才能の分岐点

おおたとしまさ

才能の分岐点

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個性と社会性の両方を育むストリートダンス(2)


ダンススクール「ANGELO★」取材記【後編】

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自己表現だけでなく社会性も身につく

 アンジェロ大倉山校の小学生初級クラスを覗いた。「先生」は高橋晋さん。長髪をちょんまげに結い、ひげも生やしっぱなしという感じ。レゲエ風あるいはヒッピー風のなかなか強烈な風貌だが、レッスン中は「いいね!」「いいね!」と子供たちへの励ましと、笑顔を絶やさない。ステップを間違えても決して叱らない。うまくできたらまた「いいね!」と褒める。子供たちも自然に乗せられていく。レッスンが楽しいわけだ。
 高橋さんは1978年生まれ。子供のころはもちろんストリートダンスの教室なんてなかった。中学生のころテレビで見たダンスユニット「ZOO」や「高校生ダンス甲子園」に憧れ、見よう見まねでダンスを始めた。高校卒業後、アルバイトをしながらダンスの学校に通った。
 その後、昼間は別の仕事をしながらダンスを踊る二足のわらじを続けていたが、2011年震災を経験したことでダンスのインストラクターに専念することを決意。自宅の1階をダンススタジオに改装し、「Zutto Dance Studio」を開く。その後アンジェロとのコラボレーションが始まった。
 子供向けのダンス教室として大切にしていることは何か。
 「あいさつをきちんとすること。きちんと人の目を見てコミュニケーションを取ることです。僕を見てもわかるように、この業界はこんな見た目の人が多いじゃないですか。どうしても"ゆるく"見られてしまうんです。実際に世間の常識からはちょっとズレている人も多い(笑)。だからこそ、礼儀はしっかりとして、まずは僕たち指導者が子供の手本になるようにということは、教室の中で先生同士でよく話し合います」
 ダンスを通して子供たちに何を伝えたいか。
 「ダンスがうまくなることよりも、生活の中のストレスを取ってあげられるといいなという気持ちが強いです。ただし1人1人ダンスの才能も好きな度合いも違います。それぞれの子がそれぞれの心の中でダンスをどのように位置づけているのかをこちらがしっかり読み取って、それぞれの子供にとってダンスを生活の大切な一部にできればいいなと考えています」
 今の子供たちは「あれをしなさい」「これをしなさい」「あれはしてはダメ」「このほうがいい」と常に何かを押しつけられている。そんな毎日の中で、せめてダンスしている間だけでも自分の思ったとおりに振る舞える時間にしてあげたいと願っているのだ。
 習い事としてのダンスで得られるものは何か。
 「日常的に音楽と触れ合うことで、生活のアクセントになると思います。生活の中に音楽は必要だと思うんです。それから、協調性。ダンスはみんなで作り上げるものですから」
 人間は音楽を発明したことで社会性を獲得したのではないかという説もある。ストリートダンスは、まずはありのままの自分を自由に表現する手段となるが、レベルが上がるとお互いの個性を認め、融合させ、社会性を育む手段にもなるのだ。


本人が選んだストレスなら子供は乗り越えられる

 ストリートダンスを一般の子供たちに教える教室ができはじめたのはこの10年くらいのこと。バレエ教室やピアノ教室などと違って子供への指導法が確立していない。
 「もともとストリートダンスは自由なものです。こうしなくちゃいけないという枠組みがありません。でも最近の子供向けダンス教室の中にはコンテストで勝たせることや高度な技を覚えさせることを目的としている教室も多いようです。それでは本当のストリートダンスではないでしょう。うちでもコンテストやバトルはやりますが、競争にとらわれすぎるのは危険ですね。ダンスは下手でもいいんです。楽しければ」
 高橋さんはストリートダンスの本質を、「ありのままの自分の解放」と表現する。それなのに、大人が子供に「これが正解」という価値観を与えるのは本末転倒だというのだ。
 だからこそ、チームレッスンをやるのであれば、自分で考えてアウトプットできるように促す。教えてもらうのを待っているだけではダメなのだ。そのために、相手が子供でもどんどん負荷をかける。自分の中の欲求に気づき、それをどうやって表現するのか、自分自身で考えさせる。
 「ダンスをもっとうまくなりたいと思ってする厳しい練習の中で感じるストレスは、本人が選んだストレスですから、子供は乗り越えられるんです。お父さん、お母さん方は口を出さず、子供を信じてとにかく見守っていてほしい」


ダンス教室選びでは保護者同士の雰囲気をチェック

 レッスン中のスタジオのガラス越しには、たくさんの母親たちがそれぞれにわが子のダンスを見守っていた。
 「センターに抜擢された生徒の保護者を仲間はずれにしたり、ライバルの子供の演技を露骨にけなしたりということも、ほかの教室ではときどき起きているようです」とアンジェロ校長(代表)の荻野泰志さんは言う。
 芸能界の子役のステージママの心境に近いのだろうか。保護者同士の和が乱れてしまうことがあるというのだ。
 「そういう雰囲気を嫌った親子がほかの教室からアンジェロに流れてくるケースが最近は増えています。最近はダンスをやる子供が増えていますから、トラブルも増えているのでしょう。ダンス教室においてはスタジオの中だけでなく、スタジオの外での保護者のケアが実は非常に大切です」と荻野さん。
 その点、アンジェロの各スタジオにはダンスの「先生」だけでなくマネージャ的な役割を果たす「スタッフ」が必ずいる。先生だけでなくスタッフが日常的に生徒や保護者と会話を交わし、スタジオ全体の雰囲気をつくっている。
 複数の大人の目があることで、子供のがんばりを多面的にとらえることができる。先生に注意されて落ち込んでいる子供をスタッフが励ますこともある。また、保護者が相談したときに、ある先生とは意見が合わなくても別のスタッフには理解してもらえたという安心感があれば、教室との関係性は崩れない。逆に1人の先生が絶対的な価値観をもって対応すると、それを理解できない生徒や保護者は居場所を失い離れていくだろう。
 習い事の教室では、「先生」が絶対的な立場に君臨しがちだ。先生との相性が良く、信頼関係が強固ならそれでも問題がない。しかし長期間にわたり習い事を続ければ、特にほかの子供たちとの競争が発生するような習い事である場合は、ちょっとしたことで先生との信頼関係が揺らぐこともある。そんなとき、教室に複数の大人の目があれば、余計なストレスを抱え込まなくてすむ。
 教室に複数の大人の目があるかどうか。習い事を選ぶときにはそんな観点も考慮したほうがいいかもしれない。



ダンススクールANGELO★ 大倉山校
所在地:横浜市港北区大倉山3-3-17 (Zutto Dance Studio内)
電話:03-3725-9341(自由が丘本校)
ホームページ:http://www.angelo123.com
月謝目安:週1回コース8000円、受け放題コース2万1600円など



次回更新は2月8日の予定!



Profile

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。上智大学英語学科卒業。リクルート入社後、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動をおこなう。心理カウンセラー、中高の教員免許を持ち、私立小学校の教員経験もある。著書に『男子御三家』(中公新書ラクレ)、『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『ルポ父親たちの葛藤』(PHPビジネス新書)などがある。

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