才能の分岐点

おおたとしまさ

才能の分岐点

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プログラミング教室で伸びる意外な能力とは?(1)


プログラミング教室「LITALICOワンダー」取材記【前編】

「趣味」で終わるのか、才能を開花させ「プロ」の道を歩むのか――。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、「才能の分岐点」と題して、「習い事」と「才能」の関係について探っていきます。今回は、学校教育にも導入される見込みとなっているプログラミングがテーマ。教育熱心な保護者は、いち早くプログラミング教室に子どもを通わせています。プログラミング教室で得られるものは何なのでしょうか? 教室を拡大中のプログラミング教室に取材しました。


小学校でもプログラミング的思考の育成


 2020年度以降適用される新学習指導要領の中では、「将来どのような職業に就くとしても、時代を超えて普遍的に求められる」として学校教育の中に「プログラミング的思考の育成」が積極的に盛り込まれる見込みとなっている。それにともない習い事としてのプログラミング教室も盛況だ。
 現在の親世代が子供だったころにはプログラミング教室などという習い事はなかった。どんなことを教えてくれて、どんな力が身につくのか。一般の人には想像の域を出ないだろう。そこでプログラミング教室の一例として、株式会社LITALICO(以下、リタリコ)が運営するプログラミング教室「LITALICOワンダー」を訪れた。
 リタリコはもともと障害者支援を行う企業である。発達障害や学習障害を抱える児童への学習支援にITを活用したところ効果が大きかったので、一般の子供たちにもITを活かした教育プログラムを提供することを決めた。当初「Qremo(クレモ)」だった事業名を2016年夏に「LITALICOワンダー(以下、リタリコワンダー)」に変更し、現在東京と神奈川に5つの教室を展開している。
 訪れたのは横浜校。プログラミング教室という言葉からは、コンピューターがずらっと並んでいる教室を想像するかもしれないが、リタリコワンダーの教室は商業施設などの一角にある「プレイルーム」のようなたたずまい。ポップな色使いと曲線的なレイアウトで統一されている。
 年長から小3を対象にした「ロボットクリエイト」コースではレゴブロックを使用してロボットをつくり、それをコンピューターで動かす方法を学ぶ。
 小1から高校生を対象にした「ゲーム&アプリプログラミング」コースではゲームやアプリをつくる方法を学ぶ。ビギナーはマサチューセッツ工科大学メディアラボが開発した「Scratch(スクラッチ)」という子供向けプログラミング学習環境を利用する。上級者になると、「enchant.js」や「Xcode」と呼ばれる本格的なプログラミング技術の習得に発展する。
 そのほか、小3以上を対象により高度なロボット制御技術を学ぶ「ロボットテクニカル」、小1以上を対象に3Dプリンタなどを使用する「デジタルファブリケーション」などの講座がある。
 いずれのコースも指導者1人に対して生徒は4人までの個別指導。一斉に授業を受けるのではなく、それぞれの生徒がそれぞれの課題に取り組むスタイルだ。指導者は要所要所でヒントを与えたり、相談に乗ったりする。教室に来る頻度や生徒の興味によって、カリキュラム進度は大きく変わる。進度が速ければ良いというものでもない。


プログラミング教室は絵画教室の変わり!?


 「ロボットクリエイト」に通って半年くらいになる小学1年生の小林豊くん(仮名)の両親に聞いた。
 プログラミング教室に通わせようと思ったきっかけは何か。
 「小さなころからものづくりが得意で、ブロックやパズル遊びが大好きでした。造形的な才能を伸ばしてあげたいなと思って、最初は絵画教室などを探していたんです。でも、普通の絵画教室は、お行儀良く座って先生に言われたとおりの絵の描き方を習得しなければいけない様子でした。豊は活発で落ち着きがないタイプで、型にはめられるのをとても嫌うので、これは向いていなさそうだと感じました。ネットでいろいろ調べていて、たまたまリタリコワンダーを見つけました。豊はレゴが大好きでしたから、これはいいと思いました。体験をさせるとその日のうちに『僕、入る!』と言ってくれて、入会しました」(母)
 「私もいっしょに見学に来て、教室が明るくて、和気藹々としていて、自由で楽しそうで、ちょっと騒々しい雰囲気が良いなと思いました。私が子供のころは、習い事というと、嫌いなことを無理矢理やらされることも多かったのではないかと思います。私自身、水泳、ピアノ、公文など、どれもイヤイヤやっていた記憶があります。それでは子供の才能を引き出すことはできないだろうと思うので、息子には自分の好きなことをやってほしいと思っています」(父)
 予想に反して、「これからの時代にはITスキルが必要だから」などという理由ではなかった。子供の自由な発想を伸ばすツールとして、絵筆の代わりとして、コンピューターを選んだのだ。


ワークショップの3時間でゲームが完成


 小林さん一家、この日は夏休みを利用して、「ゲーム&アプリプログラミング」の1日限定ワークショップに来ていた。
 真っ黒に日焼けした豊くんはスクラッチを利用して、アクションゲームの制作に取り組んでいた。無線LANでインターネットにつながっているラップトップパソコンを利用して、ときどき自由に席を移動しながら作業を進める。
 手元のテキストにはゲームをつくる段取りが書かれている。漢字にはすべてルビが振られているので小1でも読める。それに従って作業を進めればゲームが完成するしくみだ。ただし、どのようなキャラクターにするのか、どのようなコース背景にするのかなどは豊くんの発想次第。
 はじめてのスクラッチ体験であるにもかかわらず、私がパソコンの画面をのぞき込んだときにはすでにスーパーマリオブラザーズのようなゲームができていた。作業にかかった時間は約3時間。「やってみていいよ」と豊くんに促され挑戦するも、すぐにゲームオーバー。豊くんの父親は見事クリアした。
 いつもやっているレゴのロボットづくりと、ゲームづくりとどっちが楽しいか尋ねてみると「ゲームづくり!」と即答。「レゴも好きだけど、ゲームづくりは自分でキャラクターを考えたり、コースを考えたりするのが楽しい」とのこと。自分の頭の中の世界観を自在に表現できることがうれしいようだ。
 ワークショップ後、両親と指導者は、ゲーム&アプリプログラミングコースへの移行について早速話し合っていた。再び両親に聞く。
 プログラミング教室に通ってから豊くんに変化はあったか。
 「自分の発想を形にしていくことができるのが楽しいようです。本人は『プログラミング』とは思っていませんね」(母)
 「『なんで?』とか『なぜ?』という質問が前よりも増えたように思います。物事には何でもしくみがあるということに気づき始めたのでしょう。こちらとしても以前よりもより深く理論的に教えるようにしています。しかも豊もそれを理解できるようになってきている気がします」(父)
 「豊の中にあるいろいろな『点』が『線』になっていっている気がします」(母)
 いつまでプログラミング教室を続けるつもりか。
 「いつまでかは決めていません。本人が決めればいいかと思っています」(母)
 「教室に行かなくてももう自分でできると本人が言ってくれることが理想ですね」(父)


後編公開予定は12月14日!


Profile

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。上智大学英語学科卒業。リクルート入社後、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動をおこなう。心理カウンセラー、中高の教員免許を持ち、私立小学校の教員経験もある。著書に『男子御三家』(中公新書ラクレ)、『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『ルポ父親たちの葛藤』(PHPビジネス新書)などがある。

著者

Pick Up Book

  • かがみの孤城
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Cov_Kuko_R.jpg『最高の空港の歩き方』の刊行を記念してトークイベント「夏休み、空の玄関で逢いましょう。」を7月23日(日)にジュンク堂書店大阪本店で開催いたします。いま空港がアミューズメントパーク化しています。ご当地グルメ、空港限定グッズ、お風呂、空港アート、飛行機撮影、工場見学ーー飛行機に乗る人も、乗らない人も楽しめる「空の玄関」の遊び方と、その背景にある「進化の理由」を『最高の空港の歩き方』の著者・齊藤成人さんと空港ファンであるイラストレーターの綱本武雄のふたりが熱く語ります。入場無料(先着40名)です。

170713_img.jpgポプラ文庫ピュアフルの人気シリーズ、「ばんぱいやのパフェ屋さん」(佐々木禎子 著)の1巻が、コミックスになりました! 漫画はやぎさん、このたび新創刊したレーベル「アニメージュコミックスmiere」(発行:ティーダワークス 発売:徳間書店)にて、7月5日発売です。文庫もコミックスも、よろしくお願いいたします!

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『あざみ野高校女子送球部! 』(ポプラ文庫ピュアフル、680円+税)の刊行を記念して、小瀬木麻美さん トーク&サイン会を開催いたします。

場所 :リブロ港北東急SC店特設会場  日時 : 2017年7月16日(日) 午後2時~

参加特典として、小瀬木麻美さんが今回のイベントのために書き下ろした「『あざみ野高校女子送球部!』番外編」をもれなくプレゼント!センター南が舞台になった短編小説です。

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達人たちの仕事場にお邪魔したら、楽しい驚きがいっぱい。まさに大人の社会科見学!ふむふむ、へーと読んでいるうちに、むくむくとやる気が湧いてくるお仕事エッセイです。

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