬丸くんは、こののんびりとした町と人と付き合ううちに、平家の落人部落や「四国独立論」などをめぐる騒ぎに巻き込まれます。読んでいる間、いい温泉に浸かっているように、ゆっくりと元気になっていく小説です。

日々平安.jpg 山本周五郎『日日平安』(新潮文庫、1965)は、いつも苦虫を噛み潰したような表情でいる作家が、ニヤリと笑う様子が見えるような好短篇。食い詰めた浪人が、藩の騒動に食い込んで一旗揚げようとしますが、生来の人の好さから策謀家になり切れません。だからこそ、最後の一言が生きてきます。


唐獅子.jpg 小林信彦『唐獅子株式会社』(新潮文庫、1981)は、全編これパロディの嵐。中学生でこれを読んだ私は、原典よりも先にパロディでいろんなことを知ってしまいました(『唐獅子生活革命』の植草甚一の文体模写を見よ!)。不死身の哲をはじめとするこわもてのヤクザたちが、流行りものに乗りやすい大親分に翻弄されまくります。独立した短篇ですが、全体を通して変化していく要素も入っています。読むとテンションがあがりまくりの大傑作。しばらく品切れでしたが、近々フリースタイルから刊行開始の「小林信彦コレクション」の第2弾として復刊されるとのこと。

 新しもの嫌いのくりもとさんのために、あえて、いまどきでない小説を挙げてみました。三作に共通するのは、いずれも映画化されていることです。『てんやわんや』は1950年、渋谷実監督。悠揚とした佐野周二は、犬丸役にぴったりでした。黒澤明は『日日平安』を換骨奪胎して、名作『椿三十郎』(1962)を生みました。映画でも抜群のやり取りだった娘と母親との会話は、原作にあったものです。『唐獅子株式会社』も横山やすし主演、曽根中生監督で映画化(1983年)されていますが、まあ珍品好きならどうぞ、という感じでしょうか。
 小説を読んで、映画を観て、「自分もいろいろやってみよう」という気持ちが高まるといいですね。

(版画イラスト=宇田川新聞)

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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