才能の分岐点

おおたとしまさ

才能の分岐点

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プログラミング教室で伸びる意外な能力とは?(2)


プログラミング教室「LITALICOワンダー」取材記【後編】

→前編はこちらから


正解のない世の中を生きていくために

 リタリコワンダーの生徒数は現在約1500人。1つの教室に毎月100件を超える問い合わせがある。2016年夏の特別講習「サマーラボ」には1000人を超える参加者があった。プログラミング教室の盛況ぶりがうかがえる。
 教室長の木村弘樹さんに、プログラミング教室での指導を通して子供たちに伝えたいことを聞いた。
 「将来の天才プログラマーを養成しようとか、そういう目的ではないんです。プログラミングというと論理的思考力とかITノウハウとかそういう側面を想起されがちなのですが、それらはむしろ手段でしかありません。子供たちの中の創造力をかきたてることのほうが重要なんです。ロボットづくりやゲームづくりに正解はありません。子供1人1人の個性がそのまま形になります」
 「理系+アート」の習い事だと言える。
 ある小学校の図工の教師の言葉を思い出した。「算数や国語には正解があります。でも図工には正解がありません。自分が思ったことを形にする授業です。これからの正解がない世の中を生きていく子供たちには、図工はとても重要な科目だと思っています」。プログラミング教室も同様なのだ。
 「ITがあれば、自分の想像の世界を現実にできます。私が子供のころは勉強のできる子かスポーツの得意な子ばかりが注目されるような世の中だったような気がしますが、今はいろいろなタイプの子が、自分を表現できる世の中になってきているのかなと感じます」
 たとえば作文は苦手でもプログラミングならできる子もいるという。「自分の力でこんなものができた!」という喜びが自信に変わり、不登校をやめた子供もいる。教室に通い始めて2カ月足らずで「意思表示が苦手だった娘が自分の意思をはっきりと言ってくれるようになりました」と言う母親もいた。
 「課題感が強かった子が、変わるのを感じます」
 「課題感」とは、聞き慣れない表現だ。常に大人の期待に応えなければいけないと思ってしまっている子供のようなニュアンスで木村さんは使用している。
 現在のITブームやプログラミングブームの中で、「将来勝ち組になるために、英会話とプログラミングはやらせておかないと不安だから」という理由で子供を連れてくる保護者も当然いる。
 「そういう親の子は体験に来ても楽しんでいません。そういう子には『キミは本当はサッカーがしたいんじゃないか?だったらサッカーを思い切りやりなよ。それでいいんだよ』と伝えます。無理にプログラミングをやる必要なんてないんです。子供のやりたいことをやらせてあげてほしいんです。親の主観で子供の習い事を決めないでほしい。そのことを親御さんにも伝えます」


テキスト通りやらない子には「才能」がある

 リタリコワンダーでは指導者のことを「先生」とは呼ばない。あだ名で呼ぶ。ため口もOK。指導者は子供の上にいるのではなく、あくまでもサポート的立場に立つ。子供に課題を与えたり、正解を教えたりはしない。
 「リタリコワンダーの教室を子供たちにとってなんでもできる公園みたいな場所にしたいと思っています。授業の主軸は子供にあります。正解は子供の中にあります。だからプログラミング教室の指導者は完璧でなくていいんです」
 木村さん自身、工学系の出身ではあるがプロのプログラマーというわけではない。幼いころはピアノや習字、水泳などいろいろやらせてもらったが、好きにはなれず、どれもすぐにやめた。大学で工学系を学び、大学院まで進むものの、研究室の体質に向いていないと感じた。自分はモノと向き合うよりヒトと向き合うほうがいいとわかった。
 「単純に性能の高いモノをつくることに意味を見い出せなかったんです」
 日本の工業はたとえば「より小さな携帯電話」を発明することは得意だが、新しい発想の携帯電話そのものをつくることは苦手だ。より丈夫な繊維、より薄いディスプレイ、より軽いフレームなど、価値軸が決められたモノをつくることと、今までにない価値軸を創造することは似て非なる営みだ。木村さんは後者にこそ魅力を感じ、その魅力を子供たちに伝えたいと思っている。
 リタリコワンダーの出身者の中から、将来、優秀なプログラマーが輩出するかもしれない。より高性能なコンピューターを開発する人物が表れるかもしれない。しかし木村さんがそれより望むのは、全く新しい価値軸を世の中に提示できる人物が表れることなのである。
 「テキスト通りにやらない子、つい脱線してしまう子が大好きです。彼らには言われたとおりにやる才能ではなく、ゼロから1をつくる才能があるのです」


【教室情報】

LITALICOワンダー 横浜
所在地:神奈川県横浜市西区平沼1-38-2 咲久良ビル3F
電話:045-316-5073
ホームページ:https://wonder.litalico.jp
月謝目安
<ゲーム&アプリプログラミングコース>
月2回:10,000円(税込10,800円)
月4回:16,000円(税込17,280円)
<ロボットクリエイトコース・ロボットテクニカルコース・デジタルファブリケーションコース>
月2回:11,000円(税込11,880円)
月4回:18,000円(税込19,440円)


次回更新は12月28日予定!

Profile

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。上智大学英語学科卒業。リクルート入社後、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動をおこなう。心理カウンセラー、中高の教員免許を持ち、私立小学校の教員経験もある。著書に『男子御三家』(中公新書ラクレ)、『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『ルポ父親たちの葛藤』(PHPビジネス新書)などがある。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
  • i
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お知らせ

Cov_Kuko_R.jpg『最高の空港の歩き方』の刊行を記念してトークイベント「夏休み、空の玄関で逢いましょう。」を7月23日(日)にジュンク堂書店大阪本店で開催いたします。いま空港がアミューズメントパーク化しています。ご当地グルメ、空港限定グッズ、お風呂、空港アート、飛行機撮影、工場見学ーー飛行機に乗る人も、乗らない人も楽しめる「空の玄関」の遊び方と、その背景にある「進化の理由」を『最高の空港の歩き方』の著者・齊藤成人さんと空港ファンであるイラストレーターの綱本武雄のふたりが熱く語ります。入場無料(先着40名)です。

170713_img.jpgポプラ文庫ピュアフルの人気シリーズ、「ばんぱいやのパフェ屋さん」(佐々木禎子 著)の1巻が、コミックスになりました! 漫画はやぎさん、このたび新創刊したレーベル「アニメージュコミックスmiere」(発行:ティーダワークス 発売:徳間書店)にて、7月5日発売です。文庫もコミックスも、よろしくお願いいたします!

978-4-591-15498-4.jpgのサムネイル画像ポプラ文庫ピュアフル7月新刊『英国幻視の少年たち5 ブラッド・オーヴァ・ウォーター』発売を記念して、著者深沢仁さんから読者の皆さんに、抽選で、キーホルダーやコンパクトミラーなどの英国土産をプレゼントいたします。新刊オビの応募券にてご応募ください。詳細と英国旅行のミニレポートをこちらでご紹介しています。

『あざみ野高校女子送球部! 』(ポプラ文庫ピュアフル、680円+税)の刊行を記念して、小瀬木麻美さん トーク&サイン会を開催いたします。

場所 :リブロ港北東急SC店特設会場  日時 : 2017年7月16日(日) 午後2時~

参加特典として、小瀬木麻美さんが今回のイベントのために書き下ろした「『あざみ野高校女子送球部!』番外編」をもれなくプレゼント!センター南が舞台になった短編小説です。

Cov_shigotoba_R.jpg佐藤ジュンコさんのコミックエッセイ『仕事場のちょっと奥までよろしいですか?』が刊行になりました。作家・伊坂幸太郎さん、漫画家・いがらしみきおさんから伝統工芸の職人さんまで「作ること」のプロ15名の仕事術をイラストでルポ!

達人たちの仕事場にお邪魔したら、楽しい驚きがいっぱい。まさに大人の社会科見学!ふむふむ、へーと読んでいるうちに、むくむくとやる気が湧いてくるお仕事エッセイです。

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