Moi!フィンランド発”自分を生きる”ということ

ヒルトゥネン久美子

Moi!フィンランド発”自分を生きる”ということ

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Moi!フィンランド発"自分を生きる"ということ②

フィンランドの介護施設で大切にしている2つのこと

フィンランドの介護施設で大切にしている2つのこととは、どのようなことでしょうか。


1.個人の心と体の健康、生活状況を理解し、寄り添ってくれるスタッフの存在。
2.家から施設に移っても、これまで生きてきた私という人間のLIFE CIRCLE(人生曲線)上の日常が途切れてしまわず、最期の時まで継続できる環境のサポート。


フィンランドの施設は高齢の入居者一人一人に担当のスタッフが決められています。グループでケアーを受けながらも、家族との連絡は担当スタッフが担います。自分をよく知ってくれる担当がいるということは安心です。また日々高齢者に関わるスタッフの立場からしても担当している方の日々の暮らしぶりを考え、語り合いながら、深い繋がりの中で共に暮らすことは、自らの仕事の満足度と責任感にも大きなプラスの効果をもたらしているようです。

日本では何グラム足りないとか、何ミリリットル飲まないといけないとか、プログラムに合わせて全て遂行するというような管理面ばかりに気をとられてしまいがちですが、それは入居している高齢者にとって「幸せ」なことなのでしょうか?
「今日のご飯はいい味付けね。」と介護士と高齢者がもし、一緒に食事をすることができたら、どんなに楽しいでしょう。隣で「お口を開けてください」と介助されて一生懸命食べようとするより、ずっと美味しさが増すと思います。
フィンランドではこのように一緒に食事をする場面が日常的に見られます。

ヘルシンキのすぐ隣の市に私がよく伺う大好きな認知症の高齢者施設があります。そこの施設では介護スタッフには制服がなく、それぞれの個性があふれる服装で、高齢者に接しています。制服姿でないというだけでも、人間関係がキュッと身近になるように感じます。隣に座り、楽しそうに共に食事をする姿は、まるで親戚か友人同士のような印象です。

ここには小さなバーカウンターもあり施設長に「ハッピーアワーも出来ますよ。」と聞かされた時は、さすがに私もびっくりしました。サウナの後にちょっとお酒を飲むことも可能です。「お誕生日や結婚記念日、何か嬉しいことがあればワインで乾杯したい気持ちは施設に入っても変わらないでしょう。」と話す施設長の言葉には説得力がありましたし、なんて愛に溢れている人なのかと感動したことを覚えています。

高齢者施設 ワインもオッケー.jpgのサムネイル画像フィンランドの高齢者施設ではワインを飲むこともOK

春にはご家族も一緒に中庭でのお花見とジャズコンサート。その日はみなさんおしゃれをして、ジャズバンドの演奏を楽しみます。介護スタッフも同じくハイヒールにドレス姿で、楽しそうです。腰を振りながらシャンペンを注ぐスタッフがいても良いのではないでしょうか? 


私は毎年、このお花見とジャズイベントに招待していただくのですが、素敵なお帽子やアクセサリーを身につけ輝いているおばあちゃまたちとの会話は本当に楽しいものです。
ある小さく痩せたおばあちゃまがいらっしゃいました。彼女は重度の認知症でほとんどお話はされません。この日も首から下がったネックレスを指で触っているだけでしたが、英語の歌を口ずさみながら過ぎていった介護スタッフが、この方は元英語教師だったと教えてくれました。

それを知った私はちょっとだけ、いたずらごころが出て、試してみたくなり、"My name is Kumiko. Nice to meet you."と声をかけてみました。そうしたら、ネックレスを指で触っていただけのおばあちゃまは、顔を上げて微笑んで"Nice to meet you, TOO!"と言ってくださいました。そのお返事が可愛くて可愛くて、そして私は嬉しくてたまらなくなりました。

それから、自分は日本人であること、フィンランドに長く住んでいることなどゆっくり英語で話しかけました。途中、コーヒーを取りに行って戻ってくると、彼女はすっかりそれまでの話を忘れて、「あなたは誰?」という顔で私を見るのですが、私はまた"My name is Kumiko. Nice to meet you!"と始めます。やはりまた笑顔が返ってくるのです。

周囲にはシャンペンでほんのり頬がピンクになった高齢者やご家族がちらほらいます。なんて楽しい時間でしょうか。こんな時間を提供できる高齢者施設は素晴らしいと思います。

花見.jpgのサムネイル画像中庭で開かれるお花見とジャズコンサート

1杯飲むか飲まないかのアルコールですが、健康管理のために一つ一つの楽しみがカットされたら寂しいものです。

「健康」を心と体の二つの面から考えるとするとフィンランドでは、心の健康がより優先されます。

日本でもたまにはお風呂の後に一杯くらいビールを差し上げることのできる環境だったらいいなぁと思います。

いつも人がそばにいる、私もそこで生きていきたい

視察の現場で意見交換をする中、日本の介護スタッフもフィンランドのように個々の対応ができればと考えていることがわかりました。 
ただ、「こうすることになっている。報告のための作業や雑務から離れられない。」と、皆が気付きながら何も行動を起こせない状況もあります。
何をすべきかしたいのか、気が付いている介護士が多いことを十分見聞きしているからこそ、私は現場を支援したいと強く思います。
心ある方達が、自ら仕事の仕方や中身を変えたいと思い悩んでいらっしゃいます。それを試みてみることが許されたら、介護の現場は夢のある、希望のある、モチベーションに溢れた、イノベーティブな新しい空気に満ち溢れた職場になるに違いないのです。
もともと人の役に立ちたいという方が多い、介護職は天使の仕事です。

その天使たちが疲弊しているのはもったいない。大きく羽ばたく職場となるよう、羽を広げるチャンスを自ら、そして皆で一緒に作っていただきたいと思います。

高齢者介護は高齢者のためのもの。高齢者に寄り添いサービスをしていたら、自ずと正しい決断に導かれるでしょう。ロボットが高齢者の相手をし、人が事務作業をすることは選択には上がらないはずです。過剰な記録管理より、寄り添うことに時間を費やしたい。テクノロジーの先進国である日本は、人に代われる分野において、もっとテクノロジーを開発・利用するべきです。
そして、やはり人はいつもそばにいてくれる存在であって欲しいです。

様々な高齢者施設を日本の介護関係者と回ってきた私が今、問いかけたい事。
「本当に毎日、同じ確認作業をし続けなくてはいけませんか?」
もし、答えが「その必要はないかもしれない」でしたら、勇気を持って回数を減らしたり必要な時だけに留める事はできないでしょうか。
もし、答えが「やはり、しなくてはならない。する決まりになっている。」でしたら、そのシステムを変えられるか、ポジティブな姿勢で検討してみる事はできないでしょうか。

目の前の一人一人がいずれ、此の世を去る時に、その方の人生のLIFE CIRCLEを継続できたでしょうか。
施設で見かける高齢者の姿と自分のそう遠くない未来を重ね合わせて、私は今、どう自分の人生を終えたいか、それを真剣に考えています。

夏の太陽と湖.jpgのサムネイル画像フィンランドの夏の太陽と湖。豊かな自然が広がる

※写真はすべて著者提供

Profile

ヒルトゥネン久美子

通訳、プロジェクト・コーディネーター。KH Japan Management Oy 代表。教育と福祉を中心に日本・フィンランド間の交流、研究プロジェクトを多数担当。フィンランドに暮らしていると兎に角、色々考えさせられます。現在の関心事はMy Type of Lifeをどう生きるか、そしてどう人生を終えたいか。この事を日本の皆さんと楽しく、真面目に、一緒に考えていきたいです。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ

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