全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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色気のある女性になりたいんです

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 旧暦の10月は「神無月」【かんなづき】とも呼ばれます。しかし、全国で1県だけ、島根県だけは「神在月」【かみありづき】なのです。この時期に八百万の神々が出雲大社にやって来てこれから一年のことを話し合うからだと云われています。だから島根県出雲市生まれの私には、10月はちょっと特別な月なのです。
 その島根県の松江市で初の一箱古本市が開催されたのは、2013年10月のこと。自然とイベント名は「BOOK在月」になりました。神々ならぬ本好きの集まる場にしたいというココロからの命名です。
 中心になっているのは、〈曽田篤一郎文庫ギャラリー〉の人たち。一軒家を開放して私設の図書館にしたもので、現在は有志による「応援団」が運営しています。八雲たつ子さん(29歳 仮名)と初めて会ったのも、この曽田文庫での集まりでした。シャイな感じで物静かに笑っている女性でしたが、飲み会のあと、同じ方面に帰る電車のなかで「いつか実家を改装してブックカフェを開きたいんです」と夢を語ってくれました。
 たつ子さんの実家は、宍道町の古い商店街で3代前から雑貨や化粧品などを商ってきました。父の代には、近隣のショッピングセンターで新刊書店を開いていた時期もあったそうです。ときどき店で売っている雑誌や本をこっそり持って帰ってくれるのが楽しみでした。
「父は『子どもはどんどんラクガキしていい』と云って、自分でも家の壁に大きな恐竜の絵を描いたりしていました。わたしも壁や本にいろいろラクガキして遊びました」
 その頃好きだった絵本は『おしいれのぼうけん』(古田足日・田畑精一)。何度も読んでもらったが、長いので母が読むのを嫌がったと云います。3つ上の姉とともに少女マンガに熱中し、単行本も集めました。小学校高学年になると、小林深雪の女の子向け小説に熱中します。「違う作品でも登場人物がつながっている感じが好きでした」。
 中学では美術部に入ります。同じクラスの女の子と本の貸し借りをするようになり、三原ミツカズのマンガや嶽本野ばらの小説を知ります。高校では学校の図書館に通い、司書の先生から伊坂幸太郎や瀬尾まいこの作品を教えてもらったそうです。
 奈良の芸術系短大を経て、大阪でデザイン事務所に就職。しかし、会社がつぶれてしまいます。その前に父が突然病気で亡くなったこともあり、実家に帰ることに。松江の印刷会社にデザイナーとして入ります。
「父は本好きで、私が高校のときに山本周五郎の『さぶ』を読んでいたら、父がその冒頭部分を暗唱したことがあります。亡くなってみると、もっと父と本の話をしておけばよかったと思います」
 フリーマーケットで本を売っていたときに、曽田文庫の人と出会い、当番などの手伝いをするようになります。そして、「BOOK在月」では毎年発行する冊子のデザインを担当しつつ、「かぜにつき」という屋号で一箱古本市に出店しています。
 島根に帰ってから「自分で店をやりたい」という気持ちが高まり、その準備のために会社を辞めることにしたとのこと。先行きには不安もありますが、「落ち着いて本を読める場所をつくりたい」という夢の実現に向かって、踏み出しています。
 いずれ島根県に本好きの拠点がひとつ増えることでしょう。オープンはやっぱり10月でしょうか?

 そんな八雲たつ子さんのお悩みは?
「いま、片思いしている人がいます。憧れの人に振り向いてもらえるような色気のある女性になりたいんです」
 うーん、それをこの朴念仁のおじさんに訊きますか......。難しいですが、何とかやってみましょう。
takamine.jpg 最近亡くなった原節子をはじめ、美人女優は数多いのですが、私が最も好きな女優は高峰秀子です。子役でデビューして以来、400本以上に出演しました。戦後いち早く映画会社に属さないフリーランスとなり、木下恵介、成瀬巳喜男らを名監督と仕事をしています、少女から老婆まで幅広くこなし、どの作品でも体当たりで演技しています。彼女のキリッとした表情に色気を感じます。
 50歳で書いた『わたしの渡世日記』(朝日新聞社、1976/新潮文庫)は、高峰秀子という女優を知らなくても、昭和を生きたひとりの女性の自伝として読みごたえがあります。養母の芸名だった「高峰秀子」を与えられ、五歳で子役として映画に出るようになった彼女は、幼くして大人の世界を知ります。養母や親族の生活を支え、映画会社の要求のまま役をこなすうち、確固とした意志が生まれていきます。そして、仕事をなげうってパリに渡り、帰国後は助監督だった松山善三と結婚するという、我が道を行きました。この意志のつよさが、高峰秀子の色気を生み出しているのではないでしょうか?
 虚飾に満ちた世界にいた彼女が求めていたのは、「普通の女性」でした。『私のインタビュー』(河出文庫)では、美容師、セールスウーマン、サーカス団員や底辺で働く女性に会って、彼女たちの暮しについて訊いています。また、あるインタビューではこう話しています。
「私ね、女のいっとういやな点は虚栄心だと思うのですけれど。自尊心じゃないのね。私は背のびしないで暮らしてゆきたい。お見合の写真のようにゴマ化していきるのいやね。化けの皮があらわれるもの何でもきらい。自尊心があってありのままの人がいいなあ」(『まいまいつぶろ』河出文庫)
 色気とは、その「ありのまま」から生まれるものなのかもしれません。
kazumi.jpg 島﨑今日子『安井かずみがいた時代』(集英社、2013/集英社文庫)は、1960~70年代に辺見マリ「経験」、小柳ルミ子「わたしの城下町」などのヒット曲を作詞した安井かずみについて、26人が語ったノンフィクションです。彼女の才能とともに、そのライフスタイルも注目を集め、「こんな女性になりたい」という同時代の女性のロールモデルでした。ZUZUという愛称を持つ彼女の美しさと、語り手だけが知っている淋しい素顔とのギャップが印象的です。
dainana.jpg 最後は小説です。色気のある女性が出てくる作品は多々ありますが、すぐに思いついたのが、尾崎翠『第七官界彷徨』(啓松堂、1933/『ちくま日本文学 尾崎翠』ちくま文庫)でした。なにしろ恋心の芽生える現場が、肥しの匂いのただよう家なのですから! 赤いちぢれ毛の小野町子と、その兄の小野一助・二助、従兄弟の佐田三五郎の奇妙な共同生活が描かれます。彼らはどこかネジがゆるんでいて、いつもほわほわと恋をしているのです。
 この作品は作者の生前にはほとんど評価されず、尾崎翠は故郷の鳥取に帰って文壇と縁を断ち、そのまま亡くなります。しかし、現在では女子と女子的感性のある男子に広く読まれています。それは、文章のひとつひとつから、ほのかな色気が感じられるからではないでしょうか。ずっとのちに発達する少女マンガの文法を、すでに先取りしているかのようです。私は、科学と抒情を持ち味とする清原なつのにこの作品をマンガ化してほしいと思っています。

 やっぱり、片思いの処方箋にはなりませんでしたね。すみません。でも、たつ子さんの「ありのまま」に色気を感じる相手が、運命の人と思うんですよね。これって、少女マンガ的な発想でしょうか?

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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