全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

南陀楼綾繁

全国各地の本好き女子の悩みに本でこたえてみた

版画イラスト=宇田川新聞

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モノがたくさんある生活をしたくないんです

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 昨年秋、小豆島で一箱古本市が開催され、私も参加しました。会場となったのは、土庄町の〈MeiPAM(メイパム)〉。まちなかに複数のギャラリーがあり、カフェの一角には〈迷路のまちの本屋さん〉という本のコーナーがあります。この連載の第6回で、ここの「店長」である島乃ゆきこさんに登場してもらいました。
 都市部で開催される一箱古本市と異なり、全部で10組ほどが参加するこぢんまりとしたもので、他の参加者とよもやま話をしているうちに時間が過ぎていきました。本はあまり売れませんが、こういうのんびりとした一日も悪くありません。
 店主不在の「古書フラワー」という箱に目が止まりました。地域や生活に関する本や雑誌が並んでいます。なかでも、『季刊地域』(農文協)は「むらの婚活がアツい」「空き家徹底活用ガイド」など特集がユニークです。
「店主さんはいま、あっちで店番してますよ」と教えてもらって、近所の〈モノノケ堂〉に向かいました。ここは〈MeiPAM4〉として妖怪の造形作品を展示するギャラリーであり、駄菓子屋さんでもあります。そこで、花木さとみさん(29歳 仮名)に会いました。落ち着いた風情のある女性です。
「『季刊地域』や同じ農文協が発行している『現代農業』は、農業を知らない私が読んでも、生産者のものづくりへの思いや、編集者の情熱が伝わってきて面白いんです」
 花木さんは東京で暮らしていましたが、ご主人が小豆島で就職するのを機に、2014年にこの地に移住してきました。いまは二人とも〈MeiPAM〉で展示企画などの仕事をしています。
 生まれたのは神奈川県川崎市。祖父の代から商店街で喫茶店を営んでいたそうです。自宅と店が一緒だったので、小さいころは店内で遊んでいました。備え付けのマンガや雑誌も読みました。
 幼稚園では毎日、絵本を借りて母や父に読んでもらいました。宮沢賢治の『風の又三郎』や『耳なし芳一』など、ふしぎな話が好きでした。小学校に入ると、学校の図書館で借りたさとうまさこ『レベル21 アンジュさんの不思議(マジカル)ショップ』を愛読しました。
「アンティークショップを舞台にした不思議な物語で、それがきっかけで魔女の出てくるファンタジー小説を読むようになりました」
 大学で取ったゼミで民俗学に興味を持ち、宮本常一や小泉八雲などを読みます。小説では伊坂幸太郎にハマり、全部の作品を読んでいます。
 卒業後、出版社のグループに就職します。仕事柄、電子書籍に触れる機会が多く、kindleで読書をするようになりました。
「書店では手にしないタイトルも、オススメに出てくると読んでみたくなります。フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』も、kindleのランキングで知って読みました。電子書籍ならではの本との出会い方も楽しいので、紙の本へのこだわりはそれほどないですね」
 小豆島で生活するようになって2年近く経ちますが、まちなかなのでさほど不便は感じないそうです。書店はたまにフェリーで高松に出たときに寄る程度。その分、島の図書館に寄る頻度が増えました。郷土資料のコーナーには、地元の祭りや民話の聞き書き資料が充実していて、島の歴史を身近に感じるようになりました。
 夫婦ともに地縁のない地への移住でしたが、ふしぎな話が好きだった花木さんが民俗学の宝庫とも云える小豆島に来たのには、なにかしらの縁を感じてしまいます。

 そんな花木さんのお悩みは?
「二人ともきれい好きな方なのですが、ふとスイッチが切れると片づけられなくなって、家の中が荒れてしまいます。本来は何もない空間が好きで、モノがたくさんある生活をしたくないんですが」
 では、シンプルな生活の先達を紹介しましょう。

konnnako.jpg 文豪・幸田露伴が亡くなった後に、娘の幸田文が父から受けた教えを綴った『こんなこと』(創元社、1950/『父・こんなこと』新潮文庫)に、掃除についての章があります。幼くして生母を亡くし、継母が家庭向きのひとでなかったこともあり、「掃いたり拭いたりのしかたを私は父から習った」。
 女学生の文に父は、はたきのかけかた、箒の使いかた、拭き掃除、机の上の片づけかたを教えます。娘はやかましい父に反発しながらも、手を動かして理解していきます。彼女が「快活性とでたらめ性」の持ち主だったことも、二人の関係を明るくしています。
 父は娘に、ひとつひとつの動作を教えながら、「きちんと生きること」の大事さを伝えようとしたのではないでしょうか。娘はそれをまた、自分の子どもに伝えていくのです。
もたない男.jpg 一方、モノを捨てたい気持ちが妄執になってしまったのが、中崎タツヤ『もたない男』(飛鳥新社、2010/新潮文庫)です。マンガ家である著者の仕事場には、ほとんどモノがありません。仕事に関係のある最小限のモノだけを置いています。
 不要なモノを排除するだけでなく、あるモノの不要な部分も捨てます。ボールペンのインクが減ると、長いのが無駄な気がして本体を削るそうです。
 ガスコンロも不要なのですが、アパートに備え付けなので捨てるわけにはいかず、視界に入らないように押し入れに入れています。
「私は別に何でもかんでも捨てたいというわけではありません。人のものを捨てるわけではなく、自分にとって無駄なものを捨ててしまいたいんです。許されるのならば人のものも捨てたいですが」
 最後の一節に、ユーモアと狂気が同居しています。
 この人は、モノを買うこと自体はむしろ好きなのですが、自分に必要ないモノだと思ったら、すぐに捨てたくなってしまうのだそうです。その徹底ぶりは自分の作品にまで及んでいて、単行本どころか原画まで捨ててしまいます。
 ついには、26年間連載した『じみへん』の完結とともに、マンガ家さえ廃業してしまいました。
海も暮れきる.jpg そして、小豆島在住の花木さんにぜひ読んでほしいのが、吉村昭『海も暮れきる』(講談社、1980/講談社文庫)です。
「咳をしてもひとり」などの自由律俳句で知られる尾崎放哉は、1925年(大正14)に小豆島土庄町の西光寺の奥の院である南郷庵に入ります。放哉は東京帝大を出て、生命保険会社に入るのですが、酒びたりの生活から会社を辞め、妻とも別れます。『海も暮れきる』では流浪の生活の末にたどり着いた、小豆島での八カ月を描いています。
 庵での生活では、遍路からの燈明代しか収入が得られません。しかし、放哉の中にはインテリで俳句の才能を認められた己への過信があるため、島の人々や俳句仲間に借金を繰り返し、結核を患っているのに酒を飲んで暴れます。
ただ、自分のつくる俳句に対してだけは、つねに真摯でした。
「病勢が悪化してゆくのに、句が生色を増してゆく。自分の内部から雑なものがそぎ落されているような気がした」
 放哉は自ら「無一物」の生活に入りましたが、決して悟ったわけではなく、むしろ醜くもだえ苦しんで42歳で亡くなりました。
 終焉の地には現在、小豆島尾崎放哉記念館が建っています。

 以上は極端な例ですが、必要最小限のモノと付き合いながら生きていけるひとは、幸福だと云ってもいいかもしれませんね。私はとっくに諦めましたが(笑)、花木さんご夫婦がそうあるように祈ります。

Profile

南陀楼綾繁

1967年、島根県出雲市生まれ。ライター・編集者。出版、古本、ミニコミ、図書館など本に関することならなんでも追いかける。2005年から谷中・根津・千駄木で活動している「不忍ブックストリート」の代表として、各地のブックイベントに関わる。「一箱本送り隊」呼びかけ人として、石巻市で本のコミュニティ・スペース「石巻まちの本棚」の運営にも携わる。著書『一箱古本市の歩きかた』(光文社新書)、『谷根千ちいさなお店散歩』(WAVE出版)、『小説検定』(新潮文庫)、『ほんほん本の旅あるき』(産業編集センター)ほか。

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