母さんは料理がへたすぎる

白石睦月

母さんは料理がへたすぎる

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著者・白石睦月さんインタビュー

「おいしい文学賞」を受賞し、『母さんは料理がへたすぎる』でデビューされた白石睦月さんに、作品やご本人についてうかがいました。

  *  *  *  *  *

──「おいしい文学賞」は短編の賞だったので、受賞作である1話目「母さんは料理がへたすぎる」を大幅に書き足して長編となりました。

 ふだんは長編を書くことが多いため、大幅な書き足しはたいへんではなくありがたいぐらいでした。じつは受賞作も原稿用紙60枚ぐらいになったのを、泣く泣く制限枚数の40枚におさめたのです......。「母さんは料理がへたすぎる」を長編にしませんかというご提案もいただいたのですが、これはすでに短編として世界が完結しているので、よけいな手は加えたくありませんでした。書くのであれば続編。龍一朗が高二になり、妹たちが小学生になり、世界をどんどん先に進めていきたい。そう考えて、春の季節でラストを迎える「母さん~」を引き継ぐかたちで、「ないないづくしの女王さま」を書きはじめました。春、夏、秋、冬、そしてまた物語には新しい春がめぐってきます。

──「おいしい文学賞」だけあって、美味しそうな料理がたくさん登場しますが、もともとお料理や食べ物にお詳しいのですか?

 基本は主婦なので、料理は毎日こしらえています。得意というほど上手でもないですし、詳しくもないですが、毎日台所に立っています。でもその積み重ねが大事なんだな、と龍一朗をつくりあげながら教えられました。夕飯めんどくさいな~と思いながらも、やっぱりきょうも台所に立っている。家族のために野菜を切り、肉を炒め、米を炊く。小さな積み重ねが少しずつでも私を成長させてくれていたんですね。気づかせてくれて、龍ちゃんありがとう。私はきみのような腕は持っていないけど(笑)。

──龍一朗の三つ子の妹たち、透、蛍、渉がそれぞれ個性があってユニークです。

 龍一朗の多忙さを表現するためには、きょうだいは不可欠だと思ったんですね。でも単なる子だくさんより、異性である妹だけがわらわらいるほうがおもしろいかな~、さらにかなり年が離れていて、しかも三つ子だったらなおインパクトがあるかな~という感じで渉たちは生まれてきました。けれどまさか受賞するとは思っていなかったので、透と蛍の性格については深く設定しておらず、あとあと詳細な肉づけをしていくのに苦労しました。それでもいったん決まってしまうと、透も蛍もすんなり動いてくれて、それぞれ個性を発揮してくれて、書いていてとても楽しかったです。三つ子のうち、自分ならだれといちばん友だちになりたいかな~とか、想像しながら読んでいただけると嬉しいです。

──(詳しくは言えませんが、)お父さんの登場の仕方も変わっていますね。意識されたことなどありますか?

 おとうさんは陰の主人公です。もういないのに、つねに龍一朗たちの心の中にいて、物語を引っぱっていってくれる。だれにとっても忘れることのできない、かけがえのない存在です。だからどうしても物語の中に登場してきてほしかった。リアル一辺倒なストーリーより、ちょっとファンタジーというか、ふしぎな世界を加えたほうが物語としての幅も広がると思ったので、おとうさんにはそういう世界を形成してもらいました。でもリアルな世界じゃないぶん、彼の回のお話をどういうふうに描けばいいのか、かなり悩みました。枚数としては少ないほうなのに、いちばん時間がかかったことを覚えています。

──主人公の龍一朗くんの健気さや思春期の苦しみに共感しながら読みました。龍一朗くんはどのようにして生まれたのですか?

 まず、男の子を主人公にしたこと自体がはじめてでした。おいしい文学賞=料理=女性という図式は私の中でハナから成立していなくて、じゃあ男性にしよう、男の子にしよう、料理が好きで妹たちのために毎朝キャラ弁をつくっちゃっているような......と考えはじめたら、次々とイメージが広がっていって、しぜんと龍一朗はできあがりました。本当にすなおに動いてくれる子で、短編とはいえ、ひと月足らずで脱稿となりました。その後の続編でも、龍一朗のやさしさや弱さ、料理を愛するゆえの迷い、そして強さなど、さまざまな彼が登場してくれました。

──ほかにも、学校の友達や先輩、隣人など、たくさんの周囲の人が登場します。特に気に入っているキャラクターはいらっしゃいますか?

 うわー、むずかしい! (腐れ縁友だちの)佐藤も(先輩の)岬さんも(料理ライバルの)辰美もみんな好きです。それぞれ本当に楽しく書けたんです。岬さんはカッコいいのに恋愛オンチだし、辰美は天才なのに不器用な性分だし、佐藤はとにかく愛すべきバカだし(笑)。
 でも山田家以外であえて選ぶのなら、椿原さんでしょうか。典型的な美少女にはならないように注意して書いていったのですが、結果、どんどんおもしろい子に(笑) おもしろくていい子なぶん、罪なオンナでもあるんですけどね......。
 
──ご執筆中楽しかったこと、嬉しかったこと、逆にたいへんだったことなどはありますか?

 『母さんは料理がへたすぎる』は基本が明るいお話なので、シリアスな展開になっていったとしても、やっぱり底が明るいので全編にわたって楽しみながら書けました。少しずつでもみんなが成長できたり、一歩踏み出せたり、そういう場面まで書き進められたとき、ああ良かったなあとしみじみ嬉しくなりました。
 たいへんだったのは、執筆の時間がなかなか確保できなかったことでしょうか。私事ですが、受賞のご連絡をいただいたときが妊娠八ヶ月。その後出産、はじめての育児、もちろんてんてこまい、睡眠不足、でも子どもが寝ていたり、ひとり遊びしていたりする合間を縫ってなんとか執筆......かなりハードな日々でした......。今でもそんな日々がつづいてるんですけどね(笑)。パソコンに強烈なパンチを食らわされ(わが子はベビー級チャンピオン)、二週間の病院送り(修理)にされたときは、真っ青になりました。以来、日中子どものそばでは執筆できなくなったので、夜な夜な作業をしています......。
 
──白石さんは本書がめでたくデビュー作となりましたが、今後はどんな作品を書いていかれたいですか?

 これまでは同世代の女性を主人公にした物語をおもに書いてきました。でも龍一朗と出会って、少年や少女を中心としたお話も書いてみたいと思うようになりました。三十代女性の揺れ動く心情も書きたい。子どもたちの瑞々しい戸惑いも書きたい。というわけで、現在、同時進行のような器用なことはできませんが、少しずつ文章なりアイデアなりを書きためていっています。
 物語を生み出すにあたり、私には一貫したテーマがあります。それは「弱い人間はいない。ただ弱い立場に追いやられている人がいるだけ」というものです。自ら道を踏み外すようなことをしたのに悔い改めなかったり、自己中心でせっかくの人生を放棄してしまったりしている人は論外ですが、懸命にもがいているのにうまくいかない、がんばっているのになかなか前に進めない、そんな本当は弱くない人たちの日々を丁寧に書いていきたいと思っています。成長物語が書きたいのではありません。日常を大事にしたいのです。誠実に生きていれば、かならず日常の中に成長は含まれますから。ぶじに作品を完成させることができたら、ぜひ読んでいただければ幸せです。
 
──asta*読者にメッセージをお願いします。

 『母さんは料理がへたすぎる』には、7つのおいしいお話がギュッとつまっています。
 たのしい、かなしい、うれしい、さみしい......さまざまな気持ちを読者の皆さまそれぞれの感覚でじっくり味わってみてください。このお話がひとりでも多くの方の心の中を、小さな灯火であたためられますように。
 これからも真摯に物語とつきあい、ひとつでも多くのお話を届けていきたいと思っています。よろしければ、応援してくださいませ。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

978-4-591-16585-0.jpgのサムネイル画像『母さんは料理がへたすぎる』白石睦月

装画 くまおり純

Profile

白石睦月

1982年、山口県生まれ。山口大学人文学部卒。美術史専攻。10年在住した群馬県で、独学で小説を書きはじめ、おもに長編を執筆。短編「母さんは料理がへたすぎる」で第1回「おいしい文学賞」を受賞しデビュー。趣味はバードウォッチング。

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