たいわんの本屋

田中美帆

たいわんの本屋

小小書房

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絵本が開く世界への扉

 こんにちは。台湾在住歴3年、ライターの田中美帆です。

 突然ですが、子どもの頃、読んでいた本を覚えていますか。アラフォーも後半の部に突入した私の場合、絵本、昔話、伝記、探偵ものなど。とりわけ印象深いのは、赤毛のアンやシャーロック・ホームズ、そして三国志と、すべて海外作品です。

 世界の名作に触れる機会は、もしかしたら今よりも多かったかもしれません。ちょうど「世界の名作劇場」というテレビシリーズを始め、さまざまな作品がアニメ化されて大きなヒットを飛ばした時期でした。そのため、どれもテレビのあと追いで本を読んでいったのですが、とにかくアンやホームズにのめり込んだのはよいアニメ作品にたくさん触れられたことが影響していると感じます。

 さて、今回ご紹介するのは、台湾の子どもたちに海外の絵本を提供する本屋さん、「JFK絵本屋(フォイベンウ)」です。


 楽しみながら読む時間

 MRT双連駅と民権西路駅の間には台北市民に親しまれる廟と朝市があります。数百メートルほどの路地には、露店がひしめき合い、連日、買い物客や観光客で活気にあふれます。東京で言えば浅草寺や明治神宮の近くの路地でしょうか。

 その通りの反対側に、今回訪ねるJFK絵本屋はあります。双連駅を出て西に向かい、セブンイレブンの角を曲がって、立ち並ぶ食べ物屋さんを横目に通りすぎ、5本めの路地で丸い看板を見つけました。

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 取材に伺ったのは6月初め。この日は、オーナーのFebieさんの読み聞かせレッスンに参加する小さなお客さんたちが次々とやってきました。教室に入ってきた子どもに向かって、まずFebieさんが英語であいさつします。そして7人のお子さんたち全員がお母さんと一緒に手洗いとトイレを済ませたところで、レッスンが始まりました。

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 レッスンは、この時期にちなんだ絵本とアクティビティで組み立てられていました。台湾では旧暦の暦で日常が営まれます。そのため、端午の節句といえば台湾の端午節6月のイベント。そしての端午節の代名詞といえば、ちまきとドラゴンボートレースです。まずボートをテーマにした絵本『Row, Row, Row Your Boat』(David Ellwand著)を読んだあと、Febieさんが同名の曲をゆっくりゆっくり歌います。

「♪Row, row, row your boat, gently down the stream.
  Merrily, merrily, merrily, merrily, life is but a dream〜♪」

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 みんなで歌った後で読んだのは『Boat Works』(Tom Slaughter著)。ページがどんどん拡大していく様子に、子どもたちは身を乗り出していきます。そして最後に『PIRATE PETE』(Nick Sharratt著)を読みました。合間には、ちまきを模した小さなクッションをひもに結びつける速さを親子対抗で競ったり、紙とひもでちまきを作ったりとアクティビティもふんだんに盛り込まれ、あっという間に1時間が終了しました。いやはや、3歳前後の子どもたちを1時間も飽きさせないってすごい!

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 レッスンは有料で、親子ペアなら1回500元(1500円ほど)で参加できます。レッスン後の店内では、親子で絵本をじっくり吟味したり、お子さんが「これがいい!」とおねだりしたり、そうして何冊も買っていく姿が見られました。


 絵本屋ができるまで

 それにしても教室と書店が一緒になった本屋さん。どのようにしてできたのでしょうか。レッスンを終えたFebieさんにお話を伺いました。

「最初から書店をやるつもりがあったわけではありませんでした。主人も私も教育分野の仕事に携わっていたのですが、以前からふたりの間では年を取ったら社会学系の本とか絵本とかを売るようなお店をやりたいね、と話していたんです。そこへある時、主人が私にこう聞いてきたんです。

 『本屋さんをやらないかい?』
 『え、プレゼントしてくれるの?』
 『君に試す気があるのなら』
 『本気で言ってるの?』
 『もちろん本気だよ』
 『じゃあ、やってみたい!』

 当時、彼の友人である周奕成(ジョウイーチェン)さんが迪化街(ディーファージエ)の再開発に乗り出していました。大学などでプロダクトデザインを教えていた主人は、周さんに請われてアドバイザーを務めていたのです。そのプロジェクトの中で、歩いていた古い建築物の中に、とてもいい空間がありました。そこで、その場所を本屋にしてみようじゃないか、となったんです」

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 そうしてFebieさん夫妻が最初に本屋を開いたのは、台北市内の西側にある迪化街でした。ここは、古くからある問屋街として知られています。今でこそ若手デザイナーがあちこちに出店するおしゃれ空間へと変わりつつありますが、2004年当時は、市内の東側にできたアジア最高峰のタワー「台北101」にすっかり客足を奪われ、街は閑古鳥が鳴く状態だったのだとか。そこをなんとかしようと立ち上がったのが周さんたちでした。

 ではオープン予定の本屋で読み聞かせをする、という発想はどんなふうにして生まれたのでしょうか。

「もともと私の夢は先生になることで、お店を開く前は、毎週末、英語による読み聞かせの講師として台北市内にある書店をあちこち回っていました。毎回、読み聞かせに行く時は、『屋台でもやるの?』と言われるほど大きなスーツケースを持ち歩いていたんです。先ほどのように、レッスンには小道具をたくさん使いますからね。あんまり重くて、一時期、手にしびれが出てしまったくらいです。でも、こうして固定の場所ができて、重い思いをしなくて済むようになりました。今の店に移転したのは1年前です。というのも、迪化街の店は建物の3階で、エレベーターがありませんでした。レッスンに来る子どもたちの年齢で階段を上り下りするのは大変なことです。それで主人の実家であるここを改装して移転してきました」

 お客さんは、前の店舗だけでなく、Febieさんの読み聞かせ講師時代からのお子さんのご兄弟もいるのだとか。「お店に来る方も、ご近所にお住まいというより、口コミでいらっしゃる方が多いですね」とFebieさんは言います。

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 言語力より世界観をはぐくむ

 本屋を開くまでのエピソードを伺いながら、ふと疑問に思ったことがありました。それはFebieさんの英語力はどこで身につけたのか、ということでした。訊ねると、こんな答えが返ってきました。

「台湾ではその昔、カナダやオーストラリアなど、海外への移民がブームになった時期があります。私も小さい頃に両親に連れられ、ニュージーランドで育ちました。ただ、移民したものの、両親は英語ができませんでしたので、家では中国語を、学校では英語を使う生活をしていました。台湾には、20代で就職する段階で戻ってきたんです」

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 こうした自身の体験も今の店づくりに影響している、と言います。セレクトされる本の大半は英語のもの、日本語のものも2割ほど。たいていはお客さんや親御さん、そしてスタッフの意見を聞きながら選書しています。

「基本的には、季節やレッスンに来る子どもたちの年齢を考慮しながら選んでいきます。ただ、スタッフ自身が好きな作品であれば『あ、××さん、この絵本はお宅のお子さんにぴったりだと思いますよ』とおすすめできますよね。開店当初は日本の絵本の比率はもっと高かったのですが、いかんせん台湾で日本語を解する方が少ない上に、相場に比べると非常に高いんです。英語の絵本が300元前後とすると、日本語の絵本は確実に300元後半から500元してしまう。そうなると、手の出しようがないんですよね」

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 そうやって、外国語の絵本を中心に展開していることにも、大きな理由がありました。

「小さい頃から外国語を習うことが母語に良くない影響を与えるという人もいますが、私自身はそうは考えていません。たとえば去年、同じ時期にやった読み聞かせのレッスンでは、船をテーマに、中国語、日本語、英語と3冊の絵本を選びました。絵がありますから、子どもたちも内容は理解できますし、ユーモアの違いもわかります。そうやって、絵本を通じて世界を知ることが重要だと思っています。うちの息子も今、日本語を勉強しているんですよ」


 バラエティに富んだ売れ筋

 ところで、売れ筋を訊ねると、3冊のタイトルをあげてくださいました。『我的弟弟跟你換 THE SWAP』(Jan Ormerod著、朱恩伶訳、オーストラリア)、『ノラネコぐんだん おすしやさん』(工藤ノリコ著、日本)、そしてレッスンでも登場した『PIRATE PETE』(Nick Sharratt著、イギリス)です。

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「最初の本は、下の兄弟が生まれた上の子の嫉妬をテーマにしています。なんかかわいいんですよね。次にこの工藤さんのシリーズ、大人気ですね。台湾人はお寿司が好きですからね。台湾にも寿司はあるのですが、やはり英語の絵本にはなかなか登場しません。レッスンでは小物を使ったゲームもできるので、私もとても気に入っています。今日のレッスンでも使ったイギリスの絵本は、子どもたちが自分でイラストを動かせるのがいいです。何度も使っていますが、いつも人気ですね」

 この時、Febieさんの本の内容を紹介する語り口調に、私まで引き込まれていました。レッスンの後、何人ものお母さん方が絵本を何冊も抱えてレジに向かったのも、大きくうなずけることでした。

 ちなみにこの日、「明日は台中に教えに行くの」と大きなスーツケースを取り出していました。読み聞かせの技術を身につけたい人たちにノウハウを教える講座も持っているのだとか。確かに、Febieさんならいろいろな秘訣を知っていそうです。


 台湾の、あのフルーツをたっぷりと

 取材を終え、近所においしいお店がないかFebieさんに訊ねてみました。「それなら」と推薦いただいたのは、冰讚(ビンザン)というかき氷のお店です。このお店、実は一番人気のメニューであるマンゴーが採れる夏場しかオープンしません。看板にもはっきりと「4月の中ごろから10月の終わりまで」と日本語で(!)書かれています。

 さっそく人気メニュー「芒果雪花冰(マンゴーふわふわ氷)」を頼んでみました。お値段はなんと120元(=約390円)。マンゴーや氷の量を加味しても、なんとも庶民的な価格です。とろりとしたマンゴー味の蜜がからめられた新鮮なマンゴーの下には、口の中でするりと溶けてしまうほど細かなミルク味の氷が入っています。

 2016年はお天気の関係で、マンゴーは不作だと聞いていました。ところがどっこい、ちっともそんなことを感じさせない、元気の出るお味でした。

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【お店データ】
JFK絵本屋(フォイベンウ)
住所/台北市承德路二段187巷3号1楼
営業時間/10:30〜19:00 月曜休
URL/ https://www.facebook.com/jfkbooks.net/

Profile

田中美帆

1973年生まれ。台湾在住のフリーランスライター。上阪徹のブックライター塾3期生。人生後半を自分のために使おうと、2013年に長年勤めた出版社を退社。念願だった中国語を学ぶため台湾に語学留学。1年で帰国の予定が、ホームステイ先で紹介された相手と2014年に国際結婚。現在は”台湾を書いて伝える”ことをなりわいとしている。

Pick Up Book

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