本に託した「伝えたい」という想い

『16歳の語り部』表彰式スピーチ全文

本に託した「伝えたい」という想い

写真・構成=天野潤平

東日本大震災から5年目の年に出版された『16歳の語り部』が「平成29年度 児童福祉文化賞推薦作品」を受賞しました。本書は、震災当時、宮城県東松島市の小学5年生だった子どもたちによる等身大の「語り」をまとめた一冊です。出版から1年経ち、彼らも17歳になりました。語り部の雁部那由多さんが受賞に際して語ったのは、過去と向き合うことの重み、語り伝えることの切実さ、何より「本」の持つ力でした。2017年5月8日に行われた表彰式で雁部さんが語ったスピーチの全文を、特別に掲載させていただきます。

17歳になった語り部

東日本大震災から5年目の年、
2016年2月に出版した『16歳の語り部』が、
「平成29年度 児童福祉文化賞推薦作品」を受賞しました。
※その他の受賞作についてはこちらを参照ください。

2017年5月2日には厚労省で表彰式が行われ、
語り部を代表して宮城県石巻高校3年生の雁部那由多さんと、
同書の案内役である佐藤敏郎さんが駆けつけてくれました。
式のなかでは、雁部さんが受賞にあたって、
現在の率直な想いを語ってくれました。

本の刊行から1年、東日本大震災から6年。
16歳から17歳(今年18歳)になった雁部さんは、
いま、何を想うのか。何を伝えたいのか。
そのスピーチの全文を掲載させていただきます。

語り出すために必要だった、5年という歳月

このたび児童福祉文化賞推薦作品を頂戴しました、
『16歳の語り部』著者代表の雁部那由多と申します。
栄えある賞のひとつにこの本をお選びいただき、
本当にありがとうございました。

今日は私たちにとって、『16歳の語り部』を、
役立つ本として認めていただいた記念日となるでしょう。

日本に甚大な被害をもたらした
東日本大震災から、6年が経過しました。
6年前のあの日、この本を書いた3人は
まだ小学5年生でした。

日常の風景が津波に飲まれ、目の前で人が流され、
友人をなくし、家をも失う。
私たちはこの出来事を受け止め、
向き合うために5年という時間を要しました。

人が目の前で津波に飲まれるなか、何もせずに逃げたこと。
なぜ自分は生きているのかと、悩み苦しんだこと。
みんな復興のために汗を流すなか、
いつまでも過去のことで悩んでいる自分はいったい何なのか。

どんなに考えても、
私たちだけで結論を出せるものではありませんでした。
出版までの5年という時間は、私たちが悩み、考え、
そしてあの日を振り返るために必要な時間でした。

5年を経て私たちが出した結論は、
二度と、同じ悲しみが繰り返されないようにと願いを込め、
語り、伝えてゆくことでした。

『16歳の語り部』は、昨年の2月、
震災から5年目の年に出版されました。
語り部の活動で初めて東京に出向いたその日に、
会場にいらしていたポプラ社の方から
「ぜひ本にしたい」とお言葉をいただきました。

本にすること。
それは、私たちにとって
伝えるための新しい方法であり、
同時に大きな勇気のいるものでした。

そんな私たちに出版を決意させてくれたのは、
本の持つ力でした。

本は、私たちの知らないところに、
私たち自身の言葉を届けてくれる。
いつになっても出版当時の私たちの言葉を、
ありのまま伝えてくれる。
本を読むその人が、
自分ごとに置き換えて考えをめぐらせてくれる。

本にしかない力に、
私たちの伝えたいという思い託すことにしました。
本にしたいとお話をいただいてから、
たったの4カ月で一冊の本ができあがりました。

読まれた方から返ってくる反響を耳にすると、
伝えることができたんだという実感とともに、
本にして本当によかったと、
まさしく本の持つ力が発揮された瞬間を感じとりました。

この本は、過去を綴っただけの本ではありません。
私たちが過ごしてきた5年間を振り返り、
未来を語る、希望の本です。

今日、インターネットやSNSが普及し、
誰もが簡単に多種多様な表現をできるようになりました。
自分が情報を発信する立場になったとき、
伝え方ひとつで相手の捉え方が変わることに気がつきます。
そして、どうすれば自分のイメージが伝わるのか、
どう表現すればよいのかを考え、模索しはじめます。

言葉や文字、映像という伝え方は、
私たちと今日ここで受賞された皆様がたどり着いた
ひとつの答えになっているのではないでしょうか。

結びに、今日この場で、
この本に栄誉ある評価をしてくださった皆様方に感謝申し上げます。
私たちはこれからも過去を見つめ直しながら、
伝え続け、未来に貢献できるように有りたいと思います。
本日はありがとうございました。

石巻高校3年 雁部那由多


あの日を語ろう、未来を語ろう

高校3年生になった彼らは、受験勉強に励みながら、
いまも未来をみつめ歩んでいます。

「あの日を語ることは、未来を語ることなのだ」

『16歳の語り部』のなかにある、
元・宮城県中学校教師の佐藤敏郎さんの言葉です。

あの日と向き合いながら、
いまを生きる彼らの活動を、
どうぞ引き続き応援ください。


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『16歳の語り部』
語り部=雁部那由多・津田穂乃果・相澤朱音
案内役=佐藤敏郎

Profile

雁部那由多

雁部那由多(がんべ・なゆた)
2011年3月11日、東日本大震災発生当時、宮城県の東松島市立大曲小学校の小学5年生だった。2017年5月現在、宮城県石巻高校に通う高校3年生。地元に限らず、県外の人に向けて、震災の体験と教訓を伝える「語り部」の活動をしている。

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