たいわんの本屋

田中美帆

たいわんの本屋

小小書房

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古本と手作り野菜を交換できる本屋

 こんにちは。台湾在住歴3年、ライターの田中美帆です。

 海外暮らしでこれだけは日本産じゃなきゃだめ、と思ったのがお米です。お米への愛が強すぎて、日本では産地直送かつ自分で精米していたほど。同じお米を食べたくて、一時帰国でスーツケースに詰めて帰ってきたり、台湾旅行に来る日本の友人に運んでもらったりと、苦心していました。滞在歴の長い友人たちは台湾産のお米を食べていると聞いても、自分に日本のお米を手放す日なんて来ないと思っていました。

 毎度運ぶのは難儀だなあと思い始めた矢先に訪ねたのが、宜蘭にある「小間書菜(シャオジエンシューツアイ)」さんです。さて、本屋のはずがお米の話とは、こはいかに。今回はここから始めていきましょう。


 見晴らしのよい交差点の角で

 台北市内で宜蘭へ向かうバスをよく見かけます。台北と宜蘭の間には地盤の硬い山がそびえていて、10年ほど前までは、北東の基隆市周りで宜蘭へ向かっていたとか。2006年にその山を貫くトンネルが完成し、宜蘭は今や台北の通勤圏へと変わりつつあります。
 今回は、在来線で台北から1時間ほどかけて宜蘭駅へ向かい、そこで市内バスに乗り換えました。観光バスのような大型の車両でしたが、途中のスーパー前で買い物帰りとおぼしきお年寄りたちがどっと乗り込んできました。手には、日用品や食材でいっぱいの手提げやカートを握りながら。

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 「惠名橋」というバス停で降りてしばらく歩くと、交差点の角に三軒くっついたような平屋建てがあります。それが小間書菜です。交差点とはいえ、人通りはほとんどなく、時折、店の前を車が行き来する程度。周囲には高い建物がないので、遠くまで見渡すことができ、なんだか広々とした気持ちになりました。
 日本でいうなら、郊外通勤圏で農家もある高尾や青梅、いや、宜蘭の特産はネギですから埼玉の深谷のほうがイメージに近いでしょうか。つまりは、都心からある程度離れ、どこかのどかな雰囲気が漂っている地区です。
 入り口には、黒板に店名の手書された看板が置かれていました。店前でくつろいでいた犬がこちらに気づいてだーっと走り寄ってくるのを避けながら、中へ入りました。

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 まるで道の駅ような。

 「最近、編み物にハマってるの。帽子編みながらでもいいかな?」という彭顯惠(ポンシエホエ)さんの勢いに押されて取材が始まりました。
 「農業をやりたい」と言うご主人の希望で顯惠さん一家が宜蘭に移り住んだのは、2013年のこと。本屋は、顯惠さんが本好きで、ご主人の作った農作物を売るための場所になる、と考えてスタートしました。

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 「それまでは台中に住んでいましたが、台北や台中って車も人も多すぎるんですよ。今年の旧暦のお正月に実家のある台北に戻りましたが、アレルギーの症状は出るし、熱は出るし、めちゃくちゃしんどかったです。取り立てて買い物好きでもなければ、頻繁に外出するほうでもない。それって日本だと〝オタク〟とか〝腐女子〟とか言うんでしょう? 私も1日中家にいてホコリかぶってるよ、というタイプ。だから静かな宜蘭に来て本当によかったと思っています」
 思いがけないワードが出てきましたが、顯惠さん、実は『夏子の酒』『銀の匙』『リトル・フォレスト』『玄米せんせいの弁当箱』などのコミックも読破したというほど日本の漫画好きで、中でもガンダムの大ファン。ナルホドとうなずいてみたものの、店の中は静かどころかたいそう賑やかなのです。

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 ど真ん中には青物野菜などがザルにダイナミックに盛られ「採れたて!」と主張しています。そこから奥に向けた平台の棚には、米やパン、左の壁には7割ほど埋まった本棚、右手は古本に始まり、生産者の直売コーナー、新刊の棚、販売用の冷蔵庫と続き、いちばん奥にレジが設けられています。店の隣には、顯惠さんのご主人が手がける小さな畑があり、そこに生えている野菜は土つきのまま直接買うことができるそう。本棚がなければ、まるで道の駅です。

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 そう広くはないスペースに、私がいる間だけでも次から次へとお客さんがやってきていました。「これがおいしいんだよ」と大量にコッペパンを買っていく人(確かに美味!)や、「あのお米、まだある?」と立ち寄った常連らしき人、そうかと思うとカメラを手にした旅行者らしきお客さんの姿もありました。


 食と農で地域にねざす

 扱っているのは基本的に小説の古本ですが、新刊コーナーは若干、毛色が違います。《餐桌上的世界史》(邦題:知っておきたい「食」の世界史/宮崎正勝著)、《聰明女子好廚藝》(邦題:聡明な女は料理がうまい/桐島洋子著)、あるいは、都会で働く女性が夜中に作る料理をまとめた《深夜女子公寓的料理》、魚と野菜を同時に育てるノウハウをまとめた《魚菜共生》など、食や農をテーマにした本が並びます。そして、POPにはこんなコメントが書き添えられていました。
 「小間は、宜蘭という農村にあるとっても小さな書店です。だから食や農に関する本は絶対に必要だし、皆さんにもこうした本を通して、毎日食べているものや自分たちが暮らす土地のことを知ってほしい。それが、新しい農村の価値を求める小間が宜蘭にある意味だと思っています」
 この宜蘭という地をきちんと見据えてこその言葉です。そして、顯惠さんはこんなふうに自分たちの店を表現するのです。
 「今年の2月、日本のTSUTAYAが台湾に書店を出しました。それにショックを受けた個人書店もあるようですが、私は気にしていません。小間は食べ物や農業というTSUTAYAとは異なるコンセプトを掲げて、店には私の選んだ本と、旦那や近隣の農家の人たちの作った野菜や商品が並んでいます。こういうやり方は、外から来た人には決して真似できないと思いますし、向き合うお客さんだって違うはずですからね」

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 さらに小間オリジナルで面白いのは、古本を持っていくと野菜と交換できる、というサービスです。
 「古本だからといって、何でもいいわけじゃないですよ。一度、頭にきたのは大量の参考書を持ってこられたこと。こんな場所で参考書なんか持ってこられて誰が買うの、って話ですよ。もちろん断りましたけどね」
 「自分たちがこうしたい、と思うことをやるようにしています」と明言する顯惠さん、最近では不定期で食堂も開くなど、新たな取り組みも始めています。

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 台湾作品と自家製のお米

 おすすめの本を訊ねてみたところ、顯惠さんが手にしたのは『洪醒夫集』でした。
 「洪醒夫は台湾の農村に暮らす人々の物語を描いた作家です。私は家庭環境もあって、中国の作品や外省人作家の作品を読んで育ちました。その後、台湾生まれの作家の作品を読んで、私の育った公務員ばかりの家庭とはまるで違っていることに、すごく衝撃を受けたんです。台湾の農村を理解するにはぴったりだと思いますよ」

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 せっかくなので、農産物のおすすめも訊ねてみました。農薬や化学肥料を使わずに栽培していて「やっぱりこれかな」と出されたのは、ご主人たちの作るお米でした。実はワタクシ、台湾で白ご飯を食べるたびに(なんだか違うな...)と思っていたのですが、そもそも品種が違うこと、そして台湾ならではの事情があることを教わりました。
 「コシヒカリは、緯度の関係もあって台湾では育ちにくいんです。それで台湾ではコシヒカリの改良品種が出回っています。口当たりがちょっと違いますが、言ってみれば3分の2はコシヒカリです。粘り気、甘みなど、日本のお米にはかないませんが、それでもかなりいい出来だと思いますよ」
 取材の終わりに「ま、いいから食べてみて」と渡されたのは、タイ米に似た細長い拓稲十号長米が入った1袋2キロのお米(320元)。通常わが家で買うお米は200元を下回るのですが、栽培にかかる手間を考えれば決して高くありません。「炊くときの水はいつもの8割くらいでいいからね」と言われるままに家の土鍋で炊くと、あっさり軽く、でもしっかりお米の味のするご飯になりました。
 いただきながら、これからは台湾産のお米を買うことにしよう、と決めたのでした。

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【お店データ】
小間書菜
住所/宜蘭県員山鄉尚深路124号
営業時間/水〜日10:00〜17:30 月火定休
URL/ https://www.facebook.com/bookvegetable/

Profile

田中美帆

1973年生まれ。台湾在住のフリーランスライター。上阪徹のブックライター塾3期生。人生後半を自分のために使おうと、2013年に長年勤めた出版社を退社。念願だった中国語を学ぶため台湾に語学留学。1年で帰国の予定が、ホームステイ先で紹介された相手と2014年に国際結婚。現在は”台湾を書いて伝える”ことをなりわいとしている。

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