<絶景・聖地巡礼>

増田ユリヤ

<絶景・聖地巡礼>

2

3つの宗教の聖地・エルサレムを歩く

これまで60あまりの都市を訪れ、取材してきた増田さん。今回も引き続き、最も印象に残った場所のひとつだというエルサレムを案内します。第2回目は、キリスト教の聖地「聖墳墓教会」で、人々の信仰に思いを馳せます。

聖墳墓教会(キリスト教)とヴィア・ドロローサ(悲しみの道)

 ゴルゴタの丘に建てられたという、キリスト教の聖地「聖墳墓教会」。イエス・キリストが磔刑(十字架の刑)に処せられた場所だというので、荒涼とした丘をイメージしていたが、それとはかなり違っていた。

 石造りの街並みの中に建つ、がっしりとした外観。開いたままの扉を入っていくと、まず目に飛び込んできたのが、ベッドのような形をした古い石の板と、その板に顔をすり寄せ、涙する人々の姿。あとからわかったことだが、この板は、十字架から降ろされたイエスが寝かされた場所だという。よく見ると、板がすり減って反り返っていた。

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十字架からおろされたイエスが寝かされていた場所。板に顔をすり寄せている人がいる

 

さらに左の方へ進むと、お堂のような円筒形の建物がそびえたっていた。イエスの墓である。手前に前室があり、その奥がイエスの納められた墓である。つい「ここにイエスの亡骸はあるのですか?」と近くにいた人に尋ねてしまった私だが・・・。しかし、亡骸があるわけはない。イエスは「復活」したのだから。このお堂は「復活聖堂」とも呼ばれている。

 教会内部は地上2階建てで地下もあり、お堂のある場所は吹き抜けになっている。ちょうど2階では、夕方の祈祷が行われていた。前回お話ししたが、私の父親が東方正教会(いわゆるギリシャ正教やロシア正教といわれる宗派)の信者で、私自身も洗礼を受け、子どもの頃は自宅にも祭壇があって父親の祈る姿やそのやり方を見てきたので、このとき行われていたお祈りが自分も知っているものだということに気がついた。つまり、聖書や祈祷文を「読む」のではなく、朗々と歌うように節をつけて、祈りをささげる人(司祭や神父)と信者が、時折掛け合いのように言葉を紡いでいくような手法である。日頃は信心深くない私ではあるが、あまりに懐かしい光景に、思わず子どもの頃のように祈りに合わせて胸に十字架をかいていた。

 宗教とはそんなものかもしれない。

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磔刑に処せられたイエスをまつる祭壇

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イエスの墓の前で、思わず十字架をかいた筆者

 

 聖地エルサレム旧市街の中には、イエスが十字架の刑を言い渡されてから、ゴルゴタの丘まで十字架を担いで歩いた足跡を追体験できるコースがある。それが「ヴィア・ドロローサ」。ラテン語で「悲しみの道」という意味だ。起点は現在のイスラム教徒地区で、イエスがローマ総督ピラトに有罪判決を言い渡された場所から始まり、聖書の記述にのっとって、聖墳墓教会内部にいたるまでの道のりに14の祈祷所(ステーション)が設けられている。イエスがローマ兵に鞭打たれ、茨の冠をかぶせられたという「鞭打ちの教会」(第2ステーション)には、大きな木製の十字架がおいてある。世界中から巡礼に来た信者たちは、ここから思いをひとつにして皆でこの十字架を担いで、イエスの足跡をたどりながらゴルゴタの丘(聖墳墓教会)を目指す。半ば観光化した感が無きにしも非ずだが、真夏の熱い日差しが照り付ける中、まっすぐ前を向いて歩みを進める人々の姿に、侵しがたい宗教の神聖さを見た気がした。

つづく

Profile

増田ユリヤ

神奈川県生まれ。国学院大学卒業。27年あまりにわたり、高校で世界史・日本史・現代社会を教えながら、NHKラジオ・テレビのリポーターを務める。日本テレビ「世界一受けたい授業」に歴史や地理の先生として出演のほか、現在コメンテーターとしても活躍。日本と世界のさまざまな問題の現場を幅広く取材・執筆している。主な著書に『新しい「教育格差」』(講談社現代新書)、『移民社会フランスで生きる子どもたち』(岩波書店)など。池上彰とテレビ朝日「ワイド!スクランブル」のニュース解説コーナーを担当。また共著に『世界史で読み解く現代ニュース』シリーズ(ポプラ新書)がある。

著者

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