Moi!フィンランド発”自分を生きる”ということ

ヒルトゥネン久美子

Moi!フィンランド発”自分を生きる”ということ

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Moi!フィンランド発"自分を生きる"ということ

バブルの日本からムーミンの国・フィンランドへ

フィンランドに暮らして早24年が経ちました。

フィンランド航空の客室乗務員に採用され、この地に初めてやって来た時、なんて地味な国なんだろうと思いました。

当時バブルの日本からやって来た若い私の目には、ブランド嗜好が全くと言って良いほどなく、「自分は自分だから」と言い切るフィンランドの若者たちに、なんとなく退屈感を覚えました。と同時に、自分自身を顧みた時、どことなく根無し草のようにも感じて、少し恥ずかしかったことを思い出します。

日本や自分の住む町のこと、教育や女性の立場について聞かれても、微笑んで曖昧な答えしか返せませんでした。

少しずつですが、立ち止まり、自分を見つめる機会を通して、今までいかに考えることをしてこなかったか、『そういうものでしょう?』とただ単純に受け入れていたことが、実は何の根拠もなかったということにも気付かされ、フィンランドに暮らすうちに色々なことに「気付いてしまう」ことが新鮮で楽しくなりました。

その後、フィンランド人の主人と出会い結婚、そして息子も産まれ、日本の文化と習慣の中で生きてきた私は、日本人の感性も守りながら、もっと主体的に生きていく方法をフィンランドで学んできたように思います。

この国での生活が長くなるにつれて、持ち物、服装、食文化はシンプルになりましたが、私の心の中の部屋はどんどん空気が入って膨らんできたように感じます。今まで考えてもみなかったこと、それも自分や、日々の生活や人としてのあり方などを気付かせてくれる何かが、この国にはいっぱい溢れています。 

冬、川の上を歩く私.jpgのサムネイル画像

冬の凍った川を歩く著者

昔から起業家精神に溢れ、個人事業を支援する空気のあるフィンランドですが、私もフィンランド人に倣って10年ほど前に起業しました。

現在は主に教育・福祉のコーディネーターとして日本視察団の通訳業務や研究者と研修のためのプログラム作り、そして日本の方々へのワークショップやレクチャーを開催しています。

教育と福祉は国を支える大きな柱です。

特に高齢者介護の現場を多く見るうちに自分も含めた「人の一生」、その生き方と終わり方について考えることが多くなりました。自分が此の世を去る時、どのような自分でいたいかと考えてみると、そこに至るまでの生き方が自ずとわかってきます。またその時にどのような社会であってほしいかを考えると、私たちがどのような姿勢で社会の一員として生きていくべきか、ということにも繋がり、それは教育だと思うのです。

高齢者福祉と教育は私たち一人一人が今、日常で意識していく必要のあるテーマであり、日本の視察団を対象に教育・福祉のコーディネートをする私にとってはライフワークと言えるものになっています。できるだけ、多くの現場を見て学び、様々な立場の方達と分かち合いたいと願っています。

日本とフィンランドの違い


「体温、血圧、体重測定、食事と水分の摂取量、トイレの回数、排便量と、日常的な確認作業と、そのペーパーワークをフィンランドではどのタイミングでどのように介護スタッフは対応していますか?」

聞いた途端に、同情してしまいそうなこの質問。

日本からの高齢者施設視察団の多くから、必ずと言って良いほど出る質問のひとつです。

高齢者福祉サービスにおける先進国・フィンランドから学ぼうと、毎年多くの視察団がこの国を訪れます。日本の介護の現場で働く方々は、細かな日常作業が求められる日々のようで、その解決策が見出せず、フィンランドから学ぼうとされています。

日本でもフィンランドでも高齢化という共通の問題を抱え、介護の現場をいかに支援していくべきか、AIなどのテクノロジー利用も含め、介護サービスの改善が検討されています。特に介護職の確保が困難となっている日本は、介護職自体の3K(きつい、汚い、危険)というマイナスイメージを一掃し、マンパワーを確保するということが火急の問題なのです。そのために、視察団は現場でいかに介護士の仕事負担を軽減するかという解決策をフィンランドに求めてきます。

視察団からの質問に対して、多くの場合、フィンランドの介護職員からは以下のような答えが戻ってきます。

「体温や血圧ですか?毎日は計ってはいませんよ。日本では毎日計る必要があるのですか?」そして「ペーパーワークですか?紙に記入することは今はしていませんね。空いた時間にコンピューターのプログラムに記入しています。」

私が、こう通訳すると日本の方々は「フィンランドは、システムが違うんだ。確認作業の義務がないとは。比較のしようがない。」と一瞬、何を言っているかわからないというふうに椅子の背もたれに倒れ掛かります。

フィンランドの職員は「なぜ、毎日測定をしなければならないのですか? なぜ、プログラムに書き込むだけでは足りず、紙の作業をするのですか? 私たちはもっと仕事を単純化し、空いた時間で心と体に余裕を保つようにしています。 そうすることで、この仕事が好きな人だったら、自然と新しいアイデアを考え出し、試みたりするのではないでしょうか?」と言います。

日本とフィンランドの大きな違いは、高齢者施設の役割に対する根本的な考え方にあるようです。そして、そこで働くスタッフの意識にも違いがあります。

多くの日本の介護職員の方々は「高齢者をお預かりしている私たちは、お一人お一人の健康状態を維持、改善することが自分たちの大きな役割だと考えている。」とおっしゃいます。介護職員はそのためのプログラムを日々誠実にこなし、そして高齢者はありがたくサービスを受ける立場です。

一方、フィンランドでは、高齢者施設は高齢者一人一人が暮らす、それぞれの家と考えています。実際は一人暮らしが不可能な状況なので同じ屋根の下に集ってはいますが、それでもそれぞれのお部屋を、それぞれの家として考えています。

ですから、施設に入った途端にこれまでの個人の生活が大きく変化することがないように配慮します。食事の時間などスケジュールがある程度決まっているところはありますが、それでも近年はかなりフレキシブルで、7時から11時までの好きな時間に朝食をという施設が増えてきました。

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フィンランドの高齢者施設。介護士と高齢者は家族のよう

早起きがずーっと習慣だった方。また夜はパジャマに着替えた後もゆっくり新聞を読んだりTVを見たり、小腹が空いたらお夜食にちょっとサンドイッチをつまんだり、それぞれで良いのです。

フィンランド人にとっては、起床、就寝、面会時間などがきっちり決められた生活は、自分の家での暮らしとは言い難いのです。

※写真はすべて著者提供

Profile

ヒルトゥネン久美子

通訳、プロジェクト・コーディネーター。KH Japan Management Oy 代表。教育と福祉を中心に日本・フィンランド間の交流、研究プロジェクトを多数担当。フィンランドに暮らしていると兎に角、色々考えさせられます。現在の関心事はMy Type of Lifeをどう生きるか、そしてどう人生を終えたいか。この事を日本の皆さんと楽しく、真面目に、一緒に考えていきたいです。

Pick Up Book

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