たいわんの本屋

田中美帆

たいわんの本屋

小小書房

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本で宿代が払えるゲストハウス

 こんにちは。台湾在住歴3年、ライターの田中美帆です。

 日本では「プレミアムフライデー」なる早帰りの制度ができるそうですが、日本にもあるといいのに、と思うものに「台風休み」があります。というのも台湾には、嫌というほど台風がやってきます。休みにするかどうかの決定は地方自治体が行い、主にテレビのニュース局を通じて発表されるため、台風の襲来前は誰もがテレビにくぎ付けです。日本が台風や大雪などに見舞われて、交通機関がパニックになっている様子を見るにつけ、台湾のような制度があればいいのに、という思いが頭をもたげます。

 そんなことを考えたのは、「晃晃書店(ファンファンシューディエン)」へ行ったから。台風と書店に何か関係が? それがあるんです。今回はそんな話から始めますね。

東海岸を襲う台風の猛威

 台北から台東まで在来線の特急に揺られること約4時間。その日は天気がよく、真っ青な海岸線を楽しんだと思ったら、いつの間にか切り立った山々が車窓の両側に広がっていました。切っ先が勢いよく天に伸びる姿は雄々しく、左右を山脈に挟まれた景色は、日本でも、台湾の西側でも見たことのないものでした。

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 どこかのんびりした雰囲気漂う台東駅を降り、タクシーでお店に向かいました。ところが、約束の時間になっても、オーナーの羅素萍(ルオ・スーピン)さんは不在。ずいぶん経ってから「遅くなってすみません。少し離れた先住民の集落に、本を届けに行ってたんです」と現れました。

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「この間の台風で、あちこちの本がずぶ濡れになっちゃったんですよ。それで、何かできないかと考えて、台湾政府の補助金で本を届けることにしました。届け先の一つは教会だったんですが、牧師さんに本を届ける話をしたら喜んだのなんの! 何より、子どもたちがとってもうれしそうでした」

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 2016年夏の台湾は、たび重なる台風の襲来に悩まされていました。日本よりも赤道に近い台湾には、結構な確率でやってきます。しかもその威力を落とさないまま。特に、海を目の前にする東側は、その猛威にさらされます。台北でも、木が折れたり、看板が曲がったりといった被害はありましたが、台東はまったくその比ではありませんでした。

 そんな話を聞いている横を、お店のネコたちが、のんびりフリースタイルで歩き回ります。素萍さんがご主人と2004年に台北から移り住んだときは1匹だったはずが「いつの間にか増えちゃったの。なんでだろうねえ」と素萍さん。ちなみに、ここの店の本すべてにカバーがかかっているのは、ネコがかじらないようにするため、なんだとか。

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 建物は3階建てで、1階は書店、2階と3階はゲストハウスというつくりになっています。そう、ここは、晃晃民宿というゲストハウスと兼業の本屋さんなのです。

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 1階の入り口すぐのところにキッチンがあり、その横を抜けるとカフェコーナーで、壁沿いの本棚には新刊が収められています。仕切りにもなっている階段の向こう側には古本が置かれます。その奥には、宿泊者向けの冷蔵庫、電子レンジ、洗濯機がありました。

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 ゲストハウス部分は2階が男性、3階が女性の宿泊スペースで、各階にシャワーがあって1泊なんと500元(約1,750円)。入り口前には貸し出し用の自転車があり、修理は素萍さんのお父さんが担当しているのだそう。

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「本屋を収入の柱にしない」本屋

 取材日には、香港、日本、台北、高雄からのお客さんがゲストハウスに宿泊していました。皆、晃晃のウェブサイトを見てやってきます。サイトは、フェイスブックページも、独自ドメインのサイトもあり、後者にはフランス語も日本語も用意されています。翻訳は、お客さんが手伝ってくれたのだとか。

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「ゲストハウスを始めてからは9年、古本屋は6年になります。昔、出版社に勤めていたんですよ。小さな会社でしたが、文学系の雑誌や小説などを出していました。だから本屋の難しさはわかっていましたし、最初から絶対に本屋を収入の柱にしてはいけないと思っていました」

 台北生まれの素萍さん夫妻が「今の時代、台北でなくても仕事はできる」と台東で暮らし始めたのは2004年のこと。ほどなくして自宅の空き部屋に、バックパッカーを受け入れるようになりました。次第にお客さんの数が増え、2011年にゲストハウスをオープンします。今回うかがったのは実は2号店で、2016年に始めたばかり。

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「2号店を開くなんて、まったく計画にありませんでした。父が、銀行にお金を預けていても利子がつくわけでもないし、家を買って家賃収入で暮らしたい、と言い出したんです。そうなると管理人もいるし、家賃を収めてくれる人も必要です。それで『私が借りて家賃収めることにするのはどう?』と提案して、この店ができました」

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 晃晃の2つのお店は、さまざまな点で違いがあります。まずは品揃え。古本がメインだった1号店に対し、2号店は新刊が多く、古本は少なめです。そして立地。1号店は比較的交通の便がよいうえに繁華街と近いため、観光客が多いのだとか。つまり、お客さんの目当ては必ずしも本ではなくなるわけです。逆に、2号店のお客さんは本かネコの好きな人。だから本かネコが好きな人なら、不便さをものともせずにやってくるのだとか。

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台東の交流基地として

 取材前まで、てっきり本屋がメインなのだとばかり思い込んでいましたが、真逆という話を聞いただけでも、はるばる台東まで来た甲斐があったというものです。しかもこのゲストハウス、古本を持ち込めば宿代に換えられる、という独特のシステムがあるのです。

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「普通の古本屋なら、お客さんが持ってきた本を買い取って店で売りますよね。でもねえ、売れるかどうかわからない本が続々と送られてくるようでは困るわけですよ。そこで考え出したのがゲストハウスの宿代に換える、というアイデアでした。これなら事前に書名を知らせてもらって、こちらで選書もできますし、品揃えが充実すれば来た人たちが台東で楽しんでくれる。それはこの土地にとってもいいことですよね」

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 そうやって人と本のやってくる晃晃でのイベントは、実にバラエティに富んでいます。新刊の著者が講演会をすることもあれば、海外のバックパッカーの話を聞く会があったり、時にはドキュメンタリー映画の上映会なんてのもあります。

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「ゲストハウスだと、泊まる人以外は訪ねてきませんよね? だけど、本屋なら本を買いに来る人たちがふらりと入れる。双方が交流したら面白いんじゃないかと思ったんです」

 確かに、異質の人たちが交差すると、そこには新たな流れが生まれます。

「うちのお店は、よく書店の仕事という枠を超えるんです。たとえば映画が観たくてもこのあたりには映画館がありません。自分ひとりなら電車の切符を買って台北まで観に行けますが、それじゃおもしろくない。店で何かできないかなあと考えるんです」

 ザ・本屋というより、まるで交流基地のような場所。その流れをつくりだしているのは、間違いなく素萍さんの伸びやかな思考でした。

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若者の間で詩集が人気な理由

 さて、素萍さんに売れ筋の本をピックアップしてもらったところ、2冊の詩集を紹介してくれました。『你沒有更好的命運』(任明信著/黒眼晴文化)、『在黑洞中我看見自己的眼睛』(徐珮芬著/啟明出版)がそれ。ここ数年、台湾では若い人たちの間で詩集が人気なのだそう。

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「台湾では日本の詩人として、谷川俊太郎と宮沢賢治が知られています。この前も、ドラマ『重版出来!』が放送されて、宮沢賢治が紹介されるとすぐに反応がありました。......なぜ台湾の若い人たちの間で詩が流行るのか、ですか。はっきりしたことは言えませんが、昔に比べると待遇面などで苦境にある世代だというのはありますね。将来に希望が持ちにくい状態、というか。それをわかってほしい、と詩という表現で昇華させているのかもしれませんね」


台湾先住民部落の味を提供

 いつものように、ご近所のおいしいものを尋ねると「台湾の本屋さんで、これが食べられるのはうちの店だけだと思いますよ」と素萍さんが出してくれたのは台湾先住民・ルカイ族の方が手作りしたという「阿粨」(80元)。

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 ゲットウの葉に包まれて蒸したアワの中に、塩味の効いた豚肉が入っています。ちょっともっちりした皮の中から、いい具合のしょっぱさが口じゅうに広がり、ぺろりと平らげてしまいました。食いしん坊の本領発揮!

 一緒にいただいたのは、アワで作ったお酒「小米特調」(120元)。アルコール度数は一般に15度ほどのお酒ですが、晃晃の小米酒はやや強めかも。ほろ酔い気分で、ゲストハウスで就寝しました。


【お店データ】
晃晃書店
住所/台東市漢陽南路139-1(2号店)
営業時間/14:00〜22:00(金土は23:30まで)、火曜日定休
URL/ https://www.facebook.com/089catbooks/

Profile

田中美帆

1973年生まれ。台湾在住のフリーランスライター。上阪徹のブックライター塾3期生。人生後半を自分のために使おうと、2013年に長年勤めた出版社を退社。念願だった中国語を学ぶため台湾に語学留学。1年で帰国の予定が、ホームステイ先で紹介された相手と2014年に国際結婚。現在は”台湾を書いて伝える”ことをなりわいとしている。

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