玲子さんのおしゃれクロゼット

西村玲子

玲子さんのおしゃれクロゼット

5

おしゃれと人生の割合

おしゃれだけが人生じゃないけれど、
おしゃれのない生活なんてありえない。
人生に占める割合、
ぴったりなのはどれくらい?

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セレクトショップを経営している友人は、眩暈いがするほどおしゃれな人である。こういう人をおしゃれというのだ、ふむふむ、と思うが、参考には出来ない。私の出来る範囲のおしゃれからは、遠く離れていて、側にいてもバーチャルなのだ。とても遠い。

その彼女が、何度か着たものは全て処分するのだと言う。処分?若い人にあげたりして、殆ど手元にないのよ。家にあるのはほんの少し。

洋服を扱っている人というのはそんなものかもしれない。着るのも売るのも仕事なのだろう。毎日そういうものに囲まれているとそんな風な心境になるのかもね、そんな風になってみたい。

好きな服のお店に行くと浮き足立って、変な空気が流れる。こんな年齢になっても、昔からの洋服好きは衰えない。

服を処分するということは大変。ぽんぽん捨てるわ、と言う人もたまにはいるが、捨てられない悩みを分かち合える人が殆どである。

衣替えをする時に思った。着ないのに出してきては並べ、また次の季節が来るとそのまま仕舞う。衣替えというのは忙しい合間にちゃっちゃと済ませなければならないから、こんな風になるのよと、変な理屈をつけて自分を慰めているが、それが衣替えストレス症候群(今、命名する)。衣替えが嫌いだったのは全てここから来ていたのだ。

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今年もそう。暑い夏が始まっているというのに、夏物のケースを出したくない。そこには毎年見る服がどっさりと入っている。嬉しい、あの服を着られる季節になったわ、という気持ちなど微塵もないのだ。季節が終わってそのケースには来年までお別れねというそんな服だけにしたい。

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5年ほど前、服のおしゃれより何より、人生の愁いや機微のことだけを書きたいと思い、いただいた雑誌の連載におしゃれはほんの少しの添え物にして、好きに書かせていただいていた。一年を過ぎた頃、もう少しおしゃれを中心にしていただけませんか、という注文が出てきた。落ち込んだが、やっぱりねと思い直し、おしゃれ6、人生4で妥協する。

その頃読んだ本が『千年の祈り』。中国人女性作家の短編集で、その中のタイトルになった一篇が好きだった。父親と娘の物語で、アメリカに住む娘のところにやってきた父親と、公園で出会う老婦人との会話が微笑ましい。へんてこりんなおしゃれで、それでも幸せそうな、その人を可愛く思える主人公が素敵。そうなのよ、それでいいのよね。

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人生をいかに素晴らしく過ごせるかということが最初にあって、それの一環におしゃれが含まれるだけ。でもね、されどおしゃれ、それを重視して生きてきた長い歴史があると、侮れない。身体に染み込んでいるのである。

先日、二子玉川のお店のセールに友人たちと出かけることになった。久し振りに会うYさんが藍の服を着ていた。素敵である。作りが丁寧、どこか違う。注文してから三か月かかって届いたの。湯河原の素敵な場所で土日だけ開かれるお店だという。

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私も聞いたことがあった。そうね、行ってみてもいいわねと、他の人と話したことがあったのを思い出す。他にも見る所があればすぐにでも行くのだけれどね、とその時は50パーセントの気乗り。

Yさんの服を見たら、それが欲しいというよりも、湯河原という温泉も湧くのどかな土地で、ゆったりと服をつくって週末だけお店を開く。そういう生活が素晴らしく思えた。人生6、おしゃれ4、というところでしょうか。

Profile

西村玲子

イラストレーター・エッセイスト。ファッション、インテリア、映画、旅など、多彩なテーマを文章とイラストで綴り、洗練されたライフスタイルを提案し続けている。著書は最新刊の『おしゃれは楽しく いつも好きな服で』など200冊以上。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ

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