玲子さんのおしゃれクロゼット

西村玲子

玲子さんのおしゃれクロゼット

2

空っぽの服

玲子さん第2回ネコ季節の変わり目は、
ファッションも悩ましい。
毎日を心地よく過ごすために、
したいこと、できることって?


玲子さん第2回1

玲子さん第2回2

 少し先に楽しみを用意しておく。旅行だったり、コンサートだったり。到達すると、また何やかや見つけ出して用意しておく。例えば、夢中になっている本を読み終えてしまうと読後の感動と共に、寂寥(せきりょう)感にも襲われる。そういう感じを長く引きずらないように、次を用意しておく。

 ファッションに関してもそれを実行しているのだが、少し考え込む。これを着たらきっと素敵でしょう、が、取り出してみると、今の気持ちにそぐわない。待っていた季節になったら、新鮮味に欠ける。ショップで見た時の高揚感は一ミリも残っていないのだ。

 失敗とは言わないまでも、何ヶ月も前に手に入れたこの季節にぴったりの服が一度も着られないままクロゼットで色あせてしまうのは可哀想だ。衣服はそれ自体なんら変わりないのに、心の動きに大きく左右されていく。似合うとか似合わないとか、その以前に気持ち。昔に比べて衣服に対する心の動きが激しくなっているようだ。

玲子さん第2回3

 流行にはもともと左右されないのだが、きっと、年齢なんか関係ないわと高をくくっているわりには、それも気になり、体形も気になり、そしてやはり、少しは流行も気になり、持っている服との相性も気になり、どうしていいやら、小さなパニックが押し寄せているのかもしれない。

 私と同世代の人たちから、何を着たらいいのか悩みます、というお手紙を頂いたりして、好きなものを楽しく着たら、それが似合って素敵です、などと偉そうにお答えさせてもらっていたが、分かります、本当に悩みますね。

 結論としては、その旬な季節に、ショップで明日にでも着ていきたくなる服を探すこと。既に終わってしまったが、桜の季節に満開の桜を見逃さないようにする、それもひっそりと咲いている美しい桜、人が大勢いてうるさいところではなく、煩わされずに一人で染み込むような気持ちでじっくりと佇む。例えてみればそんな気持ちで探した服こそが、ぴったりとくる服なのではないかと思う。

玲子さん第2回4玲子さん第2回5

 クロゼットを開けて、あら、こんな服いつ買ったのだろう、その言葉が出てしまう哀しさは、忘れっぽくなったからではなく、愛情というものが抜け落ちた空っぽの服だから。

玲子さん第2回6

 何年も前になるが、ワタリウム美術館で『エンプティ・ガーデン展』という催しがあった。何も植わっていない土のガーデンに種を蒔いて、育ち咲いていくのを見ていくというものだった。だから、何度も日にちを変えて訪れることが出来るという粋な企画だった。空っぽの服もそんな風に丁寧に育てていきたいものである。

玲子さん第2回7

Profile

西村玲子

イラストレーター・エッセイスト。ファッション、インテリア、映画、旅など、多彩なテーマを文章とイラストで綴り、洗練されたライフスタイルを提案し続けている。著書は最新刊の『おしゃれは楽しく いつも好きな服で』など200冊以上。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ
ポプラ社一般書通信 note

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ