『全員少年探偵団』刊行記念対談

喜国雅彦 × 藤谷治

『全員少年探偵団』刊行記念対談

撮影:土居麻紀子

少年探偵団オマージュ第1弾『みんなの少年探偵団』に続く『全員少年探偵団』の刊行を記念して、乱歩をこよなく愛する二人の対談が実現! 乱歩の魅力と本作の秘密について熱く語っていただきました。

乱歩の文章の美しさ

藤谷治(以下、藤谷) 「少年探偵団」だけ読み返したことあります?

喜国雅彦(以下、喜国) ありますよ。文章自体はすごく平易な言葉なんですけど、きれいなんですよね。

藤谷 そうですね。たとえばピストルの「銃口」って乱歩は絶対言わないですよ。「つつ先」って書いてあるんですよ。「つつ先」が好きで、『みんなの少年探偵団』(アンソロジー)のほうで使いました。

喜国 さすがに東京書籍から出ていた辞典(『江戸川乱歩小説キーワード辞典』)にも「つつ先」は出ていないかもしれない。

藤谷 『大金塊』を読んでいた時に、はっ! と、こういうのをちょっと生かすのがいいと思って、どういう日本語が使われているか考えながら読んでいったんですよね。

喜国 僕は声優さん達が朗読している乱歩のカセットテープがあって、車の中で運転しながら聞いたときに、初めて、ものすごく美しいと思ったんです。「なんとかしました」「どうしました」って、文章が続いているでしょ。こっちは内容を知っているから、次にこういう単語が来るだろうと予想するんですけど、それより平易で美しい単語が出てくるんです。読んでる時は何も思わず、先々読んでいくんですけど、耳で聞いていると読むより時間がかかるので予測できるんですよね。それを予測して待っていると、あら違ったとか、雲が広がる様子がこんな簡単な単語を並べただけで、おどろおどろしく聞こえるのかとか。

藤谷 喜国さん、たしかツイッターでも以前そんなお話してましたよね。だから横溝正史のほうがはるかに映像に出来るって。

喜国 そうですね。横溝正史は読んだ通りなので映像化に適しているけど、乱歩はイメージなので。

藤谷 言われたことはすごく怖いんだけど、絵にするとちゃっちいというか、これはないだろうっていうね。

喜国 作家性が出すぎちゃうんですよね。

藤谷 だから『全員少年探偵団』を書くときにちょっと注意したというか恐れたのは、常識的なトリックが思いついたらどうしようということなんです。

喜国 ああ。ムチャじゃないといけない。

藤谷 そうそう。最初は、二十面相なんか全然ミステリーじゃないんだから、ベリベリって(変装のマスクを取るしぐさ)やって、はがしたら二十面相でしたって書けばいいんだ、って思ったんだけど、そうはいかんぞ、と。つまり生々しい「時間トリック」とか「列車トリック」とかそういうことはだめだし、といって子どもを馬鹿にしているのとは違うんですよね。

喜国 そう。だって何でもアリというと逆に難しいですよね。

藤谷 そうなんですよ、逆にね。

喜国 誰かが線引いてくれたり、ここまでですって言ってくれると、ここで攻めたいと決まるけど、線がないですって言われたらどこまでやればいいのかと思いますね。

藤谷 今言ったようにほんとにルールも無ければ困るという。だから当時のポプラ社で他のミステリー作家も書いていますけど、やっぱり乱歩が一番面白いんですよね。

場面場面の思い出

藤谷 「少年探偵団」シリーズでは何が印象に残ってますか? やはり最初のほうの巻ですか。

喜国 それぞれ場面場面ですね。塔の上に立つ二十面相とかね。大金塊の暗号とか、青銅の魔人が歩くとことか。カーテンからのぞいているつつ先と靴だけが何時間も動かずにいたりして。

藤谷 僕は『塔上の奇術師』の、あと3日後に連れてくぞ、とかそんなシーンが印象に残ってます。こういうの怖いんだよな。

喜国 後ろの巻になるとイライラして読んでました。なんで明智はずっと横についていないんだとか、なんで部屋をがら空きにするんだとかね。お宝も明智が持っとけよとか。

藤谷 それは『全員少年探偵団』で書きましたよ。なんで持っておかないんだ、自分のとこで保管すればいいじゃないかって。

喜国 読んだ当時は小説をお書きにならなかったんですか。

藤谷 小学生とか中学生のときですか。書いたと思います(笑)。

喜国 僕も「少年探偵団」を読んだあとにすぐ書きたくなったんですけど、やはり後に物書きになる人はだいたいそこでみんな書いてますね。

藤谷 小学5年生くらいのときに書きましたよ。恥ずかしいですよ。

オマージュへの挑戦状

藤谷 今回の『全員少年探偵団』では結構くさい計算をしているんですよ。殺人事件を起こさないとか、子供に危険なことはじつはあまりさせてないとか。だからもしPTAが査察でこれを読んでも何も文句が出ないようにしているんですよ。

喜国 本家のほうも、良い子達は夜に家にいるので、いけないことをするのはチンピラ別働隊ですよね。

藤谷 あれもなんか社会的な階級差別のような気もしますね。でもそのあと続くリライト作品はもっとおどろおどろしくなってくるわけです。だから僕の後の人のオマージュはグロくてもいいんじゃないかという気もしますよ。

喜国 本当にバラバラ死体があったらマズくても、バラバラ死体に見えるけど最後まで読むと実は違ったとか。

藤谷 『全員少年探偵団』は挑戦状的なところがあるわけです。随分しっかりパスティーシュをやりました。さあ、みなさんどうしますかと。

喜国 だってこれに続く人たちは、本当の探偵団から名前を取らなければいけないという暗黙のルールができましたよね。一番最初に浮かぶのは羽柴君ですけど。

藤谷 後は、女の子はマユミさんとか。

喜国 大人は服部さん。

藤谷 警部は中村。それから内容的にもスマホもパソコンもある時代の少年探偵団としてムードを完璧に今に生かせたという自負もあります。

喜国 今やホームズでさえスマホ持ってますからね。

藤谷 少年探偵団、俺だってやりたいって思ってる推理畑の人や作家の人っていっぱいいると思うんですけど。やってごらんなさい(笑)。

喜国雅彦のオマージュは

喜国 これで終わりですか。この次は書かないんですか? 

藤谷 いくらでもやれるという、やりたくてしょうがない気持ちと、出し切ったという気持ちで、引き裂かれます。それから少年探偵団であり、少年探偵団論でもあったので、少年探偵団に関するオマージュ・リスペクトというのはやりきったような気もします。ただ、『みんなの少年探偵団』というアンソロジーの総合タイトルが決まる前に『全員少年探偵団』というタイトルを僕は思いついていたもんだから、その時には「全員二十面相」というのを考えもしたけど、何かアイディアがあるわけではありません。

喜国 でもアイディアって後からですからね。小さな種があるないは大きいですよ。タイトルが浮かんでたらすぐ出来ます。

藤谷 それから妙にこれが売れちゃったりしたら、柳の下のドジョウをやってやろうという気はありますよね。案外コウモリはシリーズの中で使われてないなと思ったから『全員少年探偵団』ではコウモリ紳士にしたんですよ。そういう消去法的な発想だったんです。喜国さんこそ、そろそろ解禁しないんですか。

喜国 そうなんですよ。死ぬまでには書きたいと思っています。明日までの命かもしれないし、書くなら急がないと、という思いはあります。

藤谷 でもオマージュやるなら乱歩ですか。

喜国 オマージュなら乱歩でしょうね。小説家で好きなのは乱歩と谷崎潤一郎なんです。谷崎的なのは一度漫画で描きましたが、もう一度やりたいなというのもありますし。乱歩も谷崎は好きでしたしね。

藤谷 横溝正史もそうだと思うけど、相互影響関係が当時はすごくあったと思うんです。乱歩の影響を三島由紀夫が受けたり、その三島の影響を受けた耽美派の作家が出てくるし、という良い相乗効果があった。

喜国 耽美派でいうと泉鏡花から始まって佐藤春夫とかの流れはありますよね。

藤谷 そして谷崎と乱歩は以降、頂点を極めたんですもんね。

喜国 もし僕が書いたらポプラ社さんにお願いしよう。

藤谷 そうですよ。だってこの後も書き下ろしオマージュを他の作家がやるんですよ。これは僕が書いた小説の中で、書くのが一番楽しかった。

喜国 でも、一番楽しいのをやっちゃったら困りますね。

藤谷 そうなんです。だからこの小説に関しては自画自賛しかしない、と決めました。でも、そのプロトタイプを作ってしまえばすぐに書けますよ。僕は実は3月くらいに書き終わってました。まして喜国さんのような詳しい方で、ビジュアルイメージがある人が書いたらどうなるのか、というのはぜひ知りたいです。僕は今回書いて自分の書いたものに不服は全然ないですが、やっぱりビジュアルで浮かべることがなかったなと思うこともあるので、ぜひ。

喜国 よく生まれ変わったらあれしよう、これしようと言い続けていましたが、ここまで生きてくると生まれ変わらないのを知ってるし、それを認めたんです。だから生まれ変わったらミュージシャンになるんだとか言ってたけど、それはないから最近僕は音楽活動をやっているんです。生まれ変わったら乱歩書こうと言ってたけど、生まれ変わりはないと認めて。

藤谷 もし生まれ変われても前世の記憶はないからね。

喜国 もしかしたら虫に生まれ変わるかもしれないし、そうしたら書けないしね。来世と言ってないで現世で考えないといけない。そういう意味で刺激になりました。


再現!小林少年の変装道具!


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『怪奇四十面相』にて小林少年が百科事典の背表紙を背中につけて本棚に変装するシーンがありますが、喜国さんがなんと自作で再現!

折りたたみ式の変装道具を広げてみれば、まるでソファーに本が並んでいるかのようにしか見えず、まさかその後ろに喜国さんが隠れているとは思いもよらぬことでしょう。

本の後ろには喜国さんが横たわっています。

この変装道具の詳細を知りたい人は、喜国雅彦さんの『本棚探偵 最後の挨拶』(双葉社)にてご確認ください。

『全員少年探偵団』
藤谷治/著

全員少年探偵団

本の詳細はこちら>>

Profile

喜国雅彦

(きくに・まさひこ)
漫画家。1958年、香川県生まれ。「ふぉ〜てぃん」にてデビュー。著作に『傷だらけの天使たち』『月光の囁き』など多数。古書収集の趣味を生かしたエッセイ「本棚探偵」シリーズも手がけている。

藤谷治

(ふじたに・おさむ)
作家。1963年、東京都生まれ。2003年『アンダンテ・モッツァレラ・チーズ』でデビュー。2010年には『船に乗れ!』(三部作)が注目を集める。ほか著書に『花のようする』『現代罪悪集』など多数。

Pick Up Book

  • かがみの孤城
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お知らせ

Cov_Kuko_R.jpg『最高の空港の歩き方』の刊行を記念してトークイベント「夏休み、空の玄関で逢いましょう。」を7月23日(日)にジュンク堂書店大阪本店で開催いたします。いま空港がアミューズメントパーク化しています。ご当地グルメ、空港限定グッズ、お風呂、空港アート、飛行機撮影、工場見学ーー飛行機に乗る人も、乗らない人も楽しめる「空の玄関」の遊び方と、その背景にある「進化の理由」を『最高の空港の歩き方』の著者・齊藤成人さんと空港ファンであるイラストレーターの綱本武雄のふたりが熱く語ります。入場無料(先着40名)です。

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978-4-591-15498-4.jpgのサムネイル画像ポプラ文庫ピュアフル7月新刊『英国幻視の少年たち5 ブラッド・オーヴァ・ウォーター』発売を記念して、著者深沢仁さんから読者の皆さんに、抽選で、キーホルダーやコンパクトミラーなどの英国土産をプレゼントいたします。新刊オビの応募券にてご応募ください。詳細と英国旅行のミニレポートをこちらでご紹介しています。

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