玲子さんのおしゃれクロゼット

西村玲子

玲子さんのおしゃれクロゼット

7

複雑であることの楽しさ

年月の積み重ねとともに
おしゃれも複雑になっていく。
諦めたり、諦め切れなかったり。
でも、それが大切なのかも。

reiko07-2.jpgreiko07-1.jpg 年齢が高くなってくると複雑だ。シンプルにぼんやりと過ごせると思いきや、何の何の。

 昨日、久し振りの友人とおすしを食べて、喫茶店でお喋りし、その後遅くまでやっているスーパーで食品を買って帰るというコースを楽しんだ。

 スーパーで遠近両用の眼鏡を掛けている友人に、
「よく見えて便利なのでしょう?」
「便利なのよ、それに眼鏡って疲れて隈が出来たりしていてもごまかしが利くしね。掛けてみて」
「目の前のものと、近くの全体は見易いけれど、その分遠くが見え難いわ。こんなものなの?」
「一つぐらいは我慢してもらわんとね、おくさん」
 友人と私は大阪で、高校の先輩と後輩である。大阪の眼鏡屋さんならそんなことを言いそうで私たちは笑った。

 眼鏡も髪も、そしてもちろんおしゃれも、その他諸々、複雑になってくる。諦めながら年月が過ぎていく。諦め切れなくて複雑になる。最近では、自然にするわ、と宣言までして、髪を染めないことにしていた。白い髪はまだ少なくて、出て来たグレイの髪はぼんやりと頭のてっぺんに、蜘蛛の巣のようだ。自分ではよく見えないし、ま、いいかと忘れることにしていた。

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 でも、忘れようとすればするほど、人はそのことにとらわれるものである。
「その頭、どうしたの? 山姥のようだよ。もしかしたらチズさんのようにしたいの?」

 息子が言う。チズさんとは、佐伯チズさんのことらしい。
「あんなふうになればいいけどね。似合うかな」
「ああいう髪が似合うのは、顔が小さくて、色が白くて、目鼻立ちがはっきりしている人でないと無理」と息子が言う。

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 そして数ヶ月、とうとう元のように染めた。あんなに悩んでいたのが噓のようだ。髪に関しての複雑な思いは一応解決。それでも良いのよ、自然に、という強い心は持てなかった。若返りに努力する、必死になる、ということほど愚かなことはないという信念も簡単に揺らいだ。

 ストリートファッションの写真集『サルトリアリスト:クローサー』の中の高齢女性の、写真とそれに加えられたコメントにはっとする。カメラマンであり著者のスコット・シューマン氏の優しい視線。複雑な年齢を素敵に自分なりのおしゃれで堂々と。それは年齢ではない、自分なりの完璧、美しさを求める柔らかい心が大切なのだ。

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 諦めながら新しい魅力を探っていく。それだわ。複雑であることの楽しさが見えてくるような気がする。持っているもの、買ったもの、クロゼットの中がどんよりとする日もあったが、そう思うと、輝いて見えるのである。

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Profile

西村玲子

イラストレーター・エッセイスト。ファッション、インテリア、映画、旅など、多彩なテーマを文章とイラストで綴り、洗練されたライフスタイルを提案し続けている。著書は最新刊の『おしゃれは楽しく いつも好きな服で』など200冊以上。

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