たいわんの本屋

田中美帆

たいわんの本屋

小小書房

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街の水先案内人となる本屋

 こんにちは。台湾在住歴3年、ライターの田中美帆です。

 取材では、時折、思いもよらぬ展開に出くわします。以前ご紹介した台東の晃晃書店(第10回 本で宿代が払えるゲストハウス)に伺ったのは、昨年10月のこと。その晩、ゲストハウスでオーナーさんたちやお客さんと夕飯をいただいていたら1人のお客さんとこんな会話になりました。 

「今度、どこを取材する予定ですか」
「高雄のお店です」
「なんていうお店?」
「三餘書店というお店に行こうかと」
「そこ、私の実家なんです」

 なんと、その方のご実家の建物は貸し出されて本屋さんになっており、私はそこへ取材に向かおうとしていたわけです。

 そんな、なんとも不思議なご縁に始まったのが、今回ご紹介する「三餘書店(サンユーシューディエン)」です。

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 丁寧に保存された個人宅が本屋に

 台北から南部の高雄市へは、高鐡と呼ばれる高速鉄道でおよそ1時間半かかります。高鐡終点の左営駅と、MRT美麗島駅で乗り換え、文化中心駅で降りて出口をまっすぐ数分でお店に到着です。

「え、うちの大家さんに会ったんですか。しかも台東で? おもしろいですね」

 三餘書店の創業者の1人、謝一麟(シエ・イーリン)さんへの取材は、やはりこの建物の話から始まりました。

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「見学してみんなが気に入りました。普通、このくらいの古い建物になると、水漏れや床板の凹みなどがあるものですが、保存状態がとてもよくて、私たちが初めてここを訪ねて来た時から、ほとんど手を入れていません」

 今では左右を高い壁に囲まれてしまったけれど、このビルが経った当時、田んぼばかりの周囲でいちばん高い建物だったそう。地下1階、地上3階の全4フロアで、本が置かれているのは1階だけです。地下はギャラリー、2階はカフェ、3階はオープンスペースで映画の上映会や講演会などが開催されています。本屋というより、まるで建物全体が文化の発信基地のよう。

「全フロアに本を置くことは考えませんでした。というのも、フロアに置く本を仕入れるということは、それだけ資金が必要になります。入れたとして、フロアごとにスタッフが必要になってしまうと、もっと大変ですからね」

 理想を追求したフロア構成なのかと思いきや、ビジネスとして成り立たせることをしっかり計算した上での構成なのでした。

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 創業者5人で会社を設立

「台湾の個人経営の書店の中でも、うちはちょっと特殊かもしれません。大半は、オーナー夫妻で経営していて、社員などはいないお店が多いと思いますが、うちは会社として5人で創業しましたから」

 創業者として集ったのは、高雄映画祭スタッフ、デザイナーなど多彩な顔ぶれ。今では、5人のスタッフがお店で働いています。高雄といえば、カフェや最新式の貸し出しシステムも備えたおしゃれな図書館があり、大型チェーン店ももちろん出店しています。読書空間の充実した街で、自らの立ち位置をどう受け止めているのでしょうか。

「昔の雑貨店みたいな存在ですかね。雑貨店のおばちゃんは、醤油を買いに行けば、いつもの醤油を出してくれる。それができるのは、親の腎臓がよくないから減塩タイプにしなきゃ、みたいなところも含めて、うちのことをよく知っているからですよね。スーパーの売り場には醤油がたくさんありますけど、多すぎて選ぶのが難しい。本でいえば、ほしい本に出会うこと自体が難しい時代です。だからこそ、本と出会わせてくれる存在が必要です。そういうことができるのは、やはりこの規模の本屋だからですよね」

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 雑貨店さながらといっても、黙ってお客さんを待っているわけではありません。2016年秋にはLINEのアカウントをつくり、その週のイベントなど、店からの情報を登録者のスマホに直接届ける仕組みを整えました。

「今は誰もが忙しい上に、各地でイベントが行われます。興味関心のある分野に関する情報を得たいと思っても、それを入手するところからまず難しい。日本ではツイッターを情報源にする人が多いそうですが、台湾ではFacebookの利用者が多いんです。ただ、情報を届けるという面から見ると十分ではありません。そこで、一人一人に届ける方法としてLINEをつくりました。開設から半年ほどですが、だんだん利用者が増えています」

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〝自信のなさ〟を前向きな力に

 三餘書店の棚づくりには特徴があります。地元、高雄に関係する書籍を多く扱っていることです。

「台湾のちょっとおかしな点として、海外の、たとえば日本の京都の本を扱っている本屋は多いのに、自分たちの地元の本を扱わないということがあります。これ、なんていうか、自信がないからなんですよ」

 ん? 「自信がない」とは、どういうことでしょうか。

「たとえば隣の台南なら、おいしいものがたくさんある、といったふうに、どこも何かしら自慢できるものがあるわけです。一方、高雄は都市としての歴史が比較的浅く、工業都市で、雲林、澎湖など、ほかの土地から労働者として移り住んできた人が多い。そういう背景があって、自分たち自身が高雄のことをよく知らない。そうした土地のニーズを見出すのは、やっぱり、こういう本屋だからこそできることだと思います」

 自分たちの街を誇るには、まず自らを知ることから--話を聞きながら、日本の公共図書館の大きな役割の一つに郷土研究がある、とどこかで読んだことを思い出していました。

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 高雄の地をより深く理解する

 一麟さんに、最近の売れ行きのよかった本をあげてください、とお願いすると、真っ先に手にしたのが『靜寂工人:碼頭的日與夜』でした。このコラムで以前、基隆を舞台にした作品として紹介した1冊です。

「高雄も基隆と同じ港町ですので、同じような話はきっとたくさんあると思います」

 確かに、高雄は現代の基隆といえそうです。中国大陸との交易で栄えた鹿港、日本時代には基隆。そして現在台湾きっての港湾都市となったのが高雄と、台湾の港町として栄えた場所は、時代と交易相手に合わせて変化しています。

 さらに1冊あげたのが高雄にまつわる『正在壽山上空』です。本書の舞台は高雄市の西南部、海岸沿いの区域に「寿山国家国立公園」があります。「台北だと、山に登るにはちょっと足を伸ばさなければなりませんが、高雄の場合はすぐ。30分で着いちゃいます」と一麟さん。それほど近くにある存在なのに、なぜ寿山と呼ばれるかを知る人は多くないそう。またサンゴ礁の地質が見られ、石灰にまつわる産業が発展してきた歴史などにも触れられていて、まさに高雄を知る1冊といえます。

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 独立したパティシエのお店へ

 三餘書店での取材を終え、いつものように付近のおすすめとして紹介されたのが、タクシーで10分ほどの小さな路地にある「日食生活(リーシーシェンホオ)」です。ここは、三餘書店の2階でスイーツを提供していた江舟航さんが、もっといろいろな商品を作っていきたいと独立したお店です。1階はカフェとして、スイーツなどが提供されるほか、2階では料理教室も開かれます。

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 いただいたのは、台中のお菓子として有名な「太陽餅」に似た3つの「小陽餅」と台中の日月潭野放茶(120元)。ふうわりと少し甘い香りが漂いますが、飲んでみるとすっきりとしてお菓子の甘さにちょうどよいお味でした。

 お茶をいただきながら、三餘書店から広がるご縁を振り返らずにいられませんでした。そうそう、本屋のスタッフとして働く女性も、その昔、何度も取材したことのある日本語学校で日本語を学んだ方でした。台東と高雄、台湾と日本、いろいろなご縁を感じた1日でした。

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【お店データ】
三餘書店
住所/高雄市中正二路214号
営業時間/日〜月13:30~22:00 火定休
URL/ https://www.facebook.com/takaobooks214/

Profile

田中美帆

1973年生まれ。台湾在住のフリーランスライター。上阪徹のブックライター塾3期生。人生後半を自分のために使おうと、2013年に長年勤めた出版社を退社。念願だった中国語を学ぶため台湾に語学留学。1年で帰国の予定が、ホームステイ先で紹介された相手と2014年に国際結婚。現在は”台湾を書いて伝える”ことをなりわいとしている。

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