「一鬼夜行」余聞

小松エメル

「一鬼夜行」余聞

イラスト:森川侑

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「化々学校のいっとうぼし」(1)ーー「一鬼夜行」余聞

 バケバケ学校.jpg

 文明開化の音が響いたのは、何も人間の世ばかりではない。

 通行証を持っている妖怪しか通れぬもののけ道を経て、猫股鬼の小春が行きついた先にはごてごてとした飾りのついた両開きの扉があった。

 意匠が妖怪という点を除けば、異国の文化に染まりつつある銀座では珍しくはないが、ここは深い地中だ。もぐらでもたどり着けぬようなこの場所に、とある施設があるのは、「妖怪にも人間にも邪魔をされぬため」と知己が言っていた。その知己・このつきとっこうこそが、今日小春をここに呼びだした張本妖だった。

 このつきとっこうから便りをもらったのは、数日前のこと。受け取ったのは、小春が妖怪の世で世話になっている、青鬼だった。青鬼から命じられ、人間の世で悪さをする妖怪がいないか見回りをし、見事事件を解決してきた小春は、帰ってきて早々、青鬼から手渡された書簡に首を傾げた。

 ─このつきとっこう? 変わった名だが、どっかで聞いた覚えが......あ! あいつか!! 随分と久方ぶりだけど、一体俺に何の用だ?

 受け取るや否や、小春は書簡をばらっと開いて目を通した。字を追っていくうちに、眉間に皺が寄ったのは仕方がない。「訪ねてきてほしい」ことと、「地中に念願のものを作った」ことは分かったが、肝心の小春を招く理由は書かれていなかった。

 ─第一、念願のものって何だよ......。

 ─行ってみれば分かることだ。早く行ってやれ。

「親しい間柄でもないし、無視すりゃいいか!」と書簡を放りかけていた小春は、青鬼の言葉にぐっと詰まった。青鬼には、修行をつけてもらっている恩義がある。

 ─俺......すっげー疲れてんだけど。

 ─見回り程度で疲れていては、大妖怪にはなれぬな。

 ─......行きゃあいいんだろ、行きゃあ!  そうして、小春は妖怪の世に帰って早々、再び人間の世を訪れることになった。

「人間の世といっても、地中だけどさ......よし、さっさと顔を見せて帰る!」

 重たい扉を押し開けながら、小春は勢いよく中に入った。

(......本当にここ、地中なのか?)

 扉を開けた先は真っ暗闇かと思いきや、冬の日が暮れる半刻(約一時間)前といった明るさだった。空がないので、日も出ていないが、あちこちから明かりが差している。

(鬼火が照らしてるのか......あいつら、よく街灯がわりをしてるけど、それで結構小銭を稼いでるんだよなあ)

 その鬼火のおかげで、小春は扉の中の全景が確認できた。

 走りやすそうにならされた土地が一面に広がり、奥には瓦造りの大きな建物が一棟と、それの半分くらいの大きさの木造の建物が並び建っている。地の中にあるとは思えぬほどの広さだ。

 小春は大きな目を見開き、きょろきょろと周囲を見回した。そこら中から、妖怪の気配がする。実際、広場には十数妖いた。その中で、強めの妖気を発しているのは「化」という腕章をつけた、僧侶姿の小雨坊だけで、他は小春が左手の人差し指一本で軽々と倒せてしまいそうな、弱い妖気の持ち主たちだった。小雨坊が何やら指示をすると、他の妖怪たちは一斉に走りだした。

「何で走り回ってんだ? 頭にはちまきなんざ巻いて......戦でもあるまいし」

 広場を周回する妖怪たちを怪訝な顔で眺めながら、小春は瓦造りの建物に向かった。そちらから、知己の妖気を感じとったのだ。  瓦造りの建物の扉も、先ほどの扉と似たような装飾が施されていた。

「火車に土蜘蛛、こっちは肝虫か? あいつにとり憑かれると、背がひっくり返っちまうんだよな......そんでもって、こっちはぬりぼとけに、ぬけくびか。あっちは......いかん、こんなもんいちいち数えていたら、日が暮れちまう! ここには日なんて出てねえけどさ!」

 小春は慌てて扉を開き、中に入った。このつきとっこうは、どうやら奥の部屋にいるらしい。彼に会うべく廊下を進みはじめた小春だったが、

「─よいか、皆の衆! 立派な妖怪になるためには、人間の世のことを知らねばならん。仲間になるためではなく、攻略するために......。あ奴らは怖がりなくせに、案外図太い神経をしているのだ。時代が変わってからというもの、その傾向はさらに顕著になった。これまでのように、遊び半分で驚かせても、少しも驚きはしないだろう。妖怪は前時代の遺物─そんな中傷を受けぬためにも、皆学ばなくてはならん。新時代を生き抜くのは人間ではなく......」

「我らだー!」という十数もの叫び声に、小春は思わず身を引いた。通り過ぎようとした部屋をひょいっと覗いてみると、暑苦しい顔をした雪女と、彼女と似たような表情を浮かべた妖怪たちが、猛烈な勢いで筆を走らせていた。目のいい小春には、彼らの手許の字がよく見えたため、小声で読み上げてみる。

「徳川の時代を経て、明治という新時代を迎えた。天子は残り、公方は消失し、数多の人々は平民となり......う、頭が痛くなってきた」

 早々にやめて、小春はまた廊下を歩きだした。

「解いてみよ!」とよく通る声が聞こえたのは、次の部屋に差しかかる時だった。好奇心に負けてまた部屋の中を覗いた小春は、五つも数えぬうちに辟易した。

「ぐ......これは無理です、先生」

「無理ではない! 大蛇に巻きつかれたくらい何だ! 手加減してやっているのだから、早く解け!」

「こんな、締め上げられたら、俺、窒息して、しまう......」

 大蛇に締め上げられている狸は息も絶え絶えに言うと、真っ白な顔をしてがくりと喪神した。

「情けない! 情けないぞ、たぬ吉! それで立派な妖怪になれると思っているのか!?」

 気を失った相手の胸倉を尾でみ、ぶんぶんと揺すりながら、大蛇は言った。先ほどの雪女に負けぬほど暑苦しい様子である。頭をかいた小春は、見なかったことにして、また歩みを再開させた。

 奥の部屋に着くまで、七つもの部屋を通り過ぎた。どこからも妙にはりきった声が聞こえてきたので、結局好奇心に負けてしまい、小春はどの部屋もちらりと覗いた。

「四つ目の部屋が、一等謎だったな。皆揃って謎の髪長妖怪の絵を描いていたけど、鬼なんだか、猫なんだか、人間なんだか、よく分からん化け物だった」

 皆が描いていたその妖怪が実は当妖であったことに、小春は気づいていなかった。七つの部屋の中を見て分かったのは、その部屋の中で一等強い妖気を持つ者が、他の妖怪たちの統率をしているということだった。

「まるで、先生みてえだったな」

 妖怪に先生などいない。小春は青鬼に修行をつけてもらっているが、先生と仰いだことなど一度もなかった。

「人間は『先生』が好きみてえだけど、妖怪はそうじゃねえ。自分より偉い奴なんて、面白くねえもん」

 そう言った瞬間、奥の部屋の扉が勢いよく開いた。

「そんなことはないさ! ここの生徒たちは、皆我々を好いていてくれるぞ!」

 溌溂とした声を出したのは、奥の部屋から出てきたこのつきとっこうだった。ふさふさの羽根で覆われているため丸々と肥えて見えるが、その身は案外ほっそりしているという。真ん丸な目や、細い足でよちよちと歩く様は可愛らしいものの、爪や嘴は鋭く尖っている。巨大なミミズクといった形をしたこのつきとっこうは、小春が口を開く前に、小春の両手を翼でひしっとんで、にっこりとして言った。

「ようこそ、化々学校へ!」

「はあ......」

 やや身を引きながら答えた小春に、このつきとっこうは大きな目を眇めた。

「もう少し喜んでほしいものだ。せっかくの再会だぞ。それに、教授方になるのだから」

「再会についてはその通りだが、教授方になる?......誰が?」

「お前しかおるまい」

 小春の問いに深く頷いたこのつきとっこうは、「何言ってんだ!?」と喚きだした小春の腕を引き、嘴に翼の先を当てた。

「今は講義中だ。静かに」

「知るか!」と怒鳴った小春だったが、その声は小さなものだった。またにこりと笑ったこのつきとっこうは、小春を誘い、廊下を歩きだした。

「......江戸の頃より、どんどん妖怪の数が減っていっているのは、お前も承知のことだろう。皆、新しい世や、そこに生きる人間が怖くて、驚かすのを躊躇しているのだ。妖怪の本分をまっとうせずとも、ちゃんと食って寝ていれば死ぬわけではない。だが、心は死んでいく─新時代を生き抜くためには、知恵と力が必要だ。私は以前からずっとそう思っていた。だから、この化々学校を開いたのさ」

「そりゃあ殊勝なこって......俺にはまったくかかわりがないけどな!」

「私とお前の仲ではないか」

「俺、お前と一度しか会ったことないぞ!?」

 その一度も、数十年は昔だ。まだ三毛の龍と呼ばれていたその頃、小春はいつも通り見知らぬ妖怪たちに因縁をつけられ、返り討ちにした。全員が地に伏せた瞬間、小春は近くの草原に隠れていた相手に鋭い爪を突きつけた。

 ─俺たちの戦いの間、ずっと筆を走らせていたが、一体何をしている。呪でもかけていたのなら、容赦はしないぞ。

 冷え冷えとした小春の声に、このつきとっこうが返したのは、意外な答えだった。

 ─いや、そちらの戦い方があまりにも見事だったので、半紙に書き写しておこうと思ったのだ。どうだ、上手く書けているだろう?  このつきとっこうが見せてきたのは、謎の化け物と、その横にびっしりと書きこまれた字だった。本当に呪いではないのかと訝しんだ小春は、それを最後まで読みきった。

 ─こんな無駄なもんを読むのに、ふた刻もかけちまった......。

 このつきとっこうの言う通りの内容だった半紙を、小春はこのつきとっこうに放って返した。  ─......よいのか? 他妖に自分の戦い方を覚えさせてしまって。

 ─お前、馬っ鹿だな! それは、確かに俺の動きや癖を的確に記してある。でも、それだけだ。そんなもん読んだって、誰も俺にはかなわない。だって、俺は今日より明日、明日より明後日の方がずっと強いんだからな!

 大きな口を開けて笑った小春は、このつきとっこうをその場に残して去ろうとしたが─

 ─お前の言う通り、こんなものがあっても、三毛の龍にはかなわぬだろう。だが、他の相手ならどうだ? この戦い方を応用して戦えば、勝利を得られるかもしれぬ。たとえば、相手が蝦蟇の時ならば─

 このつきとっこうは、小春の袂をんで熱く語りだした。その話は中々止まず、どうやったら相手に勝てるのかという戦法から、立派な妖怪になるにはという哲学まで、話題は多岐にわたった。小春がこのつきとっこうを突き放せなかったのは、話が進むにつれ、彼の妖怪の妖気がじわじわと増していったせいだった。そうは見えぬが、存外強いのかもしれぬ。

 ─もういい......お前の情熱は分かった。せいぜい頑張れよ......。

 散々話を聞かされた小春は、「いつか学校を開きたいのだ。その際はお前も力を借して─」と言ったこのつきとっこうにそう返し、這う這うの体で逃げた。

「......あ! ここが、あの時言ってた学校か!」

「ようやく思いだしたか。随分と時がかかったな。三毛の龍、猫股鬼の小春と呼び名がつくほど力をつけても、寄る年波には勝てぬのだなあ」

「こんな若くてぴちぴちの俺に向かって、よくそんなこと言えるな!」

 昔話に花を咲かせているうちに、二妖は木造の建物に着いた。戸を引いて中に入ると、そこでは道着を身につけた妖怪たちが、柔術や剣術を行っていた。どうやら、ここは道場らしい。小春たちに気づいて手を止めかけた一同に、このつきとっこうは「そのまま続けよ」と言った。素直な返事があったものの、皆は小春が気になっているようで、ちらちらとこちらに視線を向けてくる。

「どうだ? 我が校は」

「せっかく作ったのに、残念だな。ここには、これから強くなりそうな奴なんてほとんどいない」

 小春の率直な感想に、このつきとっこうは苦笑しながら首を横に振った。

「分かっている。そう上手くはいかぬと......だが、いいのだ。この学校は、まだ始まったばかりだ。私も生徒たちも皆、生まれたての雛のようなものだ。化々学校という大きな巣の中で、長い時をかけて育っていけばいい。......いつか巣立ちをするその日まで、私は皆の成長を助けていきたいのさ」

 このつきとっこうは目を細めて、生徒たちを眺めた。妖怪とは思えぬ慈愛に満ちた眼差しに、小春は鼻に皺を寄せて言った。

「お前も妖怪らしくねえ妖怪だな......まあ、むやみやたらと人を殺すよりも、平和でいいけどさ」

 頷くと思われたこのつきとっこうは、驚いた表情を浮かべて大きな頭を傾げた。

「妖怪らしくないのはどちらだろう。大勢の生徒を預かっているが、平和がいいという妖怪など、はじめて見たぞ......まるで人間のようだ。まあ、お前は人間贔屓と評判だものなあ」

「贔屓なんかしてねえよ。人間の世がどうなろうと知ったこっちゃねえし。青鬼に鎮撫を頼まれたから、こうして人間の世で働いているだけだ」

 小春はむっとして反論した。

「だが、親しい人間がいるというではないか。噂になっているぞ、確かそいつの名は......喜蔵。荻野喜蔵─だったか。閻魔と人の間に生まれし者だと」

「え、閻魔さんと人との子......!」

 ぎゃはは! と腹を抱えて笑いだした小春に、このつきとっこうは怪訝な顔をした。

「そんなありえねえ噂が流れるなんて、あいつすげえなあ......妖怪も思わず信じちまうほど、顔がおそろしすぎたんだな!」

 先日会ったばかりの男の顔が脳裏に浮かび、小春はますます笑った。美しい桜と、妖怪顔負けの凶悪な面構えの対比は、思いだすだけで珍妙だった。花見など興味がないという態度だったが、時折目を細めて桜を眺めていたのを、小春はしかと見ていた。 (あいつは素直じゃねえからなあ......そのせいで、実の妹とも腹を割って話し合えてなかった)

 喜蔵の異父妹・深雪は、外見も中身も喜蔵と正反対で、素直で可愛らしい娘だ。喜蔵は彼女にどう接したらよいのか分からず、深雪もぎこちない兄妹仲に戸惑っていたのだろう。先日の花見の折、喧嘩を経てようやく少し心打ち解けた様子だったが、かといってすぐに何でも話し合える仲になれるとは思えなかった。

(頑固なところだけはそっくりなんだよなあ。あと意外と目が鋭いところもか......)

 思いだし笑いをつづけていた小春は、このつきとっこうが言った次の言葉で我に返った。

「やはり、噂は当てにならんな。まことなのは、例の噂くらいなものか」

「例の噂って何だ? あいつが実は閻魔の子じゃなく、青鬼の子だったとか?」

 くふふと含み笑いをしながら訊くと、このつきとっこうはにわかに真面目な顔をして言った。

「知らぬのか? 品川はずれの港にいる得体の知れぬ者の噂を」

「......得体の知れぬ者? 妖怪か? 人間か?」

「それが分からぬから、得体が知れぬのだ」

 首を横に振って答えたこのつきとっこうは、ややあってその噂について語りだした。

「我が校に通う数妖が、その得体の知れぬ者を見かけたのだが、『あれは妖怪だ』と『いや、人間だった』に意見が分かれた。学校帰りに共に見たので、同じものを目にしたはずなのだがな」

 妙な言葉を操り、頭が異様に長く、尻尾が生えていて、空を飛ぶ化け物─皆の意見をまとめたところ、どうやらそんな見目をしているらしかった。

「人間に見えた奴がいるってことは、俺みたいな見た目の奴かと思ったが......頭が異様に長くて、尻尾が生えてるんじゃあ違うよな」

「その点、お前はよいな。お前のように、馬鹿みたいに妖気を垂れ流していたら、どんな見目であろうとお前だと一目で分かる」

「しようがねえだろ、俺ってば物凄ーく強い妖怪なんだから!......その化け物だか何だかも、百目鬼の野郎みたいに、妖気をその身に封じこめていたんじゃねえか? つまり、強すぎるあまり隠してるってことで......本っ当、腹立つ!」

 穏やかに笑う男の姿が頭をよぎり、小春は話しながら腹を立てた。多聞という名を持つ妖怪・百目鬼は、小春と同じように人間の姿をしている。小春が述べた通り、彼は凄まじい妖力をその身に封じこめているため、同じ妖怪でも多聞が妖怪だと分からぬ者もいた。小春の師である青鬼も、多聞同様、妖気を抑えて生きているので、妖怪の世に名を残すくらいの強者は、そうするのが当たり前なのかもしれぬ。

「俺はそんなことしねえけどな! 正々堂々が俺の主義だから!......まあでも、時と場合によっては、しなくもないかも......いやいや、そんな卑怯な真似できるか!......でもなあ」

 ぶつぶつ言っていた小春だが、がしっと両肩をまれ、顔を上げた。小春の顔を見下ろすこのつきとっこうの顔には、見たこともないほど真剣な表情が浮かんでいた。いつかのように─その時以上に、このつきとっこうの妖気が増していく。

「頼みがある」

 小春はぐっと詰まりつつ「嫌だ」と即答したが、このつきとっこうはそれを無視してこう続けた。

「その得体の知れぬ者の正体を突き止めてくれ! 生徒たちの間に動揺が広がっているのだ」

「だから、嫌だって」

「嫌とは言わせない。この化々学校の校長は私だ」

「だから何だよ。俺はここの生徒じゃない」

「副校長を知っても、かかわりがないと言えるかな」

 にやりとして言ったこのつきとっこうに、小春は唇の端をひくりと動かした。どうにも嫌な予感がする。このつきとっこうは懐からさっと巻物を取りだすと、それを小春の眼前に突きつけた。

 化々学校  校長 このつきとっこう

 副校長 青鬼

 それが偽文書ではない証に、しっかりと青鬼の印が押されていた。

「青鬼とは竹馬の友なのだ。弟子を貸してくれと頼んだら、二つ返事で頷いてくれた」

「おっまえら......汚いぞ!」

 小春は顔を真っ赤にして叫んだ。周囲がざわついたのが分かったが、構っていられなかった。

「そんな脅しに俺は屈しないからな!」

「引き受けてくれぬのか?」

「断固拒否する!」

 即答した小春は、腕組みをしてそっぽを向いた。すると、このつきとっこうは巻物をまた懐の中にしまいこみ、今度は文を取りだした。ちらりと視線を向けた小春は、このつきとっこうの冷え冷えとした目を見て、びくりと身を震わせた。

「......これは青鬼からの文だ。二つの依頼のいずれも小春が断った時、ここに記してある罰をお前に施すと─」

「やるよ! やればいいんだろ!?」

 小春はやけくそになって言った。

「教授方になるか?」

「そっちは絶対やらん! 得体の知れない奴の調査だ! そっちをやってやる! この猫股鬼の小春さまが、すべて丸っと解決してやる!」

 そう啖呵を切った小春は、いつの間にか周りが静まり返っていることに気づいた。生徒たちが手を止めて、きらきらとした目で小春を見つめていた。

「話は聞こえていたな? 皆、こっちへ来て、見聞きしたことを教えてあげなさい」

 茫然としている小春を無視して、このつきとっこうは生徒たちに声を掛けた。

Profile

小松エメル

1984年東京都生まれ。母方にトルコ人の祖父を持つ。國學院大學文学部史学科卒業。2008年、ジャイブ小説大賞初の「大賞」を受賞した『一鬼夜行』でデビュー。著書に、「一鬼夜行」「うわん」「蘭学塾幻幽堂青春記」の各シリーズ、『夢の燈影』『総司の夢』『梟の月』などがある。

著者

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ

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