たいわんの本屋

田中美帆

たいわんの本屋

小小書房

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世界から注目を集める台湾の美しい本屋

 こんにちは。台湾在住ライターの田中美帆です。

 台湾に暮らすようになって3年弱、本屋へ足を運ぶうちに、日本とは違った本の風景に気づいていきました。中でも書店に行って、これは違うなあと感じたのは、判型の種類とカバーデザインの豊富なことです。

 日本の出版社で編集者として働いていた頃、同じジャンルの本とは違う大きさの本を企画したことがあります。出版を決める社内の会議で、書店営業の担当者から「書店さんに置いてもらえなくてもいいんですか。類似の書籍と判型をそろえてください」と言われ、泣く泣くあきらめたことがありました。

 確かに、本屋の棚に並んだ本の背がピシーッとしている様子は見ていて気持ちのよいものです。けれども、台湾の自由度の高さを見るにつけ、本にとってどちらが幸せなのだろう、とも感じるのです。本の大きさは、中身によるのではないだろうか、と。

 台湾には、判型の大きな本を惜しげもなく平置きにしている本屋があります。それが今回ご紹介する「好様本事(ハオヤンベンシ)VVG Something」です。


 トレンド発信地の緑あふれる路地

 台北の東西をつらぬく大通りの一つに「市民大道」があります。日本が台湾を統治していた時代には鉄道だったそうですが、70年以上経った今は高架が並行して走る大通りになっています。その通りを一本南側に入った一角に、ひときわ緑の多い路地があります。「東区」と呼ばれる一帯は、台湾の人が書いたガイドブックで「最新トレンドの発信地」と紹介されていて、東京で言うなれば渋谷や表参道、でしょうか。

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 5月の終わり、その路地はフラッグガーランドで彩られ、お祭りの賑わいを見せていました。今回ご紹介する好様本事の姉妹店である、セレクトショップ「好様自慢(ハオヤンズィマン)VVG Pride」がすぐ隣にオープンしたのです。そう、好様本事は、それ単体の本屋さんではありません。この路地を中心に、レストラン、本屋、ショップ、ホテル、最近では図書館など、さまざまな業態の店舗をナント10店(!)展開しています。

 それにしても、台湾は地価や不動産価格が高騰していて、下手すると東京よりも高いのです。いくら系列店だからといって、向かいや隣に展開するアイデアがすでに斬新! 
 一体どういうわけなのでしょう? この問いに、取材を受けてくださった広報担当の蕭奕方(シャオ・イーファン)さんが答えてくれました。

「台湾の不動産オーナーの中には、海外に居を移していて、台北に住んでいない人がいます。空室にするのもなんだから、何かに利用してもらえないか、という人は多いのです」

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 建物は人が利用していないと傷みも早いといいます。利用してもらいたい人と利用したい人がいるのはお互いに願ったり叶ったり、ということなのでしょう。思いもかけぬ答えでしたが、これもまた台湾事情の一端といえますね。


 本と生活雑貨が心地よく並ぶ

「忠孝東路四段181巷40弄」という住所表示に従い、注意深く路地を歩いていくと、通りから数段分あがった位置に、真っ赤な扉を見つけます。この、レトロな引き戸が好様本事への入り口です。

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 好様の系列店すべてに冠されている「好様」とは日本語にすると「好きなモノ」という意味があります。好様本事であれば、「本事」は「腕前、実力」を表す中国語ですので、つまりは「好きなものパワー」。言ってみれば、好きな気持ちを本屋というかたちにした空間なのです。

 店内は決して広いわけではありません。でも、なぜかとても心地いいのです。まず目を引くのは、お店の中央に伸びる長い机。左右には壁に沿いながら素材も高さも棚数も異なる整理棚が置かれ、本と文房具、生活雑貨がバランスよく整えられています。種類の異なるものをたくさん置こうとすると、どうしてもごちゃごちゃ感が出てしまうものですが、ここではむしろ、見たことのない宝箱を開けたような、ヒミツの屋根裏部屋に入ったような。ちょっとだけ、本屋と言い切るのがためらわれるような。その印象を伝えると、奕方さんは言いました。

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「雑貨が多いのではないかと言われますが、実際は本が8割、生活雑貨2割です。ノートやカードは、同じものが複数ありますが、本は一つのタイトルが何冊もあるわけではありません。むしろ、違う本がたくさんあります。ですから、種類の数でいうと、生活雑貨よりも本のほうが圧倒的に多いんですよ」

 へえ、そう言われてみると、中央の机に平置きにされた本は、まるで違う本が重ねられているではありませんか。日本でこんな棚を見たことはありません。こうした本屋さんはどのようにして生まれたのでしょうか。


 理想は「読書文化を育てること」

 奕方さんが広報担当になってからは1年ほど。これまでレストランやほかの店舗での勤務も含めて「一つの会社とは思えないほど、たくさんの経験をしてきました」と言いながら、本屋の始まりを教えてくれました。

「好様は1999年、この本屋の向かいにあるレストランから始まりました。歩いて10分ほどの場所に、24時間営業で有名な誠品書店敦化南路店があるのはご存じですか。終業後の誠品では、仕事帰りの同僚に遭遇する確率がすごく高かったんです。そんなに本好きなスタッフが多いなら本屋をやろう、と始めることになりました」

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 好様オーナーである汪麗琴(ワン・リンチン)さんが「好様本事」をオープンしたのは2009年のことです。折しも2008年のリーマン・ショックで世界経済が大きく落ち込んでいた時期でした。

「だからといってみんなで落ち込むのではなく、いい本に触れて少しでも気持ちよく過ごす場所を作りたい、と考えたのです。いちばんの理想は、台湾の読書文化を育てること。パソコンやスマホの便利さと引き換えにするようにして、本に触れる人は少なくなりました。だからこそ、今の時代に大事なのは、本を読み、ページをめくる楽しさをどう伝えるか。本屋をやろうと決意したのは、そんなふうに考えたからです」

 実際、ここにある本は、なぜかふと開いてみたくなる本が多いのです。

「うちでは写真集や画集など、アート系の本を置くようにしています。文学系の書籍は大手の本屋さんにもあり、インターネットで目次を簡単に見ることもできます。けれども、写真集や画集は、そのデザインや紙の質感など、実際にめくってみて初めて感じるものがありますからね」

 判型が大きいだけでなく、海外の本が多く目につきます。尋ねてみると、海外旅行の大好きな麗琴さんが直接買い付けて、台湾に持ち帰るのだとか。ちなみに、店内の棚も、ヨーロッパで買ってきたアンティークの書棚なのだそう。

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 作り手と読者を結ぶ接点として

 実はこの好様本事、台湾だけでなく世界でも知られています。2013年に発表されたアメリカのサイトFlavorwire.comで「世界で最も美しい書店20」にランクインしたのです。イギリスのガーディアン紙もトップ10と認めたオランダのブックハンデル・ドミニカネン、世界遺産の一角で世界最古ともいわれるポルトガルのレロ・イ・イルマオン、そして東京の代官山蔦屋などと並んで選ばれたのです。「理想的な船のキャビンのよう」と評されたニュースが、大きな話題となりました。

 その〝キャビン〟では最近、日本の廣田硝子(ひろたがらす)の製品を紹介するイベントが行われました。本周りの作り手だけでなく、生活雑貨の作り手とイベントやワークショップを行うのも、好様では頻繁にある取り組みです。そんなふうにイベントや作品の展示会を開催するのには、大きな理由がありました。

「ワークショップやイベントがなければ、お客さんにとってはきっと味気がないと思います。イベントがあるからこそ『あ、行ってみようかな』と思ってもらえる。店頭イベントを積極的に行う動きは台湾の独立書店に多いですし、イベントを通じてお客様との関係を保ち、常に新鮮に感じていただきたいですね」

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 売れているのは台湾の妖怪本

 さて、お店でこのところ売れている本を教えていただきました。

「お店には、海外からの観光客の方がよくお見えになります。少し前にテレビ番組で紹介されたからなのかもしれませんが、日本からのお客様も多いですよ。つい先日も、ご夫婦でお見えになったお客様がこれを買っていかれました」

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 そう言って、出してくださった本のタイトルは『臺灣妖怪研究室報告』(意味:台湾の妖怪研究室リポート)という3冊セット箱入りで台湾ドル500元のものでした。た、台湾にも妖怪がいるんですね! 出すとすぐに売れてしまうほど人気なのだとか。確かに見ているだけでおもしろい!

 好様本事で本と雑貨の世界旅を終えたら、向かいのレストランでひと休みはいかがでしょうか。取材の当日、35度を超えた台北でいただいたのは、冷たいフルーツティー(酸香果粒茶、180元)とバルサミコ酢入りのチェリーソーダ(櫻桃蘇打和陳年黑酒醋、220元)。さっぱりしてからお出かけになれますよ。

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【お店データ】
好樣本事(ハオヤンベンシ)VVG Something
住所/台北市忠孝東路四段181巷40弄13号
営業時間/12:00〜21:00
URL/ http://vvgvvg.blogspot.tw/

Profile

田中美帆

1973年生まれ。台湾在住のフリーランスライター。上阪徹のブックライター塾3期生。人生後半を自分のために使おうと、2013年に長年勤めた出版社を退社。念願だった中国語を学ぶため台湾に語学留学。1年で帰国の予定が、ホームステイ先で紹介された相手と2014年に国際結婚。現在は”台湾を書いて伝える”ことをなりわいとしている。

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達人たちの仕事場にお邪魔したら、楽しい驚きがいっぱい。まさに大人の社会科見学!ふむふむ、へーと読んでいるうちに、むくむくとやる気が湧いてくるお仕事エッセイです。

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