玲子さんのおしゃれクロゼット

西村玲子

玲子さんのおしゃれクロゼット

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静かな形への一歩

個展の準備に追われる中で
ぼんやり見えてきたのは、
これから進んでいく
道なのかもしれない。

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 一年に一度の小さな個展。ぎりぎりで作品作りをするものだから、机の上に材料が山積みになっている。料理しながら片付けて、出来上がった頃にはキッチンはぴかぴか、美味しい食卓の出来上がり、という神業の友人がいる。それは諦めたとして、せめて仕事だけでも美しい机をキープして、次々と作品が出来上がる、という風でありたいのだが、今回もまたこんな調子である。

 人生は物を集め、その収納に追われる、という戦いの連続である。最近何か新しい服買った? と友人に気楽に言ったら、買ったらその分捨てなければいけないでしょ。今は捨てたい服がないのよ。という非常に重みのある答えが返ってきた。江戸時代の武士のような精神に、私はくらくら、くらくらしながら、こうでありたいと願うのであった。

 シンプルな生活、服は10着だけ、ときめかないものは持たない、ミニマム、そういう言葉に反発しながらも心のどこかで憧れている。というか、本当はそんなでありたい。反発は単に言い訳である。

 出かけるぎりぎりまで服に迷って、ベッドや椅子にそれらを積んだまま出かける。帰ってきて、忘れていたそれらの服を定位置に戻しながら、この年齢になるまで何でいつも同じことを繰り返すのだろうと、うんざり。一つ出したらすぐに戻しなさい。幼い頃からうるさく言われて育った。母の声がヘルメットのように頭に被さっていた。

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 収穫、取り入れに夢中になっていた時期には、物との戦いになろうとは思いもしなかった。今の若い友人たちを見ていると、私のその頃を彷彿させられて、もしもし、後になって反省しますよ、と声をかけたいくらい。でも、その頃に感覚が磨かれた、いいものを見る目を養えた、と言えなくもなく、そういう時代も必要だと思う。あまりにもいろんなものに夢中になって、そして今、やっと、静かな形に戻していきたいと思う。

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 完成形が、どんなものだか分からないが、完成に向かって静かに心も穏やかに、捨てるものは物だけではなく、いろんな人との関係、気持ちのもやもや、クリアにシンプルに。

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 ニューヨーク植物園で買った小さな写真集がある。『THE WILD BRAID』という本で、100歳を過ぎたアメリカの有名な詩人Stanley Kunitzがガーデン作りをしている様子がポエムと記事と写真で描かれた素敵なものだ。行く末はこうでありたいと思わせられる。そこまで行くには年齢はあっという間に到達するだろうが、精神の熟成度は遠い。

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 まず、物をきちんと把握して、少なくして、ゆったりとした居場所を作るところから始めましょうかね。スタンリー氏に近付くための一歩です。

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Profile

西村玲子

イラストレーター・エッセイスト。ファッション、インテリア、映画、旅など、多彩なテーマを文章とイラストで綴り、洗練されたライフスタイルを提案し続けている。著書は最新刊の『おしゃれは楽しく いつも好きな服で』など200冊以上。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ

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