才能の分岐点

おおたとしまさ

才能の分岐点

9

個性と社会性の両方を育むストリートダンス(1)


ダンススクール「ANGELO★」取材記【前編】

「趣味」で終わるのか、才能を開花させ「プロ」の道を歩むのか――。教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏が、「才能の分岐点」と題して、「習い事」と「才能」の関係について探っていきます。今回は、すでに中学校の体育で必修となっているダンスがテーマ。テレビの人気番組「ダンス甲子園」世代が親となり、ヒップホップやハウスミュージックに合わせて踊るストリートダンス教室にわが子を通わせる保護者が増えている。なぜ今、ストリートダンスなのか。親と指導者に聞きました。


中学校の体育でダンスが必修化されている

 2012年度から中学校の体育で武道とダンスが必修化されている。文部科学省によれば、ダンスには「イメージをとらえた表現や踊りを通した交流を通して仲間とのコミュニケーションを豊かにすることを重視する運動で、仲間とともに感じを込めて踊ったり、イメージをとらえて自己を表現したりすることに楽しさや喜びを味わうことのできる」効果がある。
 「ダンス」の授業は「創作ダンス」「フォークダンス」「現代的なリズムのダンス」から構成される。「現代的なリズムのダンス」とは、「ロックやヒップホップに合わせて踊るダンス」のこと。
 そんな時代を予見して、ダンススクール「Angelo★(以下、アンジェロ)」は2008年にオープンした。はじめは東京・自由が丘のレンタルスペースを借りての営業だったが、生徒数はみるみる増えた。今ではキッズの生徒は約300人。大人の生徒もいるが大半は保護者。もともと子供向けダンス教室としてオープンし、あとから保護者向けのレッスンも開始した経緯がある。現在東京、神奈川に4教室を運営する。
 アンジェロで教えるダンスのジャンルは、ヒップホップやハウスミュージック、ファンクミュージックなどに合わせて踊る「ストリートダンス」。まさに文科省の言うところの「現代的なリズムのダンス」である。EXILE(エグザイル)をイメージすればわかりやすいだろう。アップテンポな音楽に合わせて、変幻自在に体をくねらせステップを踏む。奇抜なファッション性も魅力の一部だ。


ダンスがあれば世界中で自分を表現できる

 小櫻温子さんの長女の優希ちゃんは5歳からアンジェロに通い始めた。もともとエグザイルや安室奈美恵が好きな温子さんが勧めた。「学校とは違う世界で、何か1つ身になるもの、一生できるものをやらせてあげたい。ダンスなら世界中どこに行っても人を感動させることができる」というのが温子さんの思いだった。
 現在優希ちゃんは9歳。週5回、通常のレッスンを受けるほか、週末には「チームレッスン」にも参加している。つまりほぼ毎日、ダンス漬け。毎日家での自主練も欠かさない。
 チームレッスンとは、コンテストへの出場を目指す5人くらいのチームで、「作品」としてのダンスを磨き上げていく約1年がかりのプロジェクト。ある程度の技術と覚悟がないと参加することはできない。
 優希ちゃんに聞いた。ダンスの何が楽しいのか。
 「1つの作品ができあがったとき、1対1のダンスバトルで勝利したとき、どんどん新しい踊りが踊れるようになっていくときにダンスの楽しさを感じる」
 「ダンスバトル」とは、DJがかけた音楽に合わせて即興で踊り、どちらのダンスが優れているかを競い合う競技のことである。
 ただし、ただ楽しいだけではない。コンテストやダンスバトルでは緊張が7割、楽しさが3割。そのプレッシャーに打ち勝ち、やりきったときにこそ、ダンスをやっていて良かったと感じるのだそうだ。逆につらいのはどんなときか。
 「練習をサボってしまったがためにちゃんと踊れていない自分に気づいたとき」
 ストリートダンスは、バレエや日本舞踊などの伝統的な踊りに比べると、格段に自由奔放で気楽な印象がある。しかし実は、自分との戦いの連続なのだ。


まずは慶應大学に入ることが目標

 プロのダンサーになる夢がないわけではないが、ダンサーになるにしても大学は出ておくようにというが家庭の方針。優希ちゃんも納得している。三代目J Soul Brothersの岩田剛典が慶應大学のダンスサークル出身だと知って、優希ちゃんは慶應大学進学を今から志している。そのために小学校3年生になってから中学受験塾サピックスにも通い始めた。
 もともとは中学受験などさせないつもりだったが、何にでも真剣に打ち込む優希ちゃんの姿を見て、温子さん自身の意識が変わった。「親のせいでこの子の可能性を潰してはいけない」と感じ、娘の可能性を広げるために中学受験も「いっしょにやろう」と決めた。
 現在ダンスと中学受験塾のほかに、ピアノ、英会話にも通っている。それぞれのことをやるときはそれぞれのことに集中するようにうまく仕向けるのが親の役割だと温子さんは言う。しかし温子さん自身「休みがない......」と本音を漏らす。親子バトルが始まってしまうこともしばしばだ。
 優希ちゃん自身もときどき塾の勉強とのバランスに困難を感じることはある。父親は「そんなに大変ならダンス減らしたら?」と提案するが、優希ちゃんは「それは絶対に嫌だ」と譲らない。優希ちゃんのダンスに対する情熱には父親も圧倒されるばかりだ。次女の真緒ちゃんもお姉ちゃんを見てダンスを始めた。
 「夢中になれることを見つけると、子供はすべてが変わるんですね。子供の夢中を支えるためには親としても子供と徹底的に向き合わなければいけません。向き合えば向き合うほど親も子もしんどくなります。でもそうやって親も人として成長させてもらっているんだなと感じます」と温子さん。
 遊園地に連れて行って「楽しい思い」を感じることは簡単だ。しかし温子さんは「頑張ったからこそ感じられる楽しさ」を知ってほしいと望んでいるのだ。

※後編公開予定は1/21(水)




Profile

おおたとしまさ

育児・教育ジャーナリスト。1973年東京生まれ。麻布中学・高校卒業。上智大学英語学科卒業。リクルート入社後、2005年に独立。育児・教育に関する執筆・講演活動をおこなう。心理カウンセラー、中高の教員免許を持ち、私立小学校の教員経験もある。著書に『男子御三家』(中公新書ラクレ)、『名門校とは何か?』(朝日新書)、『ルポ塾歴社会』(幻冬舎新書)、『ルポ父親たちの葛藤』(PHPビジネス新書)などがある。

Pick Up Book

  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ
  • ムーとたすく

Pick Up Book

  • i
  • 私のスポットライト
  • ビオレタ
  • ムーとたすく