才能の分岐点

おおたとしまさ

才能の分岐点

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ボクシングで得られる一生の財産(2)


キックボクシングジム「テッサイ」取材記【後編】

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厳しいけれど型にはまりすぎていない

 昇級審査を終えたばかりの平井哲夫君(仮)とその両親に話を聞いた。幼稚園の年中のころ、月2回の親子クラスに、母親と一緒に通い始めた。
 哲夫君はテッサイジムに通い始めてもう4年目。現在はキッズクラスに所属している。キッズクラスは月~金の17時~18時。月謝は6000円で、レッスンは受け放題。哲夫君は毎週3~4回ジムに通う。送り迎えは主に母親の担当だが、母親も働いている。しかも哲夫君の妹はまだ保育園に通っている。仕事を終えると、保育園のお迎え、ジムの送り迎えでてんてこ舞いの毎日だ。
 「実は息子には軽い発達障害があります。集団行動が苦手で体力的にも同年代のお友達には劣ります。ですから個人競技で少人数指導を受けられる習い事がいいだろうと考えて、現在はキックボクシングと水泳を習っています。発達障害のことはジムの会長にも伝えています。それを踏まえたうえで、ほかの子供たちと同じように指導してくれるのでありがたいです」と父親。
 バレエ教室を体験したこともあったが、本人が嫌がったので入会はしなかった。体力づくりのためにスポーツクラブの体操クラブに通わせたこともあったがしっくりこなくて半年でやめた。たまたま近所にキックボクシングジムがあることを知り、入会してみたらこれがはまった。厳しいけれど型にはまりすぎていないところが哲夫君にあっていたのではないかと両親は分析している。
 「ジムに通うようになって礼儀は身についたと思います。姿勢も良くなりました。基礎体力もだいぶ付いたと感じます。そして何より、打たれ強くなりました」と、父親はキックボクシングを通じて成長する息子を讃える。ジムの会長である小磯さんに対しては、「彼は人格者。そのままでいいと、ありのままの息子を受け入れてくれます。褒めるところ、叱るところのメリハリもわかりやすい」と絶対の信頼を寄せる。それどころか、今や父親自身も週1回のジム通いを始めたほどだ。


子供は「かっこいい大人」の背中を見て育つ

 「前回の交流試合では、哲夫は『怖い』と言って結局試合に出ませんでした。親としてはちょっと残念ですけど、しかたがないかなと思っていました。しかし、会長の試合を見てから、息子が『試合に出る』と言い出したんです」
 小磯さんが選手として出場する試合会場には、ジムに通う生徒やその保護者が多数応援に駆けつけていた。延長の末、見事勝利。最後まで諦めない気迫が、ジムに通う生徒たちの胸を熱くした。平井さん夫婦も、感動で涙が止まらなかったいう。その気迫が、哲夫君の勇気を奮い起こしたのだった。
 そのあとのキッズクラスの交流試合に、哲夫君は出場した。倒れても立ち上がり、試合終了のゴングが鳴るまで前に出続けた。結果は負け。しかし平井さん夫婦はキックボクシングをやらせて良かったと心の底から思えたと言う。
 「会長の背中を見て、息子は育っているんだと思います」と夫婦は口を揃える。
 会長も言う。「一度決めて入ったからには一定期間は続けさせてほしい。どんな習い事でも心が折れそうになるときはくるでしょう。でも、そこでやめてしまったら成長できません。挫折を乗り越える段階までは続けさせてほしいんです。それが習い事をやる意味だと思うんです」。
 パンチ力やキック力はキックボクシングジムで鍛えられる力のごく一部でしかない。商店街の雑居ビルの地下にある小さなジムで育っていたのは、不屈の精神だった。哲夫君が将来別のスポーツをやるにしても、勉学に励むにしても、人生の困難に立ち向かうにしても、それが彼を支える財産になるのだろう。

キックボクシングジム・テッサイ
所在地:東京都世田谷区豪徳寺1-22-5-B1
電話:090-6145-1380
ホームページ:http://tessaigym.sakura.ne.jp/index.htm
月謝目安:キッズクラス6000円(週4回まで受け放題)


「才能の分岐点」は今回が最終回となります! 

この連載は『「習い事」狂騒曲』(ポプラ新書)として、3月10日発売で本になります。

どうぞ、ご期待ください!

Profile

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。上智大学英語学科卒業。リクルート入社後、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動をおこなう。心理カウンセラー、中高の教員免許を持ち、私立小学校の教員経験もある。著書に『男子御三家』(中公新書ラクレ)、『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『ルポ父親たちの葛藤』(PHPビジネス新書)などがある。

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