『つむじダブル』書籍レビュー

評者:吉田伸子

二人の作家が奏でる優しく澄んだハーモニーを味わう一冊

二人の作家が奏でる優しく澄んだハーモニーを味わう一冊

一つの物語の萌芽の場に立ち会ったことがある。立ち会った、というのは正確ではないか、そこは、いわゆるSNSというネット上の空間だったからだ。きっかけは、小路さんが、自分にはつむじが二つある、とつぶやいたことだった。

実は私にもつむじが二つある。つむじのあるところは毛の流れが変わるため、髪の毛は思うようにまとまらず、髪の毛を整えるたびにムキ~ッとなること幾星霜。おまけに、つむじが二つもあるのは、へそ曲がりの証拠だとか、世間の風はつむじを二つ持つ者には冷たく、加えて、そもそも私の周りにつむじが二つある人間は誰もいなかったため、(勝手に)「おぉ、同志よ!」とばかりに、小路さんに伝えたのだ。「私にも二つつむじがあります!」と。同時に、私も! と小路さんに応えたのが、宮下さんだった。

一連の流れで、二つのつむじのことを小路さんが「つむじダブル」と名付け、その後、みるみるうちに、小路さんと宮下さんが「つむじダブル」をモチーフにした小説を合作しよう、という話が立ち上がったのだった。巷間、SNSの功罪はよく言われることだけれど、この、小路さんと宮下さんの合作である本書『つむじダブル』の誕生に関しては、間違いなく「功」だ。それも、とびきりの! その萌芽に立ち会えたことは、奇跡のようだった。

本書は、鎌倉で暮らす小宮家の、由一とまどか兄妹の物語だ。高校生の兄・由一のパートを小路さんが、小学四年生のまどかのパートを宮下さんが、それぞれ執筆した。祖父(同じ敷地内にある隣の家で、接骨院を開業している)に柔道を習っているまどかの章では柔道着のイラストが、同じ高校の仲間とバンドを組んでいる(バンド名はDouble Spin Round、つまり、つむじダブル!)由一の章ではギターのイラストが描かれているのが愛らしい。

物語は、「ひゃくにぎりはすごい。」という、まどかの言葉で始まる。「頭脳線と感情線が一本になって」いる親友の美波ちゃんの手相、それが「ひゃくにぎり」だ。まどかには「ひゃくにぎり」はないけれど、つむじは二つある。でもそれだと前髪がまっすぐに下りないので、すごく強運だというひゃくにぎりよりも、幸運だとお母さんが言ってくれた二つのつむじよりも、欲しいのは、まっすぐに下りる前髪だ、とまどかは思う。

このまどかがね、可愛いんです。思春期のまだちょっと手前にいる小学四年生、という設定がいい。自分ではもう子どもじゃないと思っているのだけれど、かといって、大人ではないことも分かっている。優しいお母さんとお父さんがいて、カッコイイお兄ちゃんがいて、秘密のひの字もないような小宮家だけど、でもちょっとぐらいは秘密があってもいいのに、と思っている。このあたりの、まどかの心理が、すごくリアルで可愛い。

兄、由一は、高校二年生でバンドを組んでいて、背の高いイケメン! ちょっとこれ、出来過ぎじゃないですか、小路さん、と、現実で、同じく高校生男子を育成中の私などは僻んでしまうほど。だけど、この由一がまたいいヤツなんですよ。思春期まっさかり、だけどそろそろ反抗期も終わって、大人の事情も分かり始める頃。学校では進路指導が始まり、バンドのメンバーみんなで東京の大学に進学したいとは思うものの、それぞれの家にはそれぞれの経済的な事情があることも分かっている。

はじけるようにまっすぐな、元気玉みたいなまどかと、落ち着いた(何たって、年上の彼女がいるのだ!)由一。穏やかな小宮家の日々は、けれど、ある日「芦田伸子」と名乗る女性から電話がかかってきたことで、何やら怪しげな雲行きに......。

物語の真ん中にあるのは、小宮家のとある秘密、なのだけど(その秘密に関しては、実際に本書を読まれたい)、その真ん中の秘密をぐるりと囲むように、音楽があるのがいい。由一のバンドはもちろんなのだけど、由一とまどかが口ずさむビートルズ(ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ!)、アイドル歌手のデビュー曲......。小路さんの、宮下さんの、音楽へのリスペクトというか、音楽というものへの愛がちりばめられているのがいいのだ。

さらには、まどかはまどかで、由一は由一で、物語を通じて成長していくところも、読みどころだ。とりわけ、まどかが好むと好まざるとにかかわらず、男女の差が出てきたことに戸惑い(「いろんなところで男子と女子が分かれていくのに、私だけがついていけないみたい。分かれていくならまだいいんだけど、分けられていく、という感じがして、それなのにすんなりと従っていくみんなのことがよくわからなくなってしまう」)、でも、その戸惑いさえも、まどかなりにしなやかに乗り越えてしまう、というのがいい。

これ、まどかを小学四年生にした設定の妙だなぁ、と思う。もやもやを抱えたまどかが、母との会話で、「あ、わかった。不自由だって思っちゃうことが、もしかしたら不自由なのかな」と不意に気づくシーンは、本当にいい。まどかのこの言葉、実は大人にも通じるというか、大人こそ、まどかのこの言葉をしっかり受け止めなければ、と思う。

物語の終盤、由一が「母さんの声に合わせて三度でハモる」シーンがあるのだが、本書自体が、小路さんと宮下さんの "ハモり" である。その優しく澄んだハーモニーを、静かに味わいたい。

『つむじダブル』
小路幸也/宮下奈都
装画:祖敷大輔
定価:本体620円(税別)

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Profile

評者:吉田伸子
書評家。著書に『恋愛のススメ』(本の雑誌社)などがある。

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